BABYMETAL 海外 ダウンロードフェス 2016 UK ライブレポート

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※Download Festival Paris ライブレポートはこちら

 

 

1.

ヒューゴ・ボスのスーツをクールに着こなした、いかにもビジネスマン然とした英国人紳士は、
列車が減速を始めても、テーブルの上に置いてあるiPadを操作する手を止めなかった。
列車が停止する直前になって、iPadやら手帳やらスマホやらを無造作に鞄の中に詰め込むと、
向かいの席に座る僕の存在などまったく意に留めていないといった具合に一瞥もくれずに、
硬い表情は崩さないままそそくさと電車を降りて行った。
セント・パンクラスを出発して一つ目の停車駅であるレスターまでは1時間強。
ロンドンからイースト・ミッドランズ・トレインズでイングランド中東部へ向かう
列車の行程は既に半分以上を過ぎたことになる。
車窓から覗く田舎の田園風景を眺めながら僕はふと物思いに耽る。

 

昨夜の「The Kerrang! Awards 2016」の余韻が未だに残っている。
BABYMETALは、同アワードで、「BEST LIVE BAND」賞を受賞した。
Green Day、Muse、Machine Head、Slipknot、Bullet for My Valentine、
2度同賞を受賞したEnter ShikariにBlack Veil Brides、そしてBring Me the Horizon。
BABYMETALはここ英国の地で、
過去に同賞を受賞したこの錚々たる面々と同等の評価を得るに至ったのである。
改めてその偉業を噛み締めると、僕はまたどうにも泣き出したい心境に陥った。

 

しかしその一方で小さな心配も抱え込んだ。
「BEST LIVE BAND」賞は大変な栄誉ではあるが、同時に1つの分水嶺といった意味合いを持った。
彼女たちの今後の活動において、良くも悪くも、この「箔」はいつまでも付いて回るのである。

 

「BEST LIVE BAND」賞を受賞したのは伊達じゃない。今回のショーも素晴らしかった。
「BEST LIVE BAND」賞を受賞した割には今回のライブは平凡でつまらないものだった。

 

ある時には、流石は評判どおりだと手放しで称賛される際に同賞を持ち出され、
またある時には、期待外れの誹謗や揶揄や皮肉として受賞の事実を引き合いに出されてしまう。
彼女たちは本当にその賞に値するのか、常に周りから合否判定の尺度として見られるのである。

 

果たして、本日のDownload Festival UKのメインステージにおいて、
公式に初出演となるBABYMETALにはいったいどういった評価が下されるのか。
賞賛されるのか、それとも批判されるのか。
むろん、BABYMETALのハイクオリティなライブパフォーマンスを存分に知るメイトの多くは、
始まる前から、ライブは大成功ののちに幕を閉じるに違いないと頑なに信じている。
かくいう僕もまったく同じ心持ちでいる。

 

 

やがて列車はイースト・ミッドランド・パークウェイ駅に停車した。
バンドTシャツを着たメタラーと思しき人の何人かがこの駅で降車した。
もしかしたら同駅からも会場へ向けたシャトルバスが出ているのかもしれなかった。
だから一瞬僕も彼らに倣ってここで降りてしまおうかと迷ったのだけれど、
しかし事前に公式サイトでシャトルバスの時刻表を確認してみた際には、
バスの発着時刻表が掲載されている駅はダービーのみだったので、
ここは無難に当初の予定どおりダービー駅まで列車に揺られる選択をした。
事前にネットで予約した列車の往復チケットも同駅着発のものだった。

 

程なくして列車はダービー駅に到着した。
時刻は午前10時を少し過ぎたところ。
駅前ターミナルの反対側にバスが2台止まっているのが見える。
行き先を表す電光掲示板には「DOWNLOAD FESTIVAL」の文字がデカデカと表示されている。
係員に往復のバスチケット10ポンドを払うと、僕は意気揚々とシャトルバスに乗り込んだ。
Download Festivalの会場であるドニントン・パークまでは約25分で着くとのことだった。

 

それが間違いであったことに気付いたのは、道中、曇天の空模様を眺めている時だった。
出発前にイギリスの天候は確認していたのだが、ここレスターシャーの確認は失念していた。
僕は専用アプリでロンドンの気候のみを確認していたのだった。予報は終日曇り。
だから少しの逡巡を経て、僕は大丈夫な方に賭け、雨具は一切持参していなかった。
最低でも夕方までは持ってくれと、恨めし気な視線を、辺り一面を覆う灰色の空に向ける。
一方でこの時点ではまだ、おそらく持ちこたえるだろうと安易に高を括ってもいた。
降り出しそうで降らない。降ったとしても雨脚は弱い。
こういった空模様はイギリスではありがちな天候であった。

 

