BABYMETAL ROCK IN JAPAN’16 ライブ レポート

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1.

TLで確認していたからある程度覚悟はしていたものの、
実際に会場に着くと人の多さに呆気に取られてしまった。
1日入場券の列は歩道に沿って果てしなく続いており、折り返すだけで25分もかかった。
いったい何時になったら入場できるのだろうか――。
8時15分となり、列の中でひとり黙祷を終えた後、僕は遥か遠くに視線を向ける。
やはり随分と遠くまで歩いてきたようだ。
フェス会場である“ ひたち海浜公園 ”は、すでに目視では確認することができなくなっている。

 

 

 

水戸駅を発つシャトルバスは、午前7時が一番早い便だった。
会場までの所用時間は約40分。
フェスの開場時間は午前8時だからおそらく間に合うだろう。
前泊したビジネスホテルで思い描いていたその目論みは、早々にして脆くも崩れ去っている。
朝から容赦なくジリジリと照らしつけてくる日光が僕の心をもジリジリと焦らしてくる。

 

2000年に初めて開催された「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」。
年々規模は拡大し、2014年からは、8月の第1週目の土日と2週目の土日の計4日間開催となった。
そして昨年は4日間のチケットがすべてソールドアウト。
述べ25万人を動員し、187アーティストが参加した日本最大の野外ロック・フェスティバルである。

 

その「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」のメインステージにBABYMETALが登場する。
出演時間が夕方あたりであれば、フジロック同様、日帰りで観に行くつもりだったが、
昼前の出演とあってはそういうわけにもいかなくなった。
タイムテーブルが発表された直後、僕はすぐに最寄りのビジネスホテルを予約した。
ちなみにBABYMETALは3年前にも出演しているが、その時はDJブースの小さなステージだった。

 

 

 

程なくしてようやく入場口に戻ってきた。
チケットとリストバンドを交換し、簡単な手荷物検査を受ける。
入場し、場内をひととおり眺める
海浜公園というだけあって見晴らしは良好。強烈に夏を感じさせる最高の景色だ。
2週間前のフジロックの山岳風景は絶景だったが、青空が広がる海岸近くの公園の眺めも格別だ。

 

 

 

今回は物販ブースには寄らず、真っ先にクロークへ直行。
荷物を預けた後はとりあえず場内をぐるりと一周する。
全部で7ステージもあるのでさすがに会場は広い。
一度入場口に戻った後は、左回りのまつかぜルートからメインステージに向かった。
途中にドリンクを購入し、喫煙エリアで少しばかり時間を潰す。
健康的な肌を日光に曝した若い女性陣が、喫煙者を捉まえては新発売のタバコのPRを行っている。
大きな国内フェスではお馴染みとなった光景だ。
話を聞いている来場客のBABYMETAL TEE着用率も相変わらず高い。
メイトの年齢層は元から高いが、多くの若者が集結する同フェスではそれが否応なく目立っている。

 

午前10時を回ったあたりでメインステージに移動する。
BABYMETALの開演時刻は午前11時50分なので、すでに2時間を切っている状況だった。
だから僕は飲み物は持参せずに手ぶらの状態でメインステージに向かった。
2時間くらいならなんとかなるだろう。
その時は安易にそう考えていた。
今思えば、この真夏の炎天下でそれは自殺行為でしかなかった。
それから約2時間半後、僕は地獄を見る羽目となってしまうのだった。

 

 

 

 

2.

 

メインステージであるGRASS STAGEにはだいぶ客は集まってはいるが、まだまだ余裕があった。
テントゾーン、シートゾーンを過ぎ、広範囲のスタンディングゾーンへ入っていく。
人々の空間を通って前の方へと進んでいく。
近くで見るとステージの巨大さがよくわかる。
けれどそれ以上にデカく感じたのは、ステージの左右に備え付けられた大型ビジョンだった。
これだけの大きさであれば、最後方のテントゾーンからでも出演者の姿は確認できるだろう。

 

最前エリアが柵で囲まれているのは事前の情報で知っていたけど、実際に目にすると、
その小さなピットエリアはモッシュをするにはかなり狭すぎた。WODはまず無理だろう。
僕は少しばかりその場で逡巡した。
果たしてBABYMETALのライブを楽しむにはどの場所が一番最適だろうか。
結果、“ 試し ”にと、僕はその最前エリアの中へ入っていった。
圧縮がキツくて無理と判断すればすぐ後方の大きなエリアへ逃げればよい。
その時はそんなふうに単純な考えでいたのだった。

 

 

 

