BABYMETAL ARISES – BEYOND THE MOON – LEGEND – M – ポートメッセなごや公演 2日日 ライブレポート

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1.

BABYMETALはライブの中で生きている
「ライブの中だからこそ見せられるもの」を伝えていかなければならない
言葉ではなく、ライブで自分の意思を伝えられるようになりたい
――MOAMETAL(PMC vol.13)

 

 

少し気を緩めるたびに昨日の思量に耽っている。
数多の映像が脳裏に飛来すると自然と口元は緩む。
ホテルでは朗笑したものの、電車の中ではそういうわけにはいかなかった。
だが、この胸の高鳴りはとどまることをしらない。
期待に胸を膨らませると自然と声が漏れた。
まるで抑えがたい幸福の吐息を零すかのように。
「ARISES – BEYOND THE MOON – LEGEND – M -」ポートメッセなごや公演2日目。
たとえ昨日の初日公演とセットリストが同じだとしても、僕は大満足するに違いなかった。

 

思い返すと昨日の感動が蘇ってくる。
“モアバンギャ―”の披露までは想定の範囲内だった。
おそらくは多くのメイトもそこまでは予想していたことだろう。
しかしながら、まさかあのような新曲の披露があるとはまったく想像していなかった。
ESPのアコースティック・ギター「GrassRoots G-AC-50S」を情熱的に弾くMOAMETAL。
そして遅れて登場したSU-METALが美しい歌声を響かせる――。

 

 

従来の3人による歌い踊るショーとは別の、
SU-METALとMOAMETALの2人だけによるこの楽曲・演目は、
BABYMETALの新機軸であることは間違いない。
と思うのと同時に、あることをふと妄想すると、突然鳥肌が立った。
あたかもそれを祀るかのようにして、
ステージ中央に設置されたギターを中心に2人が歌い踊った演出は、ひょっとしたらだが、
昨年夭折した藤岡さんを偲んでのことだったのかもしれないし、違うのかもしれない。

 

 

初日のライブレポでそう記したが、その憶測が確信に変わったのは数時間後のことだった。
とあるフォロワーさんが投稿されたこの画像を目にした瞬間、再び鳥肌が立った。

 

 

 

ともにギターが映っている写真。
左は昨日のライブのシーン。右は生前の藤岡さんのライブの画像。
どうも2つのギターのモデルと型番は違うようだが、それは些細なことだろう。
同じような色・形状のギターを用意し、それを中心にして歌い踊る。
やはりあの新曲「Shining(仮)」での演出は、藤岡さんのためだったのだろう。
そしてあの素晴らしかったステージングを、これから改めて目にすることができる。
藤岡さんへの想いを胸に幻想的なショーを観覧することができるのだ。
会場に着くまでの幾ばくかの間、僕の頬はずっと緩みっぱなしだった。
2日目公演に対する想望の調子だけは、どうすることもできなかった。

 

 

 

 

2.

 

会場であるポートメッセなごやに到着したのは午後2時半頃。
まずは昨日と同じように神器の引換えを行う。
それから指定の場所へ移動し、開場の時を待つ。
少しばかり傾きかけた西日が容赦なく照りつけてくる。

 

 

 

やがて開場時刻となり入場開始。
昨日と違い、スムーズに進行する。
チケットに印字されているブロックは「S」。
フロアに入って確認すると、残念ながら最後方のブロックだった。

 

 

それならば俯瞰してショーを眺めよう。
僕はポジティブな気持ちを胸に指定のブロックへ入場していった。
昨夜見た情景が自然と脳裏に浮かび上がる。
ほとんど夢現を分たない気色で周囲に視線を彷徨わせる。

 

 

 

客入れBGM(SE)は昨日と似たようなラインナップだった。
Judas Priest、Sabaton、Arch Enemy、DragonForce、Megadeth、Pantera等々。
そして、今回もやけに Bring Me The Horizonの曲が多かった。
なにか意図があるのではないかと勘ぐってしまうほどの回数だ。