やがてバスは目的地であるドニントン・パークに到着した。
バスの発着場所からは会場は望めないが、巨大な敷地であることは容易に想像が付いた。
バスから降り立った瞬間、期待に胸が大きく弾んだ。
2度ほどゆっくり大きく息を吸い込む。

 

道案内に沿って一心不乱に先を進んで行く。
途中、Box Officeでデイチケットを受け取った。
係員が「BABYMETALを観に来たのか」と訊ねてくる。
僕は「そのとおりだ」とキツネサインを掲げる。

 

 

 

デイチケットのエントランスへ向かう途中、左手のメインステージが視界に入ってきた。
おそらくは1組目のバンドなのだろう、ちょうどサウンドチェックを行っている。爆音だ。
やがてエントランスに着くと、僕は幾つかある列の1つに歩を進め、最後尾に並んだ。
周りに居るのは、様々なバンドTシャツを身に纏った外国人ばかり。
その中には少ならずBABYMETALのTシャツを着たキツネ(外国人メイト)たちの姿もあった。
自然と口元が綻んでいく。

 

ダウンロード・フェスティバルは、1980年に初開催されたMONSTERS OF ROCKを継ぐ形で、
オーガナイザーであるスチュアート・ガルブレイス、トム・パイク、そしてメイトの間では
程よく名を知られているアンディ・コッピングらによって2003年に初めて主催された。
また同フェスはイギリスだけに留まらず、前身のフェスを含めると、開催国は、
ヨーロッパ、アメリカ、南米など10ヶ国以上にのぼる、世界的に有名なメタルフェスである。
ちなみに現在の3日間開催となったのは2005年かららしい。

 

そういった世界有数のメタルフェスにBABYMETALが出演する。
それもメインステージに。
昨年スポット参戦した時点で、今年の出演はある程度予定調和だったのかもしれないが、
これまでBABYMETALを懐疑的に評していた人々をも一瞬にしてシンパに変えてしまった、
2ndアルバム「METAL RESISTANCE」が発売された後の今となっては、
むしろBABYMETALは出るべくして出た、ように思える。
10代の女の子3人がフロントを務め、メタルの激しくて速いビートに乗ってダンスをする。
BABYMETALが、メタル界で異質な存在であることはこれからも変わらないだろうが、
質の高いソリッドなメタルサウンドであるBABYMETALの音楽は、
2ndアルバムを機に、より広く、深く、音楽業界全般に浸透し、次々と疑念を賛同へ変えていった。
だからいずれにせよ、BABYMETALの同フェスへの正式な出演は時間の問題であったように思う。

 

本日の開場時刻は昼の12時の予定であったが、20分ほど前倒しで開場となった。
セキュリティチェックを受け、荷物検査をパスし、いざフィールド内へ入る。
正面の巨大なメインステージがいきなり視界に飛び込んでくる。
ついにやって来たという思いに駆られた僕は、幾分歩みを遅めて周りに視線を這わせた。
逸る気持ちをなんとか抑えようとしてほとんど無自覚のうちに取った行動だった。

 

 

 

 

2.

 

3度目の海外遠征を検討したとき、昨年に続き、8月を第一候補月にしていた。
だから公式から8月のツアー日程が告知されるのをずっと待ち続けていたのだけれど、
結果、8月は国内フェスへの出演しか発表されなかった。
ならば日程を前倒しにしてと考えたが、その時点で、
7月のアメリカ西海岸の各チケットは既に完売となっていた。
興味をそそられた Chicago Open Air もBABYMETALの出演日だけ
デイチケットは売り切れの状態であった。

 

来年まで待つしかないのかと半ば諦めかけていたところに、その情報は突如舞い込んできた。
Download Festival 2016 UK への出演が告知されたのだった。
僕はその日のうちに同フェスティバルのチケットを購入した。
海外遠征の最大の目的は、海外の大きなフェスティバルを観に行くことだったからだ。
単独ライブよりもそちらを優先していたので、おあつらえ向きのフェスだと瞬時に決断した。
できればまたBABYMETALが出演する海外の大きな音楽フェスティバルを観に行きたい。
その欲求は、昨年のレディングフェスを観に行った直後から沸き起こってきていたのだった。

 

そんな思い入れや紆余曲折があったせいか、空は生憎の曇り空だが心は随分と晴れ渡っていた。
この地にいるという現実が否応なく幸せな気分にさせてくれる。
僕は浮かれ気分で、まずはフェスTを購入する。
それから腹ごしらえをするためにチーズバーガーを頬張った。
コーラでそれを胃袋へ流し込みながら、ゆっくりとメインステージに向かって歩いていく。

 

 

 

近くまで行ったとことで周囲をぐるりと眺める
やはり会場は広い。
ステージも想像以上に巨大だった。
座ったまま見上げていると首が痛くなる。
最前付近は既に人で埋まっているが、ピットにはまだ大きなスペースがあった。
僕は前から5列目あたりの空間でそのまま待機した。