小さなピットエリアの中に入っていくと、僕は後ろの柵の少し前あたりに陣取った。
ざっと見た限り、やはり最前付近はメイトが占めているようだった。
それ以外は、当たり前だが、トップバッターである10-FEETのTシャツを着た客が多い。
そしてそのほとんどは、メイトとは対照的な若者ばかりだった。
ロッキンのフェスT、そして京都大作戦のフェスTを着ている人も多く目に付く。
さすがは京都大作戦の企画発起人のバンドといったとこだろうか。

 

10-FEETの開演前に、ロッキング・オン代表取締役社長である渋谷陽一の挨拶が始まった。
初日の67500枚のチケットは完売したと誇らしげに語っている。
彼による挨拶が終わると、いよいよ10-FEETのライブが開始となった。
途端に多種多様な10-FEETのタオルを広げ、両手で高く掲げる観客たち。
そうやって10-FEETの登場を待つのは、今では恒例となっている儀式なようなものだった。

 

 

 

この場所はヤバいなと思ったのは、彼らのライブの1曲目「hammer ska」が始まった直後だった。
10-FEETのファンが小さなサークルを作るだけで、
僕の体は人と柵に挟まれてまったく身動きが取れなくなってしまった。
そうでないときでも、すでにキャパオーバーなのだろう、横に少し移動することさえできない。
しかも後ろのエリアへの通路は柵で閉じられてしまっている。
「super stomper」「風」と曲が続く中、僕は圧縮に耐えながらライブを堪能したのだった。

 

ボーカルのTAKUMAの指示の下、途中に観客たちが幾つものピラミッドを作った。
僕は彼らのすぐ後ろから、その異様な光景を眺め続ける。
MCを挟みつつ、10-FEETのライブが終盤を迎える。
「RIVER」の際は、僕もモッシュの波に巻き込まれてぐちゃぐちゃになった。
すでにTシャツは汗だく。靴も砂塵で茶色に変色している。
楽しいのは楽しいのだけれど、圧縮がキツすぎてかなり体力を奪われる結果となった。

 

 

 

10-FEETのライブが終わるなり、僕は急いで後方エリアへ移動する。
さらに後ろの方へ下がっていくと見知った顔を多く見かけた。
BABYMETALのライブの時は、ここらあたりが最大のモッシュピットになるのだろう。
僕はその位置で停止すると、BABYMETALの開演を待ち続けた。
頭はタオルで護っているが、それでも強烈な直射日光によって時折軽い眩暈を起こしそうになる。

 

ふと周りを見ると、随分と若い客層に囲まれていた。
カラフルなフェスTを着ている人が多い。
おそらく彼らのほとんどは、BABYMETALを生で観るのは初めてなのだろう。
しかしそんな中、THE ONEのフードタオルを羽織っている若い女性の姿もそれなりに目に付いた。
黒TEEを着ている中年男性は相変わらず多いが、若いメイトの数もある程度確認することができた。

 

 

 

ステージ上に神バンドが姿を現したのは開演15分前あたりだった。
場内の至る所から神々の名前を呼ぶコールが沸き起こる。
全体的にはBOHコールが多いのだが、僕の周りではみきおコールが一番多かった。
ややあって、神バンドが「あわだまフィーバー」の曲でサウンドチェックを始めると、
周りからは歓声が上がり、中には、タイトな演奏に感嘆の声を上げる者もいた。
開演が刻一刻と迫る中、会場全体は次第に熱気に包まれていった。

 

後方をぐるりと確認すると、多くの観客がメインステージに詰めかけていた。
まだお昼前の時間だというのに、おそらくは4、5万人は集っているだろう。
昨年末の「COUNTDOWN JAPAN 15/16」では、BABYMETALのライブが終わった後、
ロキノン系の音楽が好きな多くの若者たちが、
BABYMETALを観て衝撃を受けたといった内容のツイートをしていたが、
間違いなく今回のライブ終了後も似たような状況になるのだろう。
目を輝かせながらステージを眺め続ける多くの若者たちに囲まれながら、
僕は微笑を浮かべて開演を今か今かと待ち続けたのだった。

 

 

 

 

3.