 

 

 

それは開演直前のこと。
照明機器の確認だろうか、2~3人のスタッフが急ぐ様子で梯子を上っていった。
手持ち無沙汰を感じているメイトたちの間からその都度、歓声が沸く。
どうやら準備は万端。
いつショーが始まってもいいように心の準備はできているようだ。

 

 

 

僕は微笑んだまま視線を落とし、左手に装着した腕甲冑を眺める。
これを使用するのはまもなく。
わかっていても、演出の一部を担うことができると思うとわくわくする。
そうして約12分ほど遅れてついに開演。
僕はカッと目を見開いて遠くのステージを凝視する。
抑えきれない翹望の念が、燃えるように瞳を火照らせている。

 

 

 

 

3.

セットリスト

01. Road of Resistance
02. メギツネ
03. Elevator girl
04. Distortion
05. 新曲 ind-metal(仮)
06. Starlight
07. シンコペーション
08. ヤバッ!
09. PA PA YA!!
10. ギミチョコ !!
11. KARATE
12. ヘドバンギャー!!(後半モアバンギャ―!!)
13. 新曲 インストゥルメンタル
14. 新曲 Shining(仮)
15. 新曲 アルカディア(仮)

 

静寂の中、重い鐘の響きが一定間隔でこだましている。
やがて5つのスクリーンにオープニングムービーが流れ始めると場内から拍手が沸き起こった。
が、ナレーションが始まった途端、場内は再び水を打ったように静まり返った。

 

 

1999年7月
空から恐怖の大王が来るだろう
エンジェルモア(大王)を蘇らせ
マルス(火星)の前後に首尾よく(幸せに)支配するため
そして輝けるXX世代(おうごんせだい)の新たな時代の到来と共に

 

 

冒頭のナレーションでは、そのようなことが語られた。
大きなライブでは必ず旬なネタのパロディをぶちこんでくるBABYEMTALだが、
今回はノストラダムスの予言集(百詩篇集)からの引用だった。
参考までに、その詩篇には以下の言葉が綴られている。

 

 

1999年、7か月
空から恐怖の大王が来るだろう
アンゴルモワの大王を蘇らせるために
その前後、マルスは幸運によって統治するだろう

 

 

ナレーションが終わると、フロアの真ん中にある八面体のオブジェが開き、
中からBABYMETALのクラッシュロゴが現れた。
これはmplusplus株式会社が開発した‟LED VISION FLAG”の技術を応用した羽LEDシステム。
羽の両面にLED4,600個を装着し、一つひとつを個別に制御することで、
様々なパターンをディスプレイのように表現する、次世代のパフォーマンス・アイテムだ。
そしてこの羽LEDが、さなぎから蝶に変わるかのようにゆっくりと広がっていき、
羽LEDが背中に取り付けられた、スケルトニクス株式会社開発の動作拡大型スーツが、
空中にふわりと浮かんで(実際にはワイヤーで釣り上げられている)、
メインステージの方へ羽ばたいていった。
広がった羽LEDには、MOAMETALの過去のライブ映像が流れ続けている。
そしてこの‟スケルトニクス スーツ”を装着して手動で羽LEDを動かしていたのは、
昨日と今日のライブの主役、MOAMETAL本人だった。
映像が揺れるという、まだ人間が知覚したことがない体験をしたメイトたちは、
ひっきりなしに歓声を送り、MOAMETALの聖誕祭を序盤から大いに盛り上げている。
装着している腕甲冑から放たれる数千の白い発光もオープニングの演出を美しく彩っている。

 

 

この荒れ果てた星を救うため 時代のメシアが舞い降りたのだ
この「日出ずる国」から新たな戦いの挑むのだ

そしてSU-METALとMOAMETALを支えるため
3人の勇敢なアベンジャーズがキツネ様によって召喚された。
本日はこの3人の「選ばれし勇者たち(The Chosen Dancers)」の中から
1人が降臨するが
誰が降臨するのかはキツネ様のみぞ知る