 

 

 

やがてメインステージ1組目のROYAL REPUBLICがライブを始めた。
続く2組目のALIEN ANT FARMの際には激しいモッシュが発生した。
クラウド・サーフをする人もちらほら出てくる。
ヴォーカルが「俺はBABYMETALが観たいんだ」と叫ぶとひときわ大きな歓声が上がった。

 

 

 

盛況の中、2つのバンドが終わると、次はBABYMETALの出番となった。
バックドロップが掲げられるとそれだけで大きな歓声が上がった。
会場はかなり暖まってきている。
空は愚図ついてはいるが、今のところなんとか持ちこたえている。
あと1時間強、このまま降らずに持ってくれと願いながら、
僕は少し後方に下がると、人が密集しているピットの中央付近へ場所を移した。
なぜならば外国人たちとモッシュがしたかったからだ。
それも海外遠征の一つの楽しみだった。
ふと会場を見渡すと、遥か後方まで人で埋め尽くされている光景が目に飛び込んできた。
俄には信じ難い、ものすごい数の観衆だった。
その圧倒的で壮大な景色に、僕は武者震いをせずにはいられなかった。

 

時刻は午後2時55分。
刻一刻とBABYMETALの開演時間が迫っている。
周りから大きなBABYMETALコールが起こり、期待の高さを窺わせている。
会場は早くも興奮の坩堝となり、さあ、いよいよ開演だと手拍子が起こったまさにその時、
無情にも、空から突然大粒の雨が降ってきて、会場を埋めた人々を次々と打ったのだった。
開演前に熱くなりすぎた観衆の熱を冷ますにはそれは度を超えた分量の雨だった。

 

その後は魔の時間だった。
降り出した雨は次第に雨脚を強めていき、ピットは至るところにぬかるみを作り出していった。
僕は急いでフードタオルを頭からすっぽり被ったが、無駄だった。
瞬く間に下着の中にまで水が染み込み、靴の中にも水が溜まった。
ずぶ濡れになったTシャツはべっとりと肌に張り付いているから冷たい。
ここに至ってようやく僕は、天候確認ミスは大きな過ちだったと嘆くハメとなった。
小さなバックパックだけは何とか守ろうと、僕はそれを胸に抱え込み、背中を丸めて雨に耐えた。

 

そんな折、ふとBABYMETALのことが気になった。
天候の悪化により開演が遅延するのはおそらく初めての経験ではなかったか。
予測不能な状況でもしっかりメンタルコントロールはできているだろうか。
いつものように3人が小さな輪になって、大丈夫、信じよう、と声を掛け合っているだろうか。

 

 

 

チームBABYMETALの面々がステージに出てきたのは、開演時刻から15分が過ぎてからだった。
それまで断続的に降り続いていた雨が若干小降りになったタイミングだった。
KOBAMETALが率先してステージ上をモップ掛けする。
女性スタッフもタオルでお立ち台をきれいに拭いている。
チームBABYMETALが一丸となり、ショーをなんとかスタートさせようと懸命に努力している。
彼らのその姿勢に胸を打たれなかったファンは、おそらくその場にはいなかったように思う。

 

と突然、視界の端に誰かが映りこんできた。見覚えのある顔だ。
その男はステージ下手の手前まで来ると、仁王立ちとなり、1点を凝視した。
彼は、ライブネーションUKのプロモーターで、ダウンロード・フェスティバルの
ブッキングを担当しているアンディ・コッピングその人だった。
彼の視線は僕の頭の上、会場の後方に向けられたまましばらくの間微動だにしなかった。

 

今さらの話ではあるが、アンディ・コッピングとBABYMETALの間には、
これまでに、少しばかり因縁めいた、様々な出来事があった。
※翻訳参考:ハワイとプログレとBABYMETAL様

 

アンディ・コッピング @Maverick_AC 2014年4月7日
そうだ、俺からはノーということだ。日本の新規ものの流行に過ぎない。
母国ではうまくいってるんだろうし、そのことにはとても敬意を払うけどね。

 

フォロワーから質問されると、彼は初めてBABYMETALについて自分の見解を示した。
それはBABYMETALが初の海外ツアーを始める前のことだった。
その後、BABYMETALのソニスフィアの成功を受けて、
ダウンロード・フェスティバルでもブッキングしたらどうかと提案されると、
彼は以下のように否定した。

 

アンディ・コッピング @Maverick_AC 2014年7月29日
@G_Bentley @robwillsher @BABYMETAL_JAPAN
BABY METALにふさわしい場所と時間がある。
それぞれに。でもダウンロード・フェスティバルはそうじゃない。

 

1年後までバンドが残っていたら少しは考えるけどと続けた彼の発言は、
当時、世界中のメイトたちの顰蹙を買ったものだった。

 

ところがその約1年後、メイトは彼のことなど既に忘れ去っていた頃に突然、
アンディ・コッピングがこんなツイートをしたものだからネット上はたちまち騒然となった。

 

アンディ・コッピング @Maverick_AC 2015年6月12日
BABYMETALがダウンロードのバックステージでうろついてるのを見た?
いったい何が起こってるんだ?

