BABYMETAL RETURNS – THE OTHER ONE – 幕張メッセ 初日 ライブレポート

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1.

寒椿が美しい紅色を見せるころ、僕はひとり、幕張へ向かう。
大寒を過ぎてなお、より冷たい風が身に染みる今日。
それでも今日の天候が快晴だったのは救いで、陽射しは暖かそうだ。
陸橋から見下ろす江戸川の水面が朝日を受けてキラキラと輝いている。
これから家族総出で遊びに出かけるのだろう、
ふと湧いたはしゃぎ声のする方へ視線を向けると、
両親らしき人物とじゃれ合う子供たちの無邪気な笑顔が目に留まった。
僕は微かに口元を緩めると、再び視線を外に向けてこれまでのことを振り返った。

 

思い返すこと2年前。
前年より続くコロナ禍の中、BABYEMYALは、
「METAL RESISTANCE最終章」というコンセプトのもと、
2021年1月から4月にかけて日本武道館で『10 BABYMETAL BUDOKAN』を開催した。

 

その10公演の完走と同時に“METAL RESISTANCE”全10章は完結し、
最終日公演をもって、BABYMETALはこの世界から旅立ち、
“LIVING LEGEND”へと向けて歩み出した。

 

そして2021年10月10日をもって、10年間続いた“LEGEND=ライブ”を封印。
結成10周年イヤーを締め括る動画では、以下のようなことが語られた。

 

 

2010年から輝き続けた3つのメタルの魂は、この地球(ほし)を離れても
心の中で、そしてメタルの銀河で永遠に輝き続けるだろう。
伝説は神話へ、そしてLIVING LEGENDへ
LIVING LEGENDの階段のその先に待ち受ける運命は
Only the FOX GOD knows

ありがとう、僕らのMETAL RESISTANCE
ありがとう、僕らのBABYMETAL

 

 

次に新たな“お告げ”があったのは、約半年後の2022年4月1日の“FOX DAY”。
内容は、バーチャルワールド“METALVERSE(メタルバース)”を通じて、
我々の知らなかったBABYMETALを復元させる計画“THE OTHER ONE”が始まる、
というものだった。
公開された“THE OTHER ONE”のティザー動画では、以下のようなことが語られた。

 

 

2021年10月10日
BABYMETALがこの世に降臨してから10年の時を経て
BABYMEYALの数々のLEGENDは封印された
石化されたメタルの魂は混迷が続くディストピアの世界を離れ
今もなお、遥か彼方のメタルの銀河を彷徨い続けている
しかしながら、バーチャルワールド“METALVERSE”の出現によって
新たな1ページが刻まれようとしていた
“METALVERSE”を通じて、我々の知らなかったBABYMETALを復元させる計画
“THE OTHER ONE”が始まる
これは、もう一つのBABYMETALの物語

 

 

その後2022年4月27日より、「THE OTHER ONE – DIGITAL GALLERY」がスタート。
“METALVERSE”のアルゴリズムによって生成される、
新たな楽曲やヴィジュアルの復元過程を、
ランダムに現在進行形で体験することができるようになったのだった。

 

――そして2022年10月11日、遂にその時が訪れる。
待ちに待った“LEGEND=ライブ”の解禁である。

 

2021年10月10日の封印宣言以来、
リアルワールドでのライブ活動の封印を続けていたBABYMETALが、
『BABYMETAL RETURNS – THE OTHER ONE -』と題した2DAYS公演を、
千葉・幕張メッセ 国際展示場にて開催することを発表。
公開されたティザー・ムービーでは、以下のことが語られた。

 

 

我々の知らなかった、もうひとつのBABYMETALの物語
“THE OTHER ONE”復元計画が、最終段階を迎える
長きに渡る沈黙を破り、僕らのLEGENDが、遂に動き出す
復元計画は99%完了した
残り1%の復元は諸君と共に完遂する

 

 

この地球で10年間切り開いた世界から“LIVING LEGEND”となって旅立った
BABYMETALが、バーチャルワールド“METALVERSE(メタルバース)”を通じて、
我々の知らなかった、もうひとつのBABYMETALを復元させる計画
“THE OTHER ONE”が最終段階を迎え、
プロジェクトの完遂に向けてもうすぐ地球に戻ってくることが告げられた。