 

 

その後、再びナレーションが始まる。
3人のサポート・ダンサー(The Chosen Dancer)の1人が選ばれるという説明の後、
‟Vocal & Dance”と、SU-METALが紹介される。
刹那、フラッグを背負ったSU-METALにスポットライトが当たると場内が沸いた。
続いてMOAMETALが紹介されるとさらなる歓声が沸く。
さすがは彼女の聖誕祭といったところか。
そうして昨日と同じくいきなりの「Road of Resistance」でライブは始まった。
美しいギターオーケストレーションに合わせてメイトたちが拳を突き上げ大合唱している。

 

あちこちのブロックでWODが起こった後、場内はすぐさま狂騒の坩堝と化した。
フロアの熱気が一気に上がっていくのを肌で感じる。
目映く輝く白いライトが観客をより非日常の世界へと誘っている。
丸い移動式のステージ上で躍動する3人の表情はとてもいきいきしている。
今宵のライブのサポート・ダンサーを務めているのは、
横アリ公演2日目と同じく、現さくら学院生徒会長の藤平華乃だった。
2度目だからだろうか、ビジョンに映る彼女の表情からは少しの余裕も感じられた。

 

曲が終わり、3人を乗せたステージがゆっくりセンターへ移動する。
立て続けに披露されたのは「メギツネ」。
イントロが始まるなり、フロアの熱狂がさらに加速する。
見渡す限りに揺れる人の腕・腕・腕――。
‟ソレッ! ソレッ!”と飛び交う声が場内の空気を激しく震わせている。
間奏でMOAMETALが ‟ 今日は来てくれてありがとう ” と叫ぶと、
早くもクライマックスとばかりに割れんばかりの歓声がフロア全体を揺るがした。

 

場内は早くも興奮の坩堝と化している。
熱気溢れる状況の中、次曲「Elevator girl」が始まる。
SU-METAⅬが‟大人かわいいメタル”と形容した同曲。
なるほど確かに可愛いながらもクールな振り付けでキレよく踊るダンスは、
大人の女性に見られる‟しなやかな美しさ”を遺憾なく備えている。
シンクロナイズされたダンスは洗練されていて、麗しい3人からはひと時も目が離せない。

 

ライブはそのまま「Distortion」へと続いた。
チルボドの如き印象的なリフが奏でられると頭を揺らさないわけにはいかない。
轟音の中を突き抜けていくSU-METALの力強い歌声が自然と勇気を与えてくれる。
間奏のでのクラップ音は大音量。
‟名古屋! Everybody screams!” とSU-METALが叫ぶとさらなる歓声が沸いた。
神バンドの正確無比な重厚な演奏に乗るSU-METALのパワフルな歌唱。
終始大盛り上がりのもと、やがて同曲は終了した。
ここまで披露された曲はまだ4曲。
あっという間に感じてしまう、一瞬の気も抜けない濃いライブが続く。

 

次に披露されたのは新曲「ind-metal(仮)」。
待ってましたとばかりに、僕は首を伸ばしてビジョンを凝視する。
インド音階を用いたオリエンタル風味溢れる同曲。
指先の動きまで意識した美しくエレガントなダンスに魅了される。
背後に映る、‟インド模様の万華鏡”というような趣の映像が効果的だ。
独特な曲調で歌い踊る3人を鮮やかに摩訶不思議に演出している。

 

※画像:音楽ナタリー(以下同)  Photo by Taku Fujii

 

この曲は、SU-METALのポテンシャルをうまく引き出していると思う。
SU-METALといえば、どこまでも真っすぐに伸びるクリアな歌声が最大の魅力だが、
おそらくビブラートやこぶし、しゃくりやファルセットなどの技術も持ち合わせていて、
そしてそれらのテクニックを用いれば、聴く者に的確に歌を届けることができるのだろう。
そういった彼女の歌い手としての深みを垣間見ることができるのは大変興味深い。