セトリ

01. BABYMETAL DEATH
02. ギミチョコ!!
03. Catch me if you can
04. ヤバッ!
05. イジメ、ダメ、ゼッタイ
06. メギツネ
07. KARATE
08. Road of Resistance

 

大型ビジョンにムービーが映り、「BABYMETAL DEATH」のイントロが流れ始める。
周りの初見の観客たちの目はビジョンに釘付けになっている。
神バンドが登場すると、ひときわ大きな歓声が沸き起こった。
フードタオルを被った3人が登場すると歓声はさらに大きくなっていった。
視界に映るほとんどの観客がキツネサインを空高く掲げている。
いつものことだが、それは壮大な景観としか形容のしようがない。

 

開始直後の圧縮によって前方には少しばかり空間が生じていた。
少し進んでそれを埋めつつ、僕は周りに視線を這わせる。
要領を得ているメイトたちが、周りに指示を出して早くもサークルを作り始めている。
その様子を、初見の人たちは、興味津々といった様子で見守っている。
程なくして小さなWODが起こり、その後はサークルモッシュへと続いていった。
それを楽しみたい人は中へ入り、そうでない人は端の方へ避難している。
大量に舞う土埃もなんのその、僕も嬉々としてモッシュの荒波に揉まれて生のライブを楽しんだ。

 

「BABYMETAL DEATH」でスタートするライブは、いつだって血沸き肉躍る感覚を呼び起こす。
そして初見の人たちが受ける衝撃度も半端ない。
BABYMETALの楽曲をまったく知らない人も、その“ ただならぬ凄み ”に度肝を抜かれ、
他のことには一切思考は及ばず、ひたすらに、目の前で起こっていることを傍観するしかない。
今回もまた、そういった様子でステージを凝視している初見の人たちが周囲には多くいた。

 

時折、3人の表情が大型ビジョンに映し出される。
鋭い目つきのSU-METAL。クールな表情を崩さないYUIMETALはいかにも女優然としている。
しかしその一方で、MOAMETALだけは、最初の「B!」とコールする時から満面の笑みだった。
多くの観衆を目にしたからなのか、それとも単純にライブが楽しいからなのかはわからないが、
いずれにせよ、彼女のその天真爛漫な笑顔に多くの観客たちが魅了されたことは確かだろう。
灼熱の太陽に照らされる3人の姿からは、その太陽よりも、随時まばゆい輝きが放たれている。

 

キツネサインを掲げて DEATH! DEATH! と連呼するメイトの姿は、
客観的に眺めると、いつだって異様な風景でしかない。
しかしながらその熱狂具合は本物で、そしてそういった彼らの熱情は次第に周りに伝播していく。
多くの初見の若者が見よう見まねでキツネサインを掲げて DEATH! DEATH! と大声で叫んでいる。

 

「BABYMETAL DEATH」が終わって「ギミチョコ!!」のイントロが流れ始めると、
周囲がざわつく様子が見て取れた。
そして曲が始まるや周りではすぐにモッシュが発生した。
「BABYMETAL DEATH」の時よりもリズムに乗って体を揺らしている観客の数は明らかに多い。
ライブ初見の人でもこの曲くらいは知っている、周りの様子からそういった印象を受けた。

 

曲が進むにつれて周囲の人々の密度が増してくる。
男どもに混じって、10代らしき若い女性も随分多い。
やはり日本では、相変わらず “ 合いの手 ” を合唱する人が圧倒的だ。
至る所でメイトたちが “ ズキュン! ” “ ドキュン! ” と大声で叫んでいる。
そしてSU-METALの「クラップユアハンド」の掛け声では、みなが一斉に手拍子を始めた。
「プリーズ!」の直後に激しいモッシュが起こるのはもはや定番となっている。
ぐるぐると回るサークルモッシュの大きさは野外のフェスならではだ。
興奮具合がさらに高まったところでやがて「ギミチョコ!!」は終了した。

 

周辺から「ヤバいね」「凄いね」といった声が漏れ聞こえてくる。
おそらくそれは、複合的な要素に対する率直な感想なのだろう。
歌もそう、曲もそう、演奏もそう、ダンスもそう、そしてメイトの異常なノリもそう。
初見の人は終始メイトたちの盛り上がる様子も興味津々といった具合で眺めているようだった。

 

3人が一旦袖にハケると、神バンドの面々がお立ち台に上がった。
観客たちがものすごい大きな声で「オイ! オイ!」と手を上げて叫んでいる。
それから、演奏者の各々が高度なソロ演奏を披露した。
藤岡神も大村神も若干アレンジを変えているようだった。
BOH神の演奏中は、その演奏テクニックに見入っている人がかなりいた。
青山神のツーバス連打に、周りから大きな歓声が沸き起こる。
無邪気な様子でハイハットを叩くBOH神がビジョンに映ると、僕は思わず苦笑いを浮かべた。
演奏真っ只中の青山神ではなく、そのシーンがフォーカスされていたことが苦笑した理由だった。