 

BABYMETALが“LEGEND=ライブ”の封印を発表したのは、2021年8月4日だった。
しかし実際に行われたライブとなると、それよりも前、2021年4月15日の武道館が最後。
それ以来、実に約1年9ヵ月ぶりとなる今夜のライブ。
BABYMETALに出会って以降は、毎年ライブに参加していたから、
約2年近くも待たされたこの期間は随分と長く感じられた。
それだけにようやく今日という日を迎え、感慨もひとしおだ。
嬉しくて身震いするほどに。

 

そして今回のライブは、“METAL RESISTANCE”の物語が終わってから初となる、
新たなコンセプトのもとに行われるライブ。
我々の知らなかった、もうひとつのBABYMETALを100%復元させると何が起こるのか?
3月発売のコンセプト・アルバム『THE OTHER ONE』から何曲披露されるのか?

 

感覚的には、DARK SIDEの第6章が終わり、第7章の広島でのLegend Sを経て、
横浜アリーナでスタートした“METAL RESISTANCE第8章”の開演前の心境に似ている。
前年にYUIMETALが正式に脱退し、これからどうなるのだろうと思っていたところ、
メイトたちが目にしたのは、4人~7人体制だったDARK SIDEからの原点回帰。
衣装も髪型も前に戻した3人体制でのBABYMETALの復活。
さらに、YUIMETALの穴を埋めるサポートダンサーはアベンジャーズ方式で、
毎回ライブごとに3人の中から一人が選ばれるという意表を突いたシステムの発表。
そして最初に登場したアベンジャーズが鞘師里保というビッグサプライズ。
あの時は明るいニュースが多かったので、メイトたちはみな歓喜したのだった。

 

ただそのときと違うのは、今回はまったく逆の内容になるだろうということ。
衣装やフォーメーションなど、見慣れたいつものBABYMETALではなく、
それこそDARK SIDEの時のように、がらりと変わった姿を目にするように思う。
今宵BABYMETALは、一体どんなビジュアルで、そして何人体制で登場するのだろうか。
もうひとつのBABYMETALの物語、“THE OTHER ONE”の世界観を
どのように表現して構築するのだろうか。
いずれにせよ、いつも予想の斜め上をいく彼女たちのことだから、
きっと驚くようなライブショーを披露してくれるに違いない。
僕は口元に笑みを湛えたまま、大いなる期待を胸に電車に揺られ続けた。

 

 

 

 

2.

 

やがて電車は海浜幕張駅へ到着した。
逸る気持ちを胸に、いそいそと会場まで移動する。
まずは物販列に並び、あらかじめ決めてあったグッズを購入。
小腹がすいたので、館内のお店で軽めのランチを済ませる。

 

 

 

途中に公式から、新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針変更に伴い、
マスクを着用した大声での歓声が可能となります、との案内があった。
なるほど、これでライブはより盛り上がるに違いない。

 

 

 

その後は荷物をロッカーに預け、待機場所のホール1にて開場時刻を待つ。
チケットは北・Aブロックの700番台。
やがて荷物検査とセキュリティチェックを受け、ホール3へ移動する。
そしてドレスコードのSavior Maskを着用してから入場。
逸る気持ちに背中を押され、やや早足でAブロックへ進む。

 

 

 

ブロックに入り、下手側の最前にやや近い場所に陣取る。
3年前の『LEGEND – METAL GALAXY』の時と同じような位置だろうか。
左右の角の上部に、それぞれ大きなモニターが設置してある。
よく見るとそれは後方にもあって、計4つのモニターが備わっている。
フロア図を確認したところ、ステージは前方と後方に2つあった。
どうやら2017年のLegend -S-公演のときと同じようなレイアウトのようだ。
ということは、移動式のセンターステージが前後に何度か往来するのだろう。
SEでメタリカ、Bloodywood、サバトン、メガデス、ゴースト、
ラム・オブ・ゴッド、ブリング・ミー・ザ・ホライズンなどの曲が流れている。
それらの楽曲に乗せて体を小刻みに動かすと自然と気分は盛り上がっていった。
また、「Kingslayer」が流れると、場内には手拍子が沸き起こった。