 

 

 

少しの間を置いて「Starlight」が始まる。
場内いっぱいにレーザーが照射されると観客たちはすぐさま曲に入り込む。
SU-METALのクリアで伸びやかな高音ヴォイスとブレイクダウンが混在する同曲。
ジェント由来の鋭いギター・リフがSU-METALの美声と絡めばたちまち場内は
幻想的な空間へと様変わりし、僕は目尻に涙を溜めたまま眼前の景色に没頭する。
‟Fly higher in the sky Starlight shining in the night――”
楽曲自体がまるっと祈りを捧げているかのような錯覚に陥る。
魂が震えるほどのSU-METALのロングトーンがどこまでも気持ちいい。

 

 

 

圧巻だった「Starlight」の余韻が覚めやらぬ中、
ビジョンには、鼓動音とともに心電図のような映像が映し出された。
徐々に沸く歓声。
果たしてイントロが流れてくると、歓声は決壊したダムのように一気に溢れ出た。
そう、次曲は「シンコペーション」。
神バンドのメロディアスなツインギターが疾走感溢れるリフを奏でると熱狂に拍車がかかる。
程なくして‟回れ~回れ~”の歌声にリンクしてサークルモッシュが巻き起こる。
僕は笑顔で走り回るメイトたちと何度もハイタッチを交わす。

 

ライブはそのまま「ヤバッ!」へと続いた。
頬はずっと緩みっぱなし。愉悦がどうにも止まらない。
SU-METALがテンポよく歌う。
裏拍の手拍子が大きい。
カメラが‟ヤバッ!”の振りをキメるMOAMETALの表情を何度もアップで捉える。
さすがにわかっている。
それにしても、元から美少女ではあったが、彼女は随分と綺麗になった。

 

 

 

ライブ中盤過ぎ、満を持して「PA PA YA!!」が披露される。
待ってましたとばかりに、メイトたちが一斉にタオルを手に持つ。
曲が始まった途端、のっけからタオルを振り回す人が多い。
どうにもサビまで待ちきれないのだろう。
老若男女による‟パッパパパヤー!”というコールがあちこちで響く。
ステージで踊る3人がとても楽し気なのが印象的だ。
並んで踊る藤平華乃とMOAMETALの息もぴったりのようだ。
楽曲のイメージどおり終始場内はお祭り騒ぎでやがて同曲は終了した。

 

心地よい疲れを少し感じ始めた頃、キラー・チューン「ギミチョコ !!」が始まる。
ピットではすぐさまモッシュが起こり、観客は再び熱狂の渦を巻き起こす。
狂乱と形容してもいいような状況が続く中、さらなるキラー・チューンが投下される。
「KARATE」だ。
僕は目を閉じ、全身を揺らして、一音も漏らさないようにヘヴィな音を貪る。
まるで食卓に出された豪華なフルコースの料理を残さないですべて平らげるように。

 

間奏に入ると、演者に倣ってメイトが数人倒れ込んだ。
僕は今回もまた、引っ張り起こす役を買って出る。
早く腕を引っ張ってと無言で懇願してくる人たちに‟まだ苦しんでいて”と
声をかけてけん制しつつ、タイミングを見計らって2人のメイトを引っ張り起こした。
それからはみな肩を並べて拳を一緒に突き上げる。
‟ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ 拳をもっと 心をもっと”
SU-METALが指示しなくても、多くのメイトが自然とジャンプを繰り返していた。

 

アッパー・チューン、キラー・チューンの連投に興奮は収まることを知らない。
ノンストップのライブだから、体は多少なりとも疲労しているはずだが、
この状況を楽しんでいたいという渇望が圧倒的にそれを上回っているから疲れを感じない。
そしてそうした熱に浮かされている中、次に披露された曲は「ヘドバンギャー!!」。
不穏な轟音交じりのイントロが流れてくるとフロア中に大歓声が響き渡った。
「Legend -M-」の真髄が、まさに今、ここから始まる。

