さくら学院 放課後ナンバーマジック ライブレポート

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1.

「昨日のエビ揚餃子おいしかったあ」

 

後輩のK山くんがそう言うので「どこの店?」と訊ねたところ、
店名は「中華料理店『丁丁(ていちょう)』です」と教えてくれたのに、
場所は「僕だけの秘密にしておきたいです」と言って教えてくれなかった。

 

それでも繰り返し訊ねると、彼は露骨に嫌な顔をして首を振り、
終いには、「丁丁だけに丁重にお断りします」と言い放つ始末。
人を食ったような後輩の態度に、言わずもがな、僕は怒りを覚える。

 

なあにが「僕だけの秘密にしておきたいです」だ。
餃子だけに秘密のベールに包んでおきたいってか。
アホか。皮で包まれてるのはおまえの○ン○くらいだろうがよっ!

 

興奮し、餃子だけに袋叩きにしてやろうかと思った時だ。
僕たちの会話を聴いていたのだろう、不意に横から上司の声が飛んできた。

 

「低調な人生を歩んでいるおまえにはK山も教えられないってよ」

 

くだらないダジャレを吐くと、上司はK山くんを連れてさっさと隣の別室へ消えていった。
これから仕事の打ち合わせがあるらしい。
ひとりぽつんと残された僕の気分がささくれ立ったことは言うまでもない。

 

くーーっ、2人して僕をバカにして!
いいのか!? 僕を怒らせると後悔することになるんだぞ!

 

以前、近くの蕎麦屋に入った際、店員の態度が気に入らなかったので、
僕は天ぷらそばをオーダーし、天ぷらだけを残してやったことがある。
それくらい僕は怒ると怖いのだ!

 

子供の頃には、木に止まっているセミを捕まえようとして手を伸ばすも、
セミにおしっこをかけられ逃げられてしまい、
頭にきた僕は怒り任せに木におしっこをかけてやったことがある。
どうだ! 恐ろしいだろ、まいったか!

 

しかし僕がどれだけ入れ込んだところで、もう2人はいないのだからすべては後の祭り。
煮え切らない気持ちのまま僕は思考を巡らせる。
この怒りを鎮めるにはいったいどうすればいいのだろう。
はっ、そうだ。
心を落ち着かせるには「さくら学院」を観るに限るではないか。

 

 

 

そんなわけで、9/27の日曜日にやって来たのは渋谷のTSUTAYA O-EAST。
さくら学院のスタンディングライブが行われる会場だ。
BABYMETALの会員限定ライブは落選続きなのでここに来るのは実に1年3か月ぶり。
わくわくしながら昼の部の開場時間を待つ。

 

会場近くをうろついていると、「前に会いましたよね?」、
すれ違いざまに肩を叩かれ声をかけられた。「ほら、イギリスで」

 

「ああっ」僕は思わず感嘆の声をあげる。「あの時の」

 

父兄、メイトに限らず、リアルの知人が少ない僕には、
声をかけられること自体がめずらしいことではあるのだけれど、
その少ない顔見知りの方とこうやって違う現場で再会できるのはうれしい限り。
「お互い今日は楽しみましょう」
がっちりと握手をしながら短い言葉を交わした。

 

 

 

やがて開場時刻となり、次々に父兄たちがハウスの中へ吸い込まれていく。
整理番号4桁の僕は、かなり後になってから入場し、1階後方に陣取る。
とはいえ、小箱なので、ステージは肉眼で見える距離だ。
この位置でも十分楽しめることは知っている。
客入れSEでいろいろなアイドルの楽曲が流れているが、
他のアイドルに疎い僕には可憐Girl’sの「MY WINGS」くらいしかわからなかった。

 

影ナレを担当したのは小等部6年の日髙麻鈴だった。
「Ladies and gentlemen!」
彼女のネイティブ発音に会場からどよめき交じりの歓声が上がる。
TIFでお馴染みの白いTシャツ姿の12人が下手側から登場してくるとたちまちフロアは興奮の坩堝。
後方にいる僕も、アイスの棒に「あ」が見えた瞬間くらいの興奮を覚え、
生で見れる嬉しさのあまり、今すぐにでも、とんがりコーンを指にはめたくなる衝動に駆られた。
さあ、親愛なる父兄たちよ、
温かい目と心を持って共に彼女たちのステージを存分に堪能しようではないか。

 

 

 

 

2.

