BABYMETAL 海外 Rock im Park 2018 ライブレポート

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1.

少し考えればわかることだった。
だけど僕はすぐに返事をしていた。
結果、先週から上司のおやじギャグが止まらない。
「ねぇ、ニューヨークシティで入浴していい?」

 

きっかけはBABYMETALの話だった。
上司はとくにBABYMETALに興味はないようだが、
僕が足しげくライブに通っていることは知っているので、
たまにだが、「最近ライブ行った?」と尋ねてくることがある。
そうしてゴールデンウィーク明けにも同じことを尋ねられたわけだが、
僕はなんとはなしに「今、アメリカをツアー中です」と答えたのだった。
以来、上司のおやじギャクが絶賛炸裂中である。

 

「ところで、アメリカの首都は知っとん?」
「ワシントンですよね」
「最初から言ってるじゃない。アメリカの首都ワシットンって」
「……」

 

あまりにも上司がしつこいので、僕は抑揚をつけずに淡々と言葉を返す。
「あ、でも、今週末からはヨーロッパツアーですよ。もうアメリカではないです」

上司の眉間にしわが寄る。
「ヨーロッパ? ヨーロッパのどこ?」

「最初はドイツです」

「ド―――イツッ!」
目を見開いて快活な声を上げると、上司はさも嬉しそうに続けて言った。
「この俺を怒らせたのはぁ、いったいどこのドイツだぁ!」

 

僕は上司から視線を逸らす。
なあにが「この俺を怒らせたのは、いったいどこのドイツだ! わあーっ!」だ。
アホかっつーの。
とりあえずダジャレで「ドイツ」と言いたかっただけなのだろう。
やれやれという思いだった。
僕は大きくため息を吐きながら席を立った。
どうにも気分転換が必要だ。
部屋を後にして屋外へ出ると、ドリンクを買いに近くの自動販売機へ向かった。

 

ふと疑問がこうべを上げたのはそんな折だった。
「BABYMETALがドイツでライブをやる……」
最初すぐには思い出せなかったが、気が付くと一気に顔が紅潮した。
「くっそー、思い出した。僕はドイツに借りがあったんだ!」

 

 

ふつふつと怒りが込み上げてくる。
3年前のベルリンでのライブの光景が脳裏に浮かぶ。
僕はあの時、デカい奴らにコテンパンにやられまくった。

 

 

そして2年前のシュツットガルト公演でも屈辱は繰り返されたのだった。

 

 

このままおめおめと引き下がるわけにはいかなかった。
デカいドイツ人たちとのモッシュに勝利する、
ただそれだけのために、僕は地道に体幹を鍛えているのだ。
成果が上がるまでは、デカいドイツ人たちととことん勝負してやる!
そして次こそは絶対に勝っ――――つ!
自販機の前でギュッと握り拳を作り、僕はそう強く胸に誓ったのだった――。

 

 

 

 

というわけでドイツである。

 

ここニュルンベルクで本日、ロックフェス「Rock im Park」が開催される。
ベルリンやシュツットガルトではないが、同じドイツなので問題はないだろう。
ドイツ人に対し、ようやくリベンジを果たすときがやってきた――。
そう思うと自然と武者震いをした。

 

 

 

最寄駅までSバーンで移動。
フェス会場近くは自然が溢れている。
15分歩ほど歩くと、やがて会場であるツェッペリン・フィールドへ到着した。
すでに開場しているのでどこもかしこもお祭りムード。
ドイツソーセージやビールの旨そうな匂いがあちこちから漂ってくる。

 

 

 

BABYMETALの出演は、Beck’s Park Stageで、午後14:40分から45分の予定。
登場までにはまだ少し時間がある。
ちょうど今は、デュッセルドルフ出身のメタルコアバンド、
Callejonがライブを行っている。
海外フェスに来た実感が少しずつ沸いてくると、否応なく気分は盛り上がっていった。

 

周囲にいる年齢層は青年から熟年の方まで幅広い。
ドイツ以外の近隣諸国からも来ているのかもしれない。
小さな子供の数は少ないが、若い女性の姿は随分と目についた。
僕の網膜はカップルは認識できない仕様だから、残念ながらそれらの数は分からない。

 

 

 

やがてバックドロップが掲げられる
前日に出演した「Rock am Ring」はライブで生配信されたが、
画面をとおして場内の盛り上がりはよく伝わってきた。
今日のフェスでは、いったいどんなステージングを披露してくれるのか。
間違いなく最高のライブを実行してくれるに違いない。
ライブに対する期待感が大きく膨らむと、極限にまで、胸が高鳴っていった。

 

定刻近くになると自発的に「BABYMETAL」コールが発生。
やがて開演すると、会場のあちこちから怒号のような歓声が沸いた。
かくいう僕も興奮して大きな叫び声を上げる。
言わずもがな、臨戦態勢はとうに整っている。
周りにいる異国のデカいキツネたちよ。首の準備はできているか?
さあ、人種を超えて一緒くたになって、今日はともに大いに盛り上がろうではないか!