 

 

序盤は昨日同様、SU-METALが力強く歌った。
間奏に入ると、マイクスタンドの引き渡しの儀式が行われ、
MOAMETALが中央に立つ。
その状態のままステージがセンターにゆっくり移動してくるが、
MAOMETALはまるでランウェイを歩くモデルのように先の一点だけをじっと見つめていた。
そして彼女は艶のある声で‟20歳の夜を忘れはしない”と、アレンジした歌詞を熱唱。
横で踊るSU-METALのダンスはとてもダイナミックだった。
最後にMOAMETALが‟ヘドバンギャー!”とシャウトし、やがて同曲は終了する。
‟モアー!” ‟モアメタル―!” ‟誕生日おめでとうー!”
MOAMETALに向けられた声援や歓声はしばらくの間止むことはなかった。

 

ノイズ混じりのSF風CG映像とシンセサウンドからなる楽曲が流れた後は、
新曲「Shining(仮)」が披露された。
ああ、ついにきたかと、僕は額の汗をタオルで拭いながらステージを凝視する。
少しばかり静寂が続いたあと、不意にアコースティック・ギターの音色が響き渡ってくる。
瞬間、どよめきに似た歓声があちこちから沸き起こった。

 

ステージだけがライトで照らされる。
そこにいるのはギターを演奏するMOAMETALただひとり。
そして彼女が奏でるギターの音色に合わせて、スクリーンに映っている、
それまで日輪に重なっていた月が徐々に横に移動していった。
それは日食の終わりだった。
かの恐怖の大王はその昔、西ヨーロッパの一部で起こった皆既日食を予言したという。
これはアンゴルモアの大王ならぬエンジェルモア降臨の演出――なのかもしれない。

 

僕は微動だにせずにステージ上のMOAMETALを凝視する。
彼女が奏でるアコギの音色があまりにもエモい。
転調後、体全体を使って踊り出すMOAMETAL。
時に激しく、時にギターを優しく愛でるようにして華麗にステップを踏む。
そこにSU-METALが現れ、ひとたび美声を響かせれば、
世界はもう彼女たち2人だけのものとなった。
見目麗しき2人の姿に観客の目は釘付けとなっている。

 

SU-METALの伸びやかな歌唱がどこまでも心地よい。
MOAMETALがメロディに乗せて艶めかしいコンテンポラリー・ダンスを踊る。
メタルオペラなのかメタルミュージカルなのかわからないが、
元よりスペクタクルなBABYMETALのショーは、この2人による新曲により、
さらなる高みへ到達したに違いなかった。
こと「魅せる」という点においては、BABYMETALには無限の可能性がある。

 

それにしてもこのSU-METALの歌唱技術はどうだ。
ヴァースもサビもかなり歌うのは難しいはずだが、いとも簡単にこなしている。
ギターを中心に見つめあったまま、2人が時計回りでゆっくり動く。
変拍子もおかまいなしに、SU-METALが美しい歌唱を続ける。
テクニカルなギター・ソロに合わせて激しくステップを刻む2人の姿に見惚れる。
それはまるで何かの儀式を行う巫女のようだった。

 

 

 

 

その光景と、あまりにもプログレチックな曲調に、僕は涙を流して想起せずにはいられない。
神バンドが奏でる、一糸乱れぬ変拍子は、まるで故人を弔っているかのよう。
情熱的なMOAMETALのダンスは、まるで故人の魂を祀っているかのよう。
腕甲冑から放たれる無数の白光は、まるで故人の魂を天へ送る儀式のよう。
そして大村神が奏でるテクニカルなギター・ソロは、まさに師匠への鎮魂・慰めだった。
これらすべてに溶け込んで束ねるSU-METALの絶唱は、愛すべき藤岡神へのレクイエム。
「ほら、藤岡さん、すごいですよ」僕は顔をくしゃくしゃにしながら呟かずにはいられない。
「みんながあなたを追悼してる。ちゃんとこのシーンが上から見えていますか」