以下、セットリスト

01. ベリシュビッッ
02. チャイム
03. School Days
–. MC(自己紹介)
04. Song for smiling
05. FRIENDS
06. Hello ! IVY
07. マセマティカ!
–. MC
08. 負けるな!青春ヒザコゾウ
09. Hana*Hana
–. MC(購買部)
EN1. ピース de Check! / 購買部
EN2. 君に届け

 

生徒たちが2列になり、「ベリシュビッッ」でライブの幕が上がる。
楽曲の勢いそのままに、生徒たちが活き活きと躍動する。
フロアの父兄たちも最初からノリノリだ。
フリコピする者もいれば全身を揺らしてコールする者もいる。
思いのほか山出愛子の歌声が高くてキュートでちょっぴり驚く。
可愛らしい笑顔の少女たちの中にあって、若い頃の富永愛のような端正な顔立ちはひと際目立つ。
ステージを俯瞰して眺めると自然と岡田愛に目がいった。あれ、また背伸びた?

 

 

※画像:音楽ナタリー(以下同)

 

続く曲は「チャイム」。
生徒たち全員の表情が輝いている。
洗練されたダンスに魅了される。
そして曲は冒頭の合唱を省いた「School days」へと続く。
「つぼみ咲け~、さくら咲け~」のところでは、
父兄たちの連なる頭の大地からたくさんの腕が生えてくるように目に映った。
生徒たち全員の表現力は一段と高まったかのように思える。

 

それにしても、この清々しいほどの気分はどうだ。
さくら学院は一種、心を浄化してくれる清涼剤のようなもの。
彼女たちを観るだけで大きなカタルシス効果を得られる。
と同時に、僕は自分のすれた部分を恥じた。
これからはもうアイスの蓋の裏を舐めまわすようなことはやめようと思う。

 

 

 

3曲終えたところで自己紹介MCへ。
トーク委員長の面目躍如といったところか、白井沙樹が淀みなくトークを繋いでいく。
今回は「好きな寿司ネタ」をお題にそれぞれが自己紹介をすることに。
印象に残ったのは、「タコ」と答えるも他の生徒から英語で言ってとつっこまれ、
「オクトパス!」とネイティブイングリッシュで答えた日髙麻鈴。
それと寿司ネタとは関係のない答えを発した3人。
岡田愛は「シーサラダ」、大賀咲希は「牛カルビ」、磯野莉音は「チョコケーキ」だった。
しかも磯野莉音は、「あん肝軍艦」と答えた倉島颯良に向かって
「あん肝」って名前の魚がいるの? とまじめに訊き返して父兄たちに笑いを提供した。
そして今年の夏に参加したイベントを少し振り返ってからライブは再開されたのだけれど、
藤平華乃が横浜アリーナの広さを「地球くらいの広さ」と形容したことに会場は大いに沸いた。

 

ここで驚いたのは、次に「Song for smiling」が披露されたことだった。
もはや鉄板ネタになりつつある、日髙麻鈴のネイティブ発音によって曲名が告げられると、
歓声に混じって驚嘆の声も上がっていた。
僕もこの曲は初めて生で観るので一気に気分が高揚した。
そして曲中はテンポのよいクラップ音が何度も会場にこだました。

 

 

 

続く曲は「FRIENDS」。
おー、ここで来たか、と思いながらステージ上を凝視する。
この曲はリズムに乗るというより、PVの影響だろう、ペアで形成する6組をじっと見入ってしまう。
そしてペアを組んでいる各々はどういった心境で踊っているのだろうと思いを馳せてしまう。
「じゃんけんポン」のところでは、日髙麻鈴と藤平華乃が左右のお立ち台に立ち、
フロアに向かって愛くるしい笑顔を振りまいていた。

 

続いて「Hello ! IVY」が始まると、僕はピンクのフラッグを素早く用意する。
そして最後方から、ピンク色のさざ波を眺めながら一緒に旗を振る。
曲が終わると生徒たちは一度ステージから退場した。
イントロから、次の曲が「マセマティカ!」であることはわかる。
そして生徒たちはまたステージに戻ってくるのだけれど、なんと、その「マセマティカ!」の
MVの中で身に纏っている、シャツの前に番号が描かれた衣装に着替えていたから驚いた。
これには僕だけでなく、多くの父兄たちも嬉しかったのではないだろうか。
MVの衣装でライブをやるといった趣向はこれまでに記憶がない。
そして僕は、はたと気づく。
ライブのタイトルに銘打たれた「~放課後 ナンバーマジック~」とはこれのことかと膝を打った。