 

満を持して3人が「ハイ! ハイ!」と声を弾ませながら躍り出てくる。
観客たちもそれに呼応して片手を突き上げている。
真夏の日差しを浴びながら、3人がステージ上で楽しげにかくれんぼをする。
すぐ横では、すでにサークルモッシュが始まっていた。
僕はぐるぐる回っている人たちとハイタッチを交わし続ける。
黒TEEとそれ以外のTシャツの比率は半々といった感じだった。

 

会場の盛り上がりはここにきてさらに一段上がった印象を抱いた。
サビに入る前の手拍子は轟音のようにこだましている。
3人が笑顔でお立ち台に上がり、
SU-METALが「アーユーレディ? ロックインジャパーン!」と叫ぶ。
そして再び「エブリバディ、クラップユアハンド!」と煽る。
しかしながらその後に続く煽りは、これまでのぐるぐる回れという指示ではなく、
なんと「さあここで、かくれんぼをしようか」という煽りだった。
周りは反応して歓声を上げているが、僕にはその意味がよくわからなかった。
が、考えても仕方がないので結局は周りに合わせることしかできなかった。

 

SU-METALが「みんな広がって」と声を張ると、観客たちは大きなサークルを作り始めた。
途端に人々が密着し、身動きがほとんど取れない状況となった。
それでもなお、YUIMETALとMOAMETALの2人が、なんとも可愛らしい声で
「もっともっと」、「ちゃんと広がって」と訴えてくるから何とか動くほかなかった。
しかし状況は厳しく、周りからも「もう無理」という声がちらほら上がり始めていた。
だけどそこで間髪入れずにSU-METALが「もっといけるよね?」と、
愉快なる冷淡といった声の響きで簡単に言うものだから、
メイトのほとんどは急に押し黙り、再び従順に輪を広げようと少しずつ動き出した。
もちろん僕も従ったのだが、周囲のその状況は、客観的に見ると可笑しくて仕方がなかった。
やはり絶対女王の命令には、メイトは決して逆らうことはできないようだ。

 

とてつもなく膨れ上がった巨大なサークルは、随時、粉塵を巻き上げている。
そしてYUMEIATLとMOAMETALの「みーつけた」を合図に、
中心に向かって一気に人が流れ込み、あっという間に空間はぐちゃぐちゃの状態となった。
その間隙を縫って、十数人の観客が一気に前の方へと走っていった。
隙あらば少しでも前に行こうとチャンスを窺っていたのだろう。
僕もこっそりと彼らの後に従って少しばかり前に移動した。

 

周辺にいる人たちは誰もが笑みを浮かべている。
これぞBABYMETALのライブの真骨頂だろう。
初参戦の人も、少し体験しただけで、ライブの楽しさは十分に理解したのだと思う。
そうしてお祭り騒ぎのような熱狂が続く中、曲は4曲目の「ヤバッ!」へと続いていった。

 

持ち時間が同じだから、おそらくはフジロックと同じセットリストとなるのだろう。
イントロが始まるなり、僕はその場でツーステップを踏んだ。
目の前にいる、水色のフェスTを着た若い女性が、同じようにツーステップを踏んでいる。
だけど踊っているのは、僕の周りでは彼女ひとりだけだった。
この曲でツーステップを踏むのは、やはりメイトの間ではまったく浸透していないようだ。

 

青空に響くスカのリズムがとても気持ち良い。
若い頃に何度か体験した“ ジャパンスプラッシュ ”をふと思い出した。
フリコピをしている人の姿もちらほらと目に付いた。
“ 気になっちゃってどうしよう ”と、僕は周りを気にせずに頭を前後に激しく振った。

 

「ヤバッ!」を歌うSU-METALの声が途切れ途切れとなる。
おそらくは風の影響で音が散っているからなのだろう。
やがて「ヤバッ!」が終わると、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のイントロが流れ始めた。
すぐさま周囲から「Wall of Death!」の声が上がる。
そして瞬く間に巨大なサークルがピット中央に現れたのだった。

 

その巨大なサークルの中央には、おそらくは何度も仕切ったことがあるのだろう、
慣れた感じのメイト数人が周囲を煽るように手を上げて「オイ! オイ!」と叫んでいる。
そしてSU-METALの咆哮と同時に走り出す観客たち。
それに参加している人たちは、やはりここでもメイト半分、それ以外が半分といった按配だった。
その後は誰もが笑顔を浮かべてモッシュを楽しんでいる。
途中に誰かが転んだので、僕はそこで両手を上げて「ストップ!」と声を張った。
その後の周りの観客たちの対応はフジロックの時よりも迅速だった。