 

魂が浄化されるとはまさにこのこと。
僕はなにか夢でも見ているような心持ちでジッとステージを眺めている。
刹那、はたと脳裏に記憶が蘇った。
それはMOAMETLAが語ったセリフだった。

 

 

BABYMETALはライブの中で生きている
「ライブの中だからこそ見せられるもの」を伝えていかなければならない

 

 

思い返せば、昨年1月にギターの神・藤岡幹大さんが不慮の事故で亡くなったあと、
BABYMETALは、公式ツイッターで哀悼の意を表明した。
ともに世界をまわった同志の死は、彼女たちにとってあまりにも残酷だったに違いなかったが、
その後、3人のコメントとわかるようなものは一切表に出てくることはなかった。

 

BABYMETALはライブの中で生きている――
MOAMETALが語ったこのセリフに宿るメッセージ性が強く増す。
そう、彼女たちは、ライブという‟自分たちが生きている場所”にて、
それも大勢のメイトを従えながら、パフォーマンスで、藤岡さんへ深く哀悼したのだ。

 

 

言葉ではなく、ライブで自分の意思を伝えられるようになりたい

 

 

このようなショーを見せられたあとに、いったい何が言えるというのだろうか。
本当に言葉なんていらなかった。
改まったコメントなんて必要なかった。
僕らメイトは今回のライブを通じ、BABYMETAL2人の確固たる意志を確実に受け取った。
そしてチームBABYMETALの深い想いは、天国にいる藤岡さんに届いたに違いなかった。

 

まるで魂を鎮めるかのように、アウトロの美しいアコギの音色が響く。
まるで魂を成仏させるかのように、美しいコーラスワークが響く。
月が再び太陽に覆いかぶさり、元の皆既日食の状態になったところで同曲は終了した。
息を呑んでステージを見守っていたメイトたちの間から、
堰を切ったように割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。

 

清々しい気持ちで僕はラストの新曲「アルカディア(仮)」を待つ。
やがてステージに3人が登場し、ラストの同曲を披露する。
ドラムのブラストビートに乗せてギターが美メロを奏でる。
脳汁が出てきそうなほどに、その奏でられるメロディは美しい。

 

 

‟今 For Your Dream(あなたの夢のために)
For Your Pray(あなたの祈りのために)
For Your Life(あなたの人生のために)
動き始めた 未来の地図は 君の中にある”

 

 

伸びやかで張りのあるSU-METALの歌唱が美しい。
両横で踊るMOAMETALと藤平華乃のダンスも情熱的で見応えがある。
これぞメロディック・スピード・メタル・チューンだと言わんばかりの演奏だった。
間奏での大村神とLeda神による高速ギターのハモりは、まさに圧巻の出来栄えだった。

 

 

‟光より速く 鋼より強く
使命の道に恐れなく
どれほどの闇が 覆いつくそうと
信じたこの道を歩こう”

 

 

歌詞に耳を済ませば応援ソングにも思える同曲。
SU-METALの力強い歌唱、アウトロのギター・ソロに痺れまくる。
やがて曲が終わると、肩を並べた3人は観客に向けて
「We are?」「BABYMETAL!」とコール&レスポンスを行い、笑顔でライブを締めくくった。
客電が灯ると、顔を輝かせているメイトたちの姿がいくつも目に留まったが、
どの表情にも清々しい充実感が漂っているように見受けられた。

 

 

 

 

4.