 

 

 

ライブで初めて観る喜びと、衣装姿を観れる喜びと、2重の喜びに心が支配される。
黒澤プロの表現力はさすがだが、同じ転入組の岡崎百々子のそれもかなりレベルが高い。
彼女たちの一糸乱れぬ歌とダンスに僕の身と心はとろとろとろけていった。
再び心が浄化されていく気分を味わう。
と同時に、また自分のすれた部分を恥じる。
「ロックがあれば女なんていらねえぜ」なんて強がりを言うことはもうやめようと思う。

 

ここでまたMCが挟まれ、白井沙樹が場を仕切る。
彼女はまず、自分の4という番号が携帯電話のアンテナのようだと職員室の先生に言われたと
いって会場の笑いを誘いつつ、衣装の可愛らしさをアピールした。
そしてシャツの番号どおり、つまり背の順番どおりに並ぶ12人。
ただしこれは4月の時点での背の順番ということで、現在の背の順番に並びなおすことに。
すると7番の麻生真彩がするすると白井沙樹の横に行く。
彼女はこの短い期間の間に随分と身長が伸びたようだった。
これぞまさに成長期限定ユニット。
こういった彼女たちの実の成長も見守ることができるのもさくら学院の魅力の一つ。
ちなみに最年少の吉田爽葉香もこの夏の間に3センチ身長が伸びたとのことだった。

 

「では、せっかく背の順に並んでいるので次はあの曲を!」
大賀咲希の前振りで再開したライブの次なる曲は「負けるな!青春ヒザコゾウ」
磯野基準で他の生徒たちがはきはきと号令を発し、ステージ上を所狭しと躍動する。
そういえば、他の生徒たちには名前のコールが多かったのに、
磯野莉音には随分と「磯野!」という掛け声が多かったように思えた。
それを何度も聞くうちに思わず「なんだよ中島」と返しそうになったのは僕だけだろうか。

そして最後の曲と言って始まったのが「Hana*Hana」。
大好きな楽曲だからタイトルコールだけでテンションが上がる。
ここでもまた山出愛子の歌声が気になったが、大賀咲希や黒澤美澪奈も同じように
可愛らしい歌声に聞こえたのでもしかしたらボーカルエフェクターの問題なのかもしれない。
12人全員が明るく歌い、可愛らしい振り付けで踊りきってライブは終了となった。

 

 

 

アンコールが続く中、ややあって登場してきたのは購買部の2人。
そしてマセマティカセット、下敷き、ステッカーなどを次々に紹介していく。
当初、少し舌足らずなしゃべり方をする吉田爽葉香は購買部には合わないんじゃないかと
疑問を抱いていたが、今日のMCを聞いて僕は考えを改めた。
彼女の突き抜けたキャラクターは、めがねに非ず、声にある。
その特徴ある声の魅力を最大限に発揮できる購買部はまさに彼女にぴったりの倶楽部だ。

 

それから、2人がそのまま曲を披露する。
アンコール1曲目は「ピース de Check! 」
野津友那乃改め本条友奈埜が吉田爽葉香に代わっただけで雰囲気はがらりと変わった。
そして曲の終盤に他の生徒たちが揃って登場すると、
短い告知を挟み、最後の「君に届け」へと続いた。

 

 

 

「誰よりも真っ直ぐな 君知ってるから ちゃんと聞いていてね ワタシ史上最高のアリガト!」

この曲を聴くとどうしても菊地最愛をイメージしてしまうのだけれど、
今日のライブで観終えた時にはそのイメージは一新されていた。
2015年度版の「君に届け」も大変素晴らしいものであった。
見入ってしまうフォーメーションダンス。全員の表現力もレベルが高い。
そして友に対する想いが彼女たち全員の歌唱から滲み出ていた。

 

昼の部のライブが終了し、生徒たちが手を振りながら袖にはけていく。
僕は手を振り返しながら心の中で謝意を述べる。
「君たちのおかげで荒んでいた僕の心は洗われたよ!」
と同時に、またしても自分のすれた部分を恥じた。
横のラインが5本もあるのに「これはアディダスだよ」と嘘を言うのは今後やめたいと思う。

 

 

 

 

 

 

3.