 

それにしても舞い上がる土煙の量がすごい。
それだけ多くの人が Wall of Death に参加したということなのだろう。
僕は砂埃まみれの頭髪を振ってヘドバンをする。
青空に響くツインギターの音色がなんとも心地良い。
そしてまたサークルモッシュをしている人たちと笑顔でハイタッチを交わし続けた。

 

ダメジャンプでは、多くの人が大声で叫びながらジャンプしている。
その光景もまた壮大だった。
バイバイで一緒になって手を振る人も多い。
ブリッジでは大勢が親指を立て、それを重ねようと密集している。
間奏のツインギターの音色はとても刺激的で、観客たちの熱狂をさらに引き上げている。
この異様なほどの盛り上がりは、曲の終盤になっても衰えることはなかったのだった。

 

曲が終わったところで僕はステージ上を注視する。
やはりこの炎天下の中でのライブは、観客だけでなく、演者にとってもかなり過酷なのだろう。
神バンドの細かな様子まではわからないが、フロントの3人は、
こまめに水分補給を行うことで暑さ対策を施しているようだった。
そして3人の準備が整ったところでライブは次曲「メギツネ」へと続いていった。

 

イントロが始まるなり、多くの観客たちが両手を上げ下げして「オイ!」と叫んでいる。
それはまさに、巫女がわが身に神霊を乗り移らせる神降ろしの儀式といった様相だった。
果てに3人が「ソレッ!」と躍動すると、儀式を無事に終えた観客たちは、
まるで狂気の沙汰といった具合にその場で激しく踊り始めた。
みんなが踊り狂う「メギツネ」のこの絵は、いつだって身震いがするほど壮観だ。

 

ブレイクダウンの直後、もはや恒例となったあの煽りが始まる。
SU-METALが「エブリバディ、シットダウン!」と声を張る。
YUIMETALとMOAMETALが「後ろの人も~」「横の人も~」と続く。
見渡すと、かなり多くの人が座っている光景が目に留まった。
座った人の数は、おそらくは過去最大の人数だろうと思われた。

 

「私たちが、カウントをとったら、一緒に飛びましょう」
MOAMETALの陽気な声に反応して湧き上がる観客たち。
そしてSU-MEYALの「1、2、3、ジャンプ!」で一斉に彼らは飛び跳ねたのだった。
途端に視界全体が揺れに揺れた。
「ソレッ!」の掛け声の代わりにSU-METALが「ジャンプ!」と叫んでいるが、
どうも3人一緒に声を張っているようだった。
そしてその「ジャンプ!」の掛け声は、今回はいつもよりも倍の長さで続いた。
その後、横ではモッシュが起こっていたが、僕は最後までヘドバンを続けた。

 

「メギツネ」が終わると、フロントの3人はまた水分補給を行っていた。
ステージ上にも日が差し込んでいるからかなり暑いのだろう。
そして3人が中央に揃うと、次曲の「KARATE」が始まった。
僕はすぐさま目を閉じてギターの刻み音を全身で感じる。
楽曲の隅々まで堪能するように上体を大きく揺らし続ける。

 

ここらあたりで、頭が少しずつクラクラしてきたけれど、ライブはすでに終盤。
今楽しまなければいつ楽しむんだという思いで、僕はその後もヘドバンを続けた。
透き通るSU-METALの声がいつも以上に気持ち良く脳内で響き渡っている。
周囲の「ウォウォ~」の掛け声は、これまでで一番大きくて揃っているように感じられた。
もしかしたら初見の人たちも初めて聴くこの曲に共鳴しているのかもしれなかった。
ふと横を見ると、大勢の人が肩で円陣を組んで折り畳みヘドバンを行っていた。

 

やがて間奏となり、コール&レスポンスが始まる。
SU-METALがお立ち台の上ですくっと立ち上がり、愁いを帯びた瞳で場内を一望する。
それだけで僕の心は彼女に完全に奪われて、ただただ凝視することしかできなかったのだけれど、
その後の彼女の日本語による「話しかけ」により、僕のハートは一気にスパークした。
自然と「うぉー!」という叫びが口から洩れる。
何とも言えない感情がない交ぜとなって胸中でうごめいている。

 

「みんなの声聞かせて」 「一緒に歌ってくれる?」

 