 

周りを見渡すと、やはり今回も中年男性の数が圧倒的に多かった。
僕の網膜はカップルは認識しない仕様なので残念ながらそれらの数は分からない。
若者や女性の姿も散見されるが、親子連れの姿はほとんど見かけなかった。
僕はゆっくり首を回してから、その場で軽いストレッチを行った。
公式からの事前の案内で、SILENT MOSH’SH PIT以外のブロックでは、
モッシュは禁止という項目はなかったように思うが、
仮にモッシュが禁止だったとしても、経験則から、
我らがメタルクイーンはライブ中に間違いなく煽ってくるだろう。
心と体の準備はしておいて損はない。

 

果たして、定刻を10分ほど過ぎたあたりで不意に暗転。
刹那、周囲でどよめきが起こり、それから館内は大きな拍手に包まれた。
僕も声を上げ、拍手をしながらライブに対する期待値を上げていく。
BABYMETALのライブ・ショーのクオリティが高いことは、今さら説明は不要。
今日もアッと驚くような演出で、メイトたちを魅了してくれるはずだ。
僕は胸の高鳴りを感じながら、刮目してビジョンを凝視し続けた。
興奮が全身に伝播していく。
胸の鼓動は早くも早鐘を打ち始めている。

 

 

 

 

3.

セットリスト

01. METAL KINGDOM
02. Divine Attack – 神撃 –
03. Distortion
04. PA PA YA!!
05. ギミチョコ!!
06. メギツネ
07. ド・キ・ド・キ☆モーニング
08. Light and Darkness
09. Monochrome
10. ヘドバンギャー!!
11. イジメ、ダメ、ゼッタイ
12. Road of Resistance
13. THE LEGEND

 

ストーリームービーがビジョンに映し出される。
内容は、これまでに動画でも公開されていた「THE OTHER ONE」に関するもの。
今宵、もう一つのBABYMETALを復元させる計画が完遂し、姿を現すとある。
ムービーが終わり、白装束の女性が杖を持って10人登場してくると、
館内は水を打ったような静けさに包まれた。
なんとも言えない神々しい音楽が流れ始めると、
この場はあっという間に神聖な儀式を執り行う空間へと変貌を遂げた。

 

やがてメインステージからMOAMETALが、バックステージからSU-METALが登場。
2人は鉾のような杖を持ち、可動式のセンターステージでそれを重ねた。
その後に始まった1曲目は、大方の予想通り「METAL KINGDOM」。
この曲は、自らを奮い立たせ、信じる友と未知なる道へ踏み出す強さを手にした、
新たな時代を切り拓くアンセム。
まさに沈黙の玉座から力強く立ち上がり、世界に鳴り響く、
はじまりを告げるファンファーレのような楽曲という触れ込みだったが、
その言葉通り、生で観る「METAL KINGDOM」はあまりにも壮大だった。
実際に耳にするSU-METALの歌唱、そしていつもながらのタイトな演奏、
それにメイトたちによる“オーオーオーオオーオ”の大合唱がない交ぜとなって、
壮大な世界観を構築している。
ああ、なんという神々しい楽曲なんだ。
唄い出すと一瞬にしてこの巨大な空間を支配してしまうSU-METALの存在感。
彼女のクリアな歌声をうっとりしながら聴いているとそれだけで幸せな気持ちになる。
僕は心底ライブに没入し、一瞬たりとも見逃すまいとステージを凝視し続けた。

 

続く曲は「Divine Attack – 神撃 -」。
暗いので誰かはわからないが、目の前に移動してきたセンターステージには3人いた。
そしてライトアップされて姿を現したのは岡崎百々子だった。
Aブロックの目と鼻の先で、彼女がキレキレのダンスを踊る。
サビの部分で何度も右手を突き上げながら笑顔を振りまくと、
メイトたちは“おいおいコール”で応えた。
久しぶりに見る岡崎百々子は、以前にも増して輝きを放っていた。
また、自身が作詞したSU-METALの歌唱も力強く、聴いていて惚れ惚れするものだった。

 