 

昨年のダウンロード・フェスティバルのテントステージで、
BABYMETALが飛び入りでドラゴンフォースと共演したことは周知のとおりである。
上記の彼の発言は、明らかにサプライズを狙ってやったことだった。
その当日、彼は、BABYMETALの3人を認めたといった具合にきれいに写真に納まっている。

 

 

そして今年、アンディ自ら、BABYMETALの正式な出演に関する情報を発信したのである。

 

アンディ・コッピング @Maverick_AC 2016年5月6日
BABYMETALがダウンロードフェスのリストに新たに加わった。
レスターがプレミアシップを獲ったし、マジでキツネの年だな!

 

ダウンロード・フェスティバルには呼ばないと言っていたのに、という指摘に対しては、
彼は正直な胸の裡を明かした。

 

アンディ・コッピング @Maverick_AC 2016年5月6日
絶対に彼女たちを入れないと言ったけど、
時にはみんなにとって正しいことをするために降参しなきゃならないんだよ。

 

 

 

遥か後方まで埋め尽くしている観客の姿、豪雨に耐えてでもBABYMETALを待ち続けた、
熱狂的で献身的な大勢のファンを目の前にし、アンディは何を思うのか。

 

ここからは僕の推測になるのだが、おそらく彼は、こう考えたのではないだろうか。
天候不良は致し方なし。BABYMETAL側に責任はない。
だから当初の予定どおり、40分のステージをなんとか実現させてあげたい。
そうしなければ、ここにいる大観衆が納得することはないだろう。

 

ではそれを実現させるとして、一体どこで時間を調整するのか。
彼の頭の中では瞬時に今日のタイムテーブルが思い描かれたに違いない。

 

 

BABYMETALの後のKILLSWITCH ENGAGEの持ち時間を削るわけにはいかない。
30分の準備の時間も不変だ。
だがその後の、5:30開始のMOTORHEAD TRIBUTEは特別映像を流すのみだ。
削るとしたらここしかないだろう。でも映像自体はカットしない。
そんなことをしてしまってはレミーに対して失礼。削るのは準備時間の方だ。
30分もセッティングにかからないだろう。10分もあればイケるはずだ。
そしてそのままKILLSWITCH ENGAGEのステージを、削った20分、後ろにずらす。
4:10~5:00だったのを、4:30~5:20に変更する。
彼らの準備の時間を逆算すると、BABYMETALのライブは4時には終えなければならない。
おそらくそれが後ろに時間をずらす限界だろう。
ならば小雨になったこのタイミングでBABYMETALには出てもらうしかない。
そうすれば、4時までになんとか予定の40分のステージを、
この会場中を埋め尽くすBABYMETALの熱いファンに余すことなく披露することは可能だ。

 

アンディが本当にそんなことを逡巡していたのかどうかはわからない。
しかし彼の思慮深げな視線や覚悟に満ちた表情から察するに、僕にはそのように思えた。
彼はこの悪条件の中、最善を尽くそうとしている。
プロモータとしての責任を、まさに今、果たそうとしている。
両手を広げて昨年受け入れたBABYMETALのために。
雨に打たれながらその彼女たちを待ち続けるファンのために。

 

 

 

ややあって、彼は急いで上手に移動すると、
KOBAMETALを筆頭にチームBABYMETALの面々と何やら協議を始めた。
ステージ上の水はけ作業のピッチが上がる。
既に開演時刻から20分押している状況。
「時間がない」「今すぐ始めればセットリストを省かずに済む」
「だったらもう見切りで始めよう」「すべてを整えるのは困難だ」
おそらく舞台裏では関係者たちの間でそんな緊迫したやりとりがあったのではないだろうか。

 

果たして、小雨となったことで盛り上がりを再び見せ始めた観客たちが、
ビーチボールを使ってのんびりと遊んでいる時、予定より25分ほど遅れて開演となった。
左右のビジョンにムービーが流れ始めた途端、弛緩していた空気が一気に張りつめた。
怒号のような歓声があちこちからひっきりなしに上がる。
これだけの強い雨に打たれて、観客たちも半ばやけくそになっているのだろう。
激しい豪雨に見舞われた直後はさすがに意気消沈している様子だったが、
その後の中断中は、たとえ雨が降りしきろうとも、