 

 

 

 

2.

セットリスト

01. IN THE NAME OF
02. メギツネ
03. ギミチョコ!!
04. TATTOO
05. Distortion
06. KARATE
07. Road of Resistance

 

1曲目の「IN THE NAME OF」が始まる。
前方は盛り上がっているようだが、それ以外はみんなステージ上を注視している。
これからどんなライブが始まるのか、初見の人にはまだ想像がつかないのだろう。
それでもこの1曲目は儀式の始まりの曲だということは段々とわかってきたようで、
同曲が終了すると、さあ、いよいよかという期待混じりの歓声が沸き起こった。

 

続いては「メギツネ」。
曲の序盤、ノッている観客の数は少なかったが、
中央でモッシュが起こったのをきっかけに、だんだんと周囲も賑やかになってきた。
そして間奏の煽りで一気にピットは大爆発。
ガタイの良いドイツ人たちと笑顔で激しいモッシュを繰り広げる。

 

場が熱を帯びる中、続けざまに「ギミチョコ!!」をたたみかけてくる。
ピットはモッシュが頻発に発生するようになり、サーファーの数も増えていった。
周囲の陽気な喧噪は、観る者を笑顔にさせ、そして参加したい気持ちを起こさせる。
僕は終始笑みを湛えたまま、外国人たちと大いに騒ぎまくった。

 

4曲目は「TATTOO」。
初めて生で観るので、それだけで幸せな気分だった。
SU-METALの伸びのあるクリアヴォイスがドイツの空に響いている。
最高だった。この上ない悦びだ。
この幸せな時間が少しでも長く続きますようにと、思わず祈りたい心境に陥った。

 

続いては「Distortion」。
この曲も生で観るのは初めて。だから気持ちはイントロで早くも高揚した。
間奏でSU-METALが “ スクリーム&シャウト! ” と煽る
ドイツ人たちは一様に素直に従い、
彼女の期待以上の大盛り上がりを見せることで応えてみせた。
僕も終始、笑顔でもみくちゃになって、この素晴らしい時を堪能する。

 

ライブは早くも終盤に突入。「KARATE」が始まる。
この曲を知っている人は多いのだろう、最初から大きな歓声が沸き起こっている。
驚いたのは間奏に入ったところだった。
知らず、 ‟ Auf die Knie!(ドイツ語で「ひざまづけ」) ” コールが発生していた。
SU-METALがしゃがめと言ったわけでもないのに、なんとここドイツでも、
自発的に多くの人がしゃがみこみ、そしていわゆるKARATEジャンプを敢行した。
その光景はBABYMETALのショーが大成功であることを端的に物語っている。

 

そして最後に披露されたのは「Road of Resistance」。
冒頭の「Wall of Death」でピットは再び大爆発を起こす。
さすがに後方の様子まではわからないが、
ピットの勢いは、誇張なしに、最後まで落ちることはなかった。
モッシュを挟みながら、最後までみな勢いよく走り回っている

 

大盛り上がりのあと同曲が終了すると、周りから大きな歓声と拍手が沸き起こった。
メンバーが順番に去っていく間はひっきりなしにBABYMETALコールが続いていた。
こうして彼女たちは、ドイツ人たちに強烈なインパクトを与えて大成功のもと、
クオリティの高い、シアトリカルなライブショーを終えた。
すぐには興奮を鎮めることはできないのだろう、ライブが終わってもあちらこちらで、
高揚した声で会話を続けている観客たちの光景が幾重も目に留まった。

 

 

 

 

3.