SU-METALのその澄んだ声は、
たとえばジブリアニメのヒロインが発する台詞のような筋の通った張りがあった。
それでいて、ビジョンに映るSU-METALの表情は、凛とした中に憂いを孕んでいたので、
それはもはや、青春映画の中の重要なワンシーンのようにしか思えなかった。
この一連のシーンを、仮に映画館の大きなスクリーンで観たとしたら、
美しさのあまり、僕はボロボロと涙を流していることだろう。
SU-METALは、その容姿だけではなく、佇まいのみで、映画の主役を張れるかもしれない。
単純な僕には、数万もの大観衆を惹き付ける彼女の姿は本物の“ Diva ”としか例えようがない。

 

「ウォウォ、ウォウォ、ウォウォ~」とSU-METALが唄う。
「ウォウォ、ウォウォ、ウォウォ~」と観客たちがそれに続く。
その時の会場の一体感は、まるでみんなの魂が1つになっているかのようだった。
そうしてエモーショナルなC&Rが終わりを迎えると、あの「エブリバディジャンプ!」の時だ。
観客たちが各々大きく飛び跳ねると場内は一瞬にして興奮の坩堝と化した。
SU-METALが「走れ」と歌い上げた時にはぶるぶると身震いし、両腕にはまた鳥肌が立っていた。

 

アウトロが響く中、ビジョンに映る3人の姿を眺めていると、
急に感極まって、思わずそこで泣き出しそうになった。
だけど僕はなんとか堪え、最後の曲、「Road of Resistance」の開始を待つ。
不穏な響きの法螺貝が場内に轟く中、3人が旗を手にステージの中央に並び立つ。

 

ぐらりと頭が揺れたのは、美しいギターオーケストレーションの音にうっとりしている時だった。
気が付けば両手の指先が微かに痙攣していた。
僕はグッと歯を食いしばり、なんとか意識を保とうとする。
額に手をやるとかなり熱かった。もしかしたらこれが熱中症なのだろうか。
ふとそんなことを気にし始めていると、真横に細長い空間ができているのが目に留まった。
確認すると、それは Wall of Death のために広げられた、縦に長い空間だった。
それは朦朧としている僕の脳裏に、映画「十戒」の中のモーセが海を割るシーンを想起させた。

 

そもそも“ WALL of Death ”は、大昔の合戦の如く左右に分かれ、
曲が始まった瞬間に全員が体ごと突撃する最も危険なモッシュであるからこれが正しい形である。
SU-METALのそれを示唆する合図、平泳ぎをするような仕草も、この縦に長い形を示している。
もしかしたら今後のライブでは、もちろん大きな会場であることが前提の話だけど、
「Road of Resistance」の WALL of Death では今回の形がデフォルトとなるかもしれない。

 

その後に起こった WALL of Death の破壊力は、これまでに経験のないものだった。
縦に長いから、ぶつかった際のエネルギーはそれほどあるわけではないのだが、
なにより、全貌が確認できなかったのだ。それほど巨大な WALL of Death だった。
かなり後ろの方まで縦の空間は続いていたのだろう。

 

曲が中盤に差し掛かっても激しいモッシュが続いている。
サークルモッシュも頻繁に起こっていたが、さすがにそれに加わる気力はなかった。
曲の開始時よりも随分と激しい眩暈がする。
シンガロングの際も、僕は手を上げず、声も出さずに、ただ音だけに身を委ねていた。
空中に響く「ウォウウォウ」の合唱に耳を澄ましていると、
これは夢か幻かといったような錯覚を起こしてしまいそうになった。
どうにも体力が限界を迎えているようだった。

 

観客たちの熱狂具合は最後まで凄まじかった。
絶叫に近い歓喜の声は終始付近で聞こえ、目に映る人はみな楽しげな笑みを浮かべている。
多くの初見の人を巻き込んだこの会場の一体感は、昨年のメトロックと同じように感じた。
砂煙で前方の視界が悪くなる。そういったことが何度も起こった。
SU-METALが「レジスタンス」と歌い上げる際にはなんとか僕も拳を突き上げた。
そしてそこが限界だった。
僕は最後の「WE ARE?」コールを耳にしながら後方に向かって歩き出した。
覚束ない足取りで少しずつ進んでいく。
それでも彼女たちへ賛辞は送りたかったので、時折「BABYMETAL」と叫んで手を上げた。
周囲の人たちの顔は視界に映ってはいるが、輪郭がぼやけて見えて笑顔なのかもわからなかった。

 

こうしてBABYMETALのライブは、多くの初見の若者を引き込んで、大盛況ののちに幕を閉じた。
僕は終始モッシュピットにいたから、後方の様子はビジョンでしか確認できなかったのだが、
広範囲に渡って盛り上がっているという印象を受けた。
それはフジロックのときとはまったく違う観客たちの反応であった。

 

 

 

 

4.