ドリンク片手にライブハウスを出る。
夜の部の行列を尻目に帰路につく。
その夜の部では、白井沙樹のDJによる放送があったり、
その白井沙樹へ他のメンバーからのバースデーサプライズがあったりと盛り沢山だったらしく、
後になって夜の部のチケットも買っておけばと後悔したが、過ぎてしまったことは仕方がない。

 

駅までの道すがら、僕は今日のライブを振り返る。

 

さくら学院の魅力については「さくら学院 2014年度 卒業式」観覧レポ ~さくら学院を帰命せよ~
の中である程度触れているので割愛させていただくけれど、
今日のライブで感じたこと、感心したことを1つだけあげるとすれば、それは、
さくら学院の生徒たちの、ステージに立つ「心構え」がしっかりとできているところだろうか。

 

BABYMETALのSU-METALこと中元すず香が、「可憐Girl’s」として活動していた2008年頃に、
「プロとしてこの世界でやっていくんだったらステージ上では絶対に泣かない」と、
演出振付家の水野幹子先生(MIKIKO先生)と約束を交わしたという逸話は有名ではあるが、
さくら学院の生徒たちもみな、開校時より、MIKIKO先生または和音先生から、
真っ直ぐ歌うこと以外に、ステージに臨む姿勢や覚悟、心構えなども常に指導されている。
場所がどこだろうが、観客の数が多かろうが少なかろうが、
いつも同じ気持ちで全身全霊でパフォーマンスすることを刷り込まれているのだ。
だから彼女たちが曲中に集中を切らすことはほとんどなく、
それがパフォーマンスの質を上げ、さらには一体感へと繋げている。
まず1本筋の通った、プロとしての崇高な気持ちがあり、それから歌唱にダンス。
それらを高レベルで体現できてはじめて、
父兄たちをさらに魅了させるあの豊かな表現力を磨き上げていっているのである。

 

その表現力をさらに向上させるには、これはもう、ライブを重ねることでしか叶わないのだろう。
ヘドバンのどの号だったかは忘れてしまったが、MIKIKO先生は当該雑誌内のインタビューで、
「BABYMETALのライブが3人を育てていると思う。客の盛り上がっていくあの異様な雰囲気は、
本人達も脳裏から抜けないと思う。それゆえライブはお客さんとの闘いでもあるが、
そこに立ち向かう精神は私にも教えられない」といったようなことを答えていたと思うが、
これはそのままさくら学院にも当てはまり、ライブが進むたびに父兄たちが熱狂していく様子は
間違いなく生徒たちの脳裏に残り、もっと高みを目指してさらにパフォーマンスの質を
上げていこうという気持ちにさせていくのだと思う。
だから今回のようなスタンディングライブは、彼女たちの芸能部分の成長を促す上では
非常に大きな経験となるから、賛否はあろうがこの形式は継続されるべきだと個人的には思う。

 

毎年夏は生徒たちが大きく成長する時期。
その言葉どおり、今日は期待を裏切らない素晴らしいパフォーマンスだった。
次のライブは学院祭。12月には5周年ライブも行うらしい。
それまでに彼女たちがどれだけ成長するのか、今から楽しみで仕方がない。
清々しい気分で僕は電車に乗り込み家路についた。

 

 

翌日。

上司に所用があって席に行くと彼の姿はなかった。
ただ机の上に「しばらく戻りません」というメモがあったので会議でもやっているのかなと思い、
別屋を覗いてみたところ、 靴を脱ぎ、机の上に足を乗せて昼寝をしている上司の姿を発見した。
どうも仕事をさぼっているようだ。
その偉そうな姿勢がどうにも許せなかったので、
僕は脱ぎっぱなしの上司の靴を持って屋上へ移動すると、屋上の隅にその靴を揃え、
そして靴の横に「しばらく戻りません」のメモを添えてやった。
先日僕をバカにした仕返しだ。これくらいのことは特に問題はないだろう。

 

鼻歌交じりに部屋に戻ると、「先輩、僕、週末に旅行で福岡に行くんですけど」、
いきなりK山くんが声をかけてきた。「おいしい屋台ってありますか?」

 

K山くんは僕が福岡出身だということを知っている。
訊けばなんでも彼女を案内したいとのことだ。

 

屋台か。僕は中州の那珂川沿いの屋台が好みたいね。
博多弁で回想している時だった。不意に彼にも仕返しを思いついた。
僕は不敵な笑みを浮かべてK山くんに言った。
「屋台だけに、おまえに教えるのは嫌たい」

 

 

 

 

 

※文中の画像の順番は適当です

 

 

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