最初から新曲が2曲披露されたが、ここからはアッパー・チューンの旧作が続く。
「Distortion」が始まると、館内は一気に熱を帯び始めた。
メイトたちは“ギバーッ ギバーッ”と何度も叫び、
途中に何度も“おいおいコール”を挟んだ。
知っている人気曲だからノリやすいのだろう。
そして間奏に入ると、SU-METALが弾ける笑顔で「ただいまー!」と快活に叫んだ。
MOAMETALも何か言葉を発していたが、
メイトたちの歓声が大きいのでよくは聞こえなかった。
SU-METALが続けて、“幕張ー! 盛り上がる準備はできてるかー!”と煽る。
メイトたちが一斉に歓声を上げ、館内は興奮のるつぼと化している。

 

周囲の熱気は次曲「PA PA YA!!」でさらに上昇。
メイトたちが歓声を上げ、一斉にタオルを掲げて振り回す。
歌い踊る3人も心底楽しそうで、何度もアイコンタクトをしていた。
パイロから噴き出す熱によって熱気はさらに充満し、すでに汗だくの状態となった。
SU-METALが巻き舌で“まーつーりぃだぁ まーつりぃだぁ”と熱唱。
観客は終始、まさにお祭りといった具合に騒ぎ続けている。
センターステージが移動する間も、3人は絶えず笑顔で観客を煽り続けていた。
無数のタオルが振り回され、会場は渾然一体となっている。

 

続いて披露されたのは代表曲「ギミチョコ」。
曲が始まると自然と頭が揺れた。
間奏でSU-METALが、
“今日は寒い中来てくれて有難う! 最後まで楽しんでいってね”と声を発すると、
観客たちは歓声と拍手でそれに応えた。
ライブは大盛り上がりの中、次曲「メギツネ」へと続いていった。

 

イントロが流れるなり、メイトたちによる長めの“おいおいコール”が始まる。
やがて3人が見目麗しき姿で踊り始める。
“ソレッ”の掛け声で大量に湧き出る人の腕・腕・腕。
SU-METALは、この曲の間奏でも「幕張ー!」と煽り、
その後のメギツネジャンプを誘発した。
メイトたちの一斉ジャンプにより、フロアが何度も揺れる。
久しぶりの感覚に、頬は緩みっぱなし。
目に映る光景が、楽しかった思い出を幾重にも想起させた。
ライブはすでにクライマックスを迎えようとしている塩梅だ。

 

曲が終わると、ストーリームービーが始まった。
なんとなく見慣れ自体で、“METALVERSE OF MADNESS”の文字が映し出される。
内容は、“METALVERSE”、すなわちこことは違う別の宇宙が実は存在していて、
そこから何かがまさに今現れようとしている、というものだった。
そして始まった曲は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。
途端に館内がドッと沸いた。
そして各々が声援を送り、各々がフリコピを始める。
3人がキュートな笑顔とダンスで観客たちを魅了する。

 

突然驚くことになったのは、長めの間奏に入ったところだった。
3人はメインステージから中央に移動しながら曲を披露していたのだが、
いつの間にか反対のバックステージにも別の3人の姿があった。
初めは鏡に映っているのかと思ったが、よく見ると後者の衣装は少し違っていた。
具体的には、彼女たちのスカートには本家の衣装にはない赤色が混じっていた。
そこで初めて僕は、まったく別のBABYMETALの3人が登場してきたことに気づく。
この演出にはたいそう驚かされたし、
周りのメイトの中には、狐につままれるような心境の人もいるようだった。
多くの者たちが、一体何が起こってるんだといった表情でステージを眺め続けていた。
それにしても、別のBABYMETALの3人もまた、ダンスは抜群にうまかった。

 

ここからはまた新曲が続く。
初めて披露された「Light and Darkness」は、
美しいメロディとSU-METALの歌唱が際立っていた。
新曲なのでどうノレばいいのかわからないメイトたちは、
序盤は手拍子をしていたが、途中からは次第にSU-METALの歌声に聴き入り、
そして、MOAMETALと岡崎百々子の艶やかでリズミカルなダンスを凝視していた。
3人が作り出す世界観に、多くの者が魅了されている。

 