ライブが終わると、僕は飲み物を求めて後方のフードエリアへ向かう。
コーラをのどに流し込みながら、今しがた終ったばかりのライブを回想する。
過去、ドイツでBABYMETALの単独ライブは3回観ていて、
単独では間違いなく盛り上がることは知っていたのだが、
フェスでここまで熱狂的な状況が生まれるとは想像していなかった。
どうにも知らない間に、ここドイツでも、BABYMETALの認知度、
とりわけライブショーがすごいという噂は広まっているのかもしれなかった。
今日のドイツ人たちの反応は嬉しい誤算だったが、とても誇らしく思えた。

 

 

 

その後は Jonathan DavisEnter Shikari のライブを観賞。
他のステージも見てみようと、サードステージのAlternarenaへ移動する。
そこで少しScarlxrdを観た後はメインステージへ向かう。
ステージは巨大だが、観客の入りはセカンドステージよりも少ないように思えた。

 

またセカンドステージに戻ると、Hollywood Undead、A Perfect Circleを続けて観賞。
そして楽しみにしていたStone Sourのライブを近くで観る。
コリィ・テイラーの存在感は抜群で、大きな会場を完全に支配している。
僕はライブに熱中し、大満足のもと、セカンドステージを後にした。

 

Stone Sour のライブが終わったのは午後23時頃。
この後も Marilyn Manson や Vitalic のライブがあるのだが、僕はここで帰路に着く。
そして翌日も僕は「Rock im Park」へ足を運び、1日中フェスを堪能する予定。
Bullet For My Valentine、Asking Alexandria、Parkway Drive、
Avenged Sevenfold、Alexisonfire と立て続けに観ることになるだろう。
今からもう楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

 

と、ここで話は冒頭に戻るが、
今回も僕はデカい奴らにコテンパンにやられてしまったのだった。
3度目の正直とはいかなかった。
言い訳もできない、圧倒的な負け戦だった。

 

 

 

 

やはり体格の良いドイツ人たちとのモッシュには勝てない。
そんなこと、ハナからわかっていたことだった。
彼らとは笑顔で楽しくモッシュしたが、それと勝ち負けとは話は別だ。
くっそー……。
僕は唇を噛み、怒りで肩をわなわなと震わす。
あの光景を思い出すと、どうにも叫ばずにはいられない心境になった。
「この僕を怒らせたのはぁ、いったいどこのドイツだぁ! わあーっ!」

 

僕の戦いは続く。……たぶん。

 

 

 

 

 

 

※フェス飯&物販

 

 

 

 

 

 

 

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8 件のコメント

  • 「karate」で観衆が坐ったのは自発的なことだったんですね?!

    「on your knees」とスウメタルが下知されたみたいな噂が出てましたが納得です。

  • TERIさん、ライブレポ楽しく拝読しました。動画もいいけど、動画では伝えきれないこのようなレポは素敵です。
    またレポがUPされたら読ませていただきます。楽しみにしています。

  • その行動力と資金力がうらやましっす!あと必要なのはマッスルだけですねw
    ところでUS、ヨーロッパときてSU&MOAの奮闘と笑顔を見るとYUI復帰の日まで私たちがベビメタを守るというような意気込みを感じるのは私だけか?

  • 無事帰国できたようで何よりです。
    たまーに財布って普通に無くなりますよね。
    いきなり窮地に追い込まれるのもなんだし、いちいち驚くのも疲れるので自分の中では想定内としてます(笑)。
    またいつもの後輩に大笑いされるんでしょうね。ご愁傷様です。

  • 小幡さん、コメントありがとうございます。
    KARATEのジャンプは自発的でしたね。僕は最初ステージを見ていた(4人が倒れて順に立ち上がるシーン)んですけど、
    気づくと横からコール(どうもドイツ語でひざまづけという意味らしい)が起こり、
    どんどん人が座り始めているといった状況でした。
    それはそれは盛り上がったシーンでしたね。

  • AKさん、コメントありがとうございます。
    レポの内容で少しでもライブの情景を思い浮かべられたのであれば幸いですよ。
    駄文ですが、また懲りずに読んでいただけるとありがたいです。

  • 現状、遠征は年に一回ですので、それに合わせてコツコツ貯蓄している感じですね。
    なので資金力はないですよ(笑)
    マッスルはなんとかしないとだめですね。ヘドバンもしたいから、首は少しずつ鍛えたいと思います。
    後半の部分はおおむね同意です。
    復帰するまでの間は私たちで頑張りぬくんだという気概のようなものを感じますね。

  • 匿名さん、コメントありがとうございます。
    財布がなくなるのを想定していなかった自分のミスですね。
    慢心が招いた結果でございました。
    なんとか帰国はできましたけど、もうああいう虚無感は感じたくないので、
    今後は絶対にお金はわけて管理したいと思います^^;

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