 

ふらふらと歩き続けながら通路まで進み、やっとの思いでドリンクを購入した。
900ml入りのポカリスエットのボトルを一気飲みする。
木陰で20分ほど休憩すると体力を少し回復することができた。
額はかなり熱いままだが、眩暈も手の痺れも治まっている。
僕は腰を上げるとCrossfaithを観にPARK STAGEへ向かった。
しかし残念ながら彼らのライブはちょうど終わったばかりだった。

 

 

 

そのまま横のSOUND OF FORESTを覗くと、indigo la endがライブを行っていた。
MCでボーカルの川谷絵音が「僕は音楽でしか伝えることができない」とのたまっている。
小腹が空いていたので、僕は隣にある“ 森のキッチン ”へ向かった。
サッと出店の看板を舐めたあと、僕の視線は一箇所に固定されたのだった。

 

 

 

温玉チーズとり天丼と松阪牛肉汁餃子を購入し、再び森の中へ戻る。
木の根元に腰を下ろし、僕はエネルギーを補填する。
木々の間から覗くSOUND OF FORESTでは次のバンドがサウンドチェックを行っていた。
僕は食事をしつつ、その後しばらくの間、かなり遠い位置からORIJINAL LOVEのライブを眺めた。
ボーカルの田島貴男が代表曲である“ 接吻 ”を熱唱すると随分と遠い記憶が呼び起こされた。

 

 

 

それから場所を移動し、LAKE STAGEでスキマスイッチのライブを観る。
「LINE」「ユリーカ」と観たところで僕はその場を後にした。
本当は「全力少年」も観ておきたかったのだけれど仕方がなかった。
途中に離脱して移動しなければ他のステージが見られないのだから。

 

 

 

僕は急ぎ足でHILLSIDE STAGEへ移動する。
そこでは藤原さくらがライブを行っていたのだけれど、ライブはすでに終盤で、
最後の曲「かわいい」だけを、僕は後方から首を伸ばして観賞した。
後で知ったのだが、BABYMETALの3人も彼女のライブを観に来ていたようだった。

 

 

 

その後はまたメインステージに戻り、Dragon Ashを観賞した。
過去に大トリを2度務めただけあって、終始堂々としたパフォーマンスだった。
途中に4回ほどだろうか、禁止行為であるダイブを始めた観客をKjが窘めて止めさせていた。
「Life goes on」では会場中が大合唱。
「La Bamba」「百合の咲く場所で」も大盛り上がり。
最後は「Lily」で締めて盛況ののちに彼らのライブは終了した。

 

 

 

その後はそのままGRASS STAGEでUVERworldのライブを観たのだけれど、
それはもう、大変なエネルギーに満ちたライブだった。
スタンディングエリアからは人がはみ出し、通路もかなり混雑している。
時間帯が違うから仕方がないけど、詰めかけた観衆の数はBABYMETALの時以上だった。
そして集まった観客のほとんどがUVERworldを知っていて、全曲通して音楽にノっていた。
彼らのライブを生で観るのは初めてだったが、若者にこれほど人気があることにも驚いた。

 

しかしそれもそのはず、彼らは昨年、同フェスに初出演したにもかかわらず、
4万人を動員し、ロッキング・オン社の山崎洋一郎に伝説のライブと言わしめたのだ。
すでに2010年には東京ドームで単独ライブを行っている。
今の僕が彼らの音楽にハマることはないが、もし10代の時に彼らのライブを観ていたら、
もしかしたら心にグサッと刺さってすぐにファンになっていたかもしれない。
ボーカルのTAKUYA∞のMCは青臭いけど、でもそこがいいのだろう。
青春真っ只中の若者にとってはものすごく共感できるのだろう。

 

 

 

UVERworldのライブが終わったのは午後18時だった。
僕は少しだけ逡巡し、でもやはり、当初の予定どおり会場を後にすることにした。
帰宅の時間を考慮するとそれも止む無し。
入場口まで戻ってくると、僕は振り向いて今一度会場を眺める。
傾きかけた西日が眩しい。軽く記憶を辿るだけで楽しかった思い出は尽きなかった。

 

帰りのシャトルバスに乗車し、僕は今日一日を改めて振り返る。
まず最初に思い浮かべたのは熱中症対策の欠乏。
もう若くはないのだから、そのことについては入念に準備をする必要があった。
次回の夏フェスに参戦する際は十分に水分補給に気を付けたいと思う。

 