続いては「Monochrome」。
この曲は先行配信時、モノクロームの世界を彩るような、優しくも力強いメロディ。
北欧神話で“終末の日”を意味するラグナロクに、
儚い希望のようにまたたく星空が虹色に包まれる。
無常観の漂う世界とそれに向き合う精神性を内包した楽曲、と紹介されていたが、
それを表すように、SU-METALはいつも以上に情感たっぷりに歌い上げている。
「Light and Darkness」の歌唱も力強かったが、この曲も負けてはいない。
絶唱とはまさにこのことだろう。
一つひとつのフレーズに言霊が宿っている。
ヘヴィな楽曲も五臓六腑に染みる。

 

間奏に入ると、SU-METALが観客に向かって訴え始めた。
「この暗い世界を、皆んなの光で照らして欲しい」。
続けて、英語でスマホのライトを点けるように促してきた。
それにメイトたちが順々に応えていく。
ライトが点灯する度にSU-METALが“そう!”と反応を示し、
一拍置いて“そう、こっちのみんなも、すっごい綺麗!”とはしゃいだ声をあげる。
彼女が喜ぶ姿を目にすると、こちらも幸せな気分になる。
そして場内は無数の光が揺れ動く、幻想的な世界に包まれた。
“オッオッオー、オーオッオオー”というメイトたちの掛け声もマッチしており、
楽曲にさらなる彩を与えている。

 

続く曲は「ヘドバンギャー!!」。
センターステージで3人が準備に入るが、SU-METALはMOAMETALに寄り添っていた。
何かしら声をかけているようだった。
そしてペットボトルの水を含み、喉を潤すと、
神バンドの方へ向かって手を振る余裕も見せた。
曲が始まると、いつもの凛々しい姿でカッコよく歌い上げていった。
そして間奏では久々に土下座ヘドバンのシーンが。
MOAMETALがしゃがんでというゼスチャーをすると、
メイトたちは一斉にそれに従うほかなかった。抗う術などなし。
そして、まるで繰り返す大波のように、土下座したメイトたちの両腕が揺れた。
SU-METALが凛々しい表情を崩さずに、それらをまるで睥睨するかのように見下す。
懐かしさと楽しさで感情はもうぐちゃぐちゃ。
僕は何度も“ヴォイ”と叫び、終始笑顔で同曲を堪能した。
横に縦に繰り返すヘドバンが止まらない。

 

続けて「イジメ、ダメ、ゼッタイ」が始まると、
場内の歓声はひときわ沸いた。
そこら中から歓喜の声が溢れ出ている。
ややあって、自然とウォール・オブ・デスの流れになったが、
これは久々の体験だった。
メイトたちの嬉々とした叫び声があちこちでこだまする。
サークルモッシュで走り回るメイトたちはみな、無邪気な笑顔を振りまいている。

 

パイロの炎が上がる中、力強いパフォーマンスは続く。
大勢のメイトがダメジャンプを飛ぶ。
ツインギターの音色があまりに心地よい。
これだよこれ、これをずっと待ち望んでいたんだよと思う。
僕は唇をギュッと噛み締めながら何度も頭を振った。
急に感極まって泣き出しそうになるが、なんとか堪える。

 

何度もサークルモッシュで走り回り、何度もダメジャンプで飛び、
楽しさはマックスの状態だった。
体感型ライブショーの神髄、まさにここにあり。
だが次に「Road of Resistance」が披露されると、
喜びはさらに湧き、自然と笑顔になった。
そして再び繰り返される巨大なウォール・オブ・デス。
僕は他のメイトたちと体をぶつけあったのち、笑顔でまた走り回る。
ライブはこんなに楽しいものなんだという感覚を、身をもって思い出す。

 

曲中、メイトたちはずっと歓声を上げて騒ぎ続けていた。
誰もがこの瞬間をずっと待ち望んでいたのだろう。
ライブで声を発すことができない期間はあまりにも長すぎた。
そしてBABYMETALが、封印していたライブを遂に解禁してくれたことが
心底嬉しかったに違いなかった。
SU-METALの、発破を掛けるような“シンギン!”のコールの後は、
メイトたちによる“オーオーオオ”の大合唱。
SU-METALが“幕張ー!”と絶叫すると、それに大歓声で応えるメイトたち。
曲が終わると、恒例のコール&レスポンスへ。
大勢が“BABYMETAL!”と叫び、喜びを爆発させる。
最後は場内で花火が爆発し、大盛り上がりのライブはいったんここで終了となった。