会場を出ると、屋外も熱気に包まれているといった状況だった。
歩く人はみな顔を輝かせ、今宵のショーの感想を熱く語り合っている。
僕はひとり、微笑を湛えたまま、一目散に最寄り駅へ向かう。
帰りの電車に揺られながら今夜のライブを振り返る。

 

まず音響バランスに関してだが、全体を通してかなり良かった。
途中に少しばかりハウリングが起こったが、さほど大きな問題ではない。
ただ、神バンドのあの仮面はやめてもらいたいというのが本音だ。
彼らの表情や煽りも、BABYMETALのライブ・パフォーマンスの一部なのだから。

 

また、SU-METALの調子も良かったように思う。
特に最後の新曲2曲は圧巻だった。
藤平華乃も随分とキレのあるダンス、それと豊かな表情を披露していた。
さすがはハイクオリティなライブを行う、現役のさくら学院の生徒会長。
ついでに触れると、さすがは元パフォーマンス委員長だけのことはあった。

 

舞台装置や演出面もかなり良かった。
特に冒頭の羽LEDやスケルトニクス・スーツといったハイテク技術による演出は、
これからのライブ・エンターテイメントショーにおいて重要なアイテムとなってくるだろう。
レーザーにパイロ、スモーク、それからビジョンに映し出すエフェクト技術、
また、今回のライブでは腕甲冑に仕掛けてあったが、
シグナルでLEDライトが発光するアイテム等を用いたBABYMETALのライブは、
日頃から試行錯誤を繰り返していることもあり、市場の先端あたりを行っているだろう。
今後のライブ、特に大きな会場でのライブショーは期待したいと思う。

 

そして最後に、今回の主役であるMOAMETALについて。
今宵の彼女は実に堂々としていて、表情からは常に自信が満ち溢れていた。
またダンスの動きはキレだけではなく、きめ細やかな美しさをも表現していた。
音楽はいつだって世界中の人々の心に訴える、最も強力な言語のひとつであるならば、
ダンスによる表現もまた、人々の心に訴える強力な言語のひとつに違いない。
“思い” を伝えるSU-METALの歌声には常に言霊が宿っているが、
‟意思”を伝えるMOAMETALのダンスには常に愛情が込められている。

 

 

最も愛を大切に――

 

 

もしかしたらだが、その言葉を言い続けているうちに、それは‟言霊”となって、
彼女の人格を形成する根源になっているのかもしれない。
ダンスの合間にふと見せる、慈愛に満ちたMOAMETALの微笑みを目にすると、
僕はどうにもそう思わずにはいられないのである。

 

 

 

 

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4 件のコメント

  • ”思い”を伝えるSU-METALの歌声には常に言霊が宿っているが
    ”意思”を伝えるMOA-METALのダンスには常に愛情が込められている。
    名言ですね(涙)。
    MOA-METALの美の成熟に歌唱の進化が嬉しい生誕祭でもありましたね。ダンスにおいても表現力がまた数段上昇ってか儚さ、妖しさ、強さまで感じて。
    しかし、SU-METALがリミッター開放した時に居合わせた方々は強烈な激情に震えたでしょうね、すごかったでしょうね。
    TERIさんの客席の位置に不平を言わず、そこでの最高のBABYMETALの楽しみ方をも提示された二日目のレポート。ホントにお疲れさまでした。ありがとうございます。                           
                                                                                                                                                                                                                          

  • >KUROTURI-METALさん
    いつもコメントありがとうございます。
    おっしゃるように、MOAMETALは成熟した女性へ成長しつつありますね。
    これからのさらなる成長もまた楽しみですよ。

  • 1日目名古屋、2日目横浜LVで参戦しました。
    名古屋は並MOSH後方だったので、羽LEDにMOAちゃんが乗って操作していたのは、見えておらず、気付きませんでした(^^)
    大人Kawaiiのコンセプトを打ち出しDarkSideから戻って来たBABYMETAL。サポートダンサーを加えて3人構成での演出も良かったです。
    2019年は、今後どんなサプライズを用意しているのか、見逃せない感じです。
    次はサマソニ!楽しみです!

  • >NAKAJY-METALさん
    コメントありがとうございます。
    おっしゃるとおり、BABYMETALは黄金の三角形、そして2人のシメントリーなダンスというのが
    やはりしっくりきますね。
    いろいろあった昨年を乗り越えて、そしてSU-もMOAも吹っ切れているようなので、これから先も楽しみです。

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