BABYMETALのライブについては、まず、彼女たちの存在はやはり異端であるということ。
国内有数のロックフェスであっても、彼女たちの音楽は他のバンドと比べると異質でしかない。
音圧はそれほどでもなく、風の影響で音響バランスも良かったとはいえなかったが、
それでも音の質量というか、重さを伴った音像は、他の追随を許さないほど圧倒的な破壊力があり、
それでいてあの神バンドのタイトな演奏なのだから、誰もが否応なく認めざるを得なくなる。
MCなしの怒涛の8曲は観客たちに息つく暇を与えず、熱狂を少しも醒ますことがなかった。
見逃したので想像でしかないが、おそらくCrossfaithも、初日の出演者の中にあっては、
そのヘビーな楽曲群を鑑みるに、BABYMETAL同様、異端な存在であったのだと思う。

 

昨年末の「COUNTDOWN JAPAN 15/16」では、EARTH STAGEに4万人近くの観客を動員し、
メイトだけでなく、ロキノン系の音楽が好きな若者たちをも虜にした。
そして今日のフェスでは、早い出番にもかかわらず、
野外の巨大なステージに4、5万人ほどの観客を動員し、
これまた多くの初見の若者に強烈にアピールし、大きな衝撃を与えた。
BABYMETALのライブを初めて観た人のツイートはTLに溢れ、
幾つかのまとめサイトでは、それらがまとめられているスレッドも立っていたのだった。

 

おそらくは、そういった初見の方のツイートをRT、ファボしたメイトの方々は、
内心で「初めてのBABYMETALどうだった? やっぱり凄かっただろう」と得意げに頷きつつ、
同時に、国内のフェスにBABYMETALが出演した意義の大きさを思い知ったのではないだろうか。
なぜならば、国内メディアの露出が極めて少なく、
また、BABYMETALが本物のアクトたる所以はライブにあるのだから、
新規のファンを増やすには、やはり、こういった大きな国内のフェスに出て、
地道にやっていくしかないだろうと考えている方は、たくさんいるように思うから。
だから反射的に、ツイッターやその他のSNSを用いて拡散して、
BABYMETALの認知やライブパフォーマンスのレベルの高さを広めているのであろうと思う。
いわゆるバイラルマーケティングによる宣伝活動をメイトが実践しているのである。

 

そしてそういったSNS運動による、初見の人の感想ツイートを広めるという事象に、
今回のフェスで、僕は逆の立場でかかわってしまうことになった。

 

 

 

UVERworldのライブを観ている最中、ふと上記のようなツイートをしたところ、
彼らのファンによってたくさんリツイートされ、あっという間に多くのいいねをもらった。
そして拡散した彼らの半分ほどは10代の男女だった。
完全な番外編だが、今回のフェスで一番驚いたのはこの現象だった。

 

おそらくはクルー(UVERworldファンの総称)の方々も、メイトと同じように、
少なからずもやもやとした思いを抱え込んでいるのだろう。
もっとTVに露出をすればUVERworldの名前を多くの人に知ってもらえるのに、
だけどそれはなかなか叶わない。
ましてや生番組で生演奏をさせてもらえる機会など皆無に等しい。
だからUVERworldの良さを知ってくれた人を見つけると、こうやって拡散し、
「UVERworld いいでしょ。最高でしょ」と無言で伝えてきているのだろう。
そんな若い彼らの内情を鑑みると、僕はシンパシーを感じずにはいられない。

 

このUVERworldの例を取ってみてもそうだが、
実際にBABYMETALの国内での認知度を上げるには、
やはり国内の大きなフェスに出演することが肝心であるから、
北関東の若者が一気に終結する夏フェスである「ROCK IN JAPAN」には、
できれば毎年出て欲しいと願わずにはいられなかった。
フロントの3人も、たくさんの同世代や下の年代の人たちに曲を聴いてもらい、
メタルというジャンルに触れるきっかけになればといった発言を繰り返している。
それを具現化させるには、やはり若い世代が多く集うロックフェスが最適なのだろう。

 

今後、BABYMETALが、国内でのステータスを上げていくには、
多くの若者に支持されることが重要で、ムーブメントを起こすにはそれしかないのだろう。
今は季節折々、日本各地でたくさんのフェスが開催されているから、
メインであるワールドツアーのスケジュール調整は大変だろうが、
負担の少ない範囲で、どんどん国内のフェスに出演してもらいたい。
そして若年層のメイトの数を益々増やしていって欲しい。
そういった強い思いを胸に、僕は帰りの電車に乗車して帰途についたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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