 

暗転するや否や、すぐに大きなBABYMETALコールが起こった。
ややあってアンコールが始まった。
ライブ冒頭で登場してきた白装束の10人の女性が再び登場してくる。
披露された曲は「THE LEGEND」。新曲だ。
一聴して難しそうな曲を、SU-METALが物語を紡ぐようにして丁寧に歌い上げていく。
反対のステージにはMOAMETALの姿も。
どうやらこの曲も1曲目の「METAL KINGDOM」同様、2人で披露するようだ。

 

大勢の者がジッとステージを凝視している。
というよりも、世界観にどっぷりとハマっている。
SU-METALの歌唱、とりわけ最後の高音「LEGEND」の響きは、
人間が出せる声とは到底思えないような凄味があった。
また、2人が作り上げる世界観に心奪われた。
そして最後は、階段を上った2人が棺桶の前に立ったまま暗転。
ビジョンには、今日のライブは明日のライブに続くという文字が浮かんでいた。
どうも今日と明日の2日間で、
この「THE OTHER ONE」と題したライブは完結するようだ。
そしてその後には、新しいBABYMETALが誕生するということが発表された。

 

こうして、久しぶりのBABYMETALのライブは大盛況のもと幕を閉じた。
5曲もの新曲を体験することができ、心底満足いくライブだった。
僕はマスクの下に笑みを湛えたままホールを後にする。
こんなにも楽しいライブは本当に久しぶりだった。
そしてBABYMETALのライブが帰ってきたことを強く実感した。

 

 

 

 

4.

ホールの外に出るとコインロッカーの場所へ。
急いで着替えると、足早に最寄り駅へ向かった。
道中、今宵のライブを振り返る。
真っ先に思い浮かべたのは、SU-METALとMOAMETALの姿だった。

 

ライブの封印を宣言した背景には、10周年の区切りを迎えたこと以外にも、
コロナ禍が影響していたことは想像に難なくない。
観客のキャパ数は制限され、声を発することのできない期間が長い間続いたため、
観客にBABYMETAL本来の楽しいライブを届けることは皆無となった。
そして世の中的にコロナに関する諸々の規制が緩和されつつある中、
ようやくBABYMETALもライブを再開する運びとなったわけだが、
ベストなタイミングで大声で声援を送ることが可能になった影響もあり、
楽しかったBABYMETALのライブが、今宵、まさに帰ってきた。
きっと2人とも、首を長くして、今日という日を待ち望んでいたことだろう。
2人の全身からは、ライブを行える幸せのオーラが終始滲み出ていた。
10武道館も良いライブだったが、観客が声を出せないことに対しては、
若干のもどかしさは感じていたはずに違いなかった。

 

ライブの始まりから順に記憶を辿っていく。
大好きなブリング・ミー・ザ・ホライズンの「Throne」の最中に客電が落ち、
そしてライブの1曲目として披露されたのが、
バーチャルワールド“METALVERSE(メタルバース)”で復元された
パラレルワールド「THRONE」をテーマにした新曲の「METAL KINGDOM」だったが、
この“THRONE”繋がりの心憎い演出も大変よかった。
僕は人知れず一人で盛り上がっていた。

 

また、今日はフォーメーションや衣装がどうなるのかにも注目していたが、
1曲目の「METAL KINGDOM」と最後の「THE LEGEND」を除いては見慣れた3人体制で、
サポートメンバーで登場したのは、一番可能性の高かった岡崎百々子だった。
そして見た感じ、“METAL RESISTANCE10章”から踏襲した衣装のように思えた。
また撮影が入っていたようで、3人の周りを小型ドローンが何度も周回していた。
今後映像化されるパッケージには、
臨場感溢れる3人のパフォーマンスが存分に収められていることだろう。
今後のライブの撮影はこの手のテクノロジーが主体となっていくに違いない。

 

ステージに関して言えば、観客に対してものすごく平等でよかったように思う。
移動式のセンターステージは、端から端に何度も移動するだけでなく、
2つのホールのど真ん中に鎮座して長い間パフォーマンスする時間帯もあった。
四方、スタンディングのどの場所からでも公平に見えるので、
メイトたちの満足度は高かったのではないだろうか。

 

あわせて、セットリストもよかった。
コンセプト・アルバム『THE OTHER ONE』に収録されている楽曲は、
だいたいがライブで踊って楽しめる曲というのではなく、
歌とダンスのパフォーマンスで観客たちを魅了するという曲が多いように思う。
だから、このアルバムから新曲を5曲披露し、
そしてライブで盛り上がる旧作をチョイスして間にバランスよく配置した
今回のセットリストは、随分と満足のいくものだった。

 

神バンドの、ラウドなのにタイトな演奏パフォーマンスもさすがの一言。
彼らはほとんどビジョンに映ることはなかったが、
Aブロックからは4人(大村神、BOH神、青山神、ISAO神)の姿はよく見え、
とても楽しげに演奏している姿を何度も目にした。

 

また、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」が始まる前のムービーの冒頭には、
“METALVERSE OF MADNESS”という文字が表示されていたが、これはマーベル作品
「ドクター・ストレンジ / マルチバース・オブ・マッドネス」のオマージュで、
映画の、“この宇宙とは別に違う宇宙が多数ある”という設定も倣っていた。
まさかもう1組のBABYMETALが登場するとは思ってもいなかったので心底驚いたけど、
こういうパロディ、遊び心は、BABYMETALらしい部分でもあるのでほっこりした。
ちなみに別のBABYMETALの3人は、元さくら学院の戸高美湖と木村咲愛、
それから、「ちゃおガール2020オーディション」でグランプリを受賞した
アミューズ所属の加藤ここならしいとのことだ。

 

SU-METALについて言えば、最初の新曲2曲では声が裏返ったりと緊張も見られたが、
徐々に本来のペースを取り戻していき、時に凄味の増した歌唱を、
時に聴き惚れるようなクリアボイスを存分に響かせていた。
そして、ライブが本当に好きで堪らないといった感情がダイレクトに伝わってきた。
彼女が“ただいまー”と発したシーンはある意味、今宵のハイライトだった。
思い返すと、思わずウルっときてしまう。

 

MOAMETALはまた美しさを増したように思えた。
何度もビジョンにアップで映っていたが、大人びた表情に何度も心奪われた。
それでいて、時折見せる人懐っこい笑顔は前のままだった。
ステージとは高低差があったのでダンスの細かいところまではよく見えなかったが、
切れ味鋭いダンスと緩急を付けた艶やかで魅せるダンスをうまく使い分けていた。

 

そしてサポートダンサーの岡崎百々子だが、今までとは違うインパクトを受けた。
髪は茶色がかっていて、体もスリムになっていたからそういう印象を抱いたのだろう。
観客に向けて振りまく笑顔は相変わらずキュートで、
真剣にダンスを踊る姿は目を見張るものがあった。
コロナ前にライブで見た時よりも、
より自然体でパフォーマンスしているように目に映った。

 

色々と振り返ったみたが、率直な感想は“おかえりBABYMETAL”、
そしてライブは“めちゃくちゃ楽しかった”、それに尽きる。
“最高のライブ”は、演者と観客たちで一緒になって作り上げていくものだが、
大声での声援が許された今宵のライブは、
演者と観客、そして携わっているスタッフ全員の気持ちが重なり合って、
見事に一体化した極上のライブショーを作り上げて見せた。
この空間にいるすべての人たちの想い・願いが重なった、最高のシーンの連続。
ライブ中は終始笑顔が溢れ、幸せな時間をみなで共有した。
楽しかったBABYMETALのライブを再び味わうことができて、感無量だった。
そしてそれを明日また堪能することができると思うと、
気持ちは早くも明日に向いた。
僕は喜びを噛み締め続けたまま、帰りの電車に揺られ続けた。
脳裏には楽しかった思い出が止まることなく次々に飛来している。

 

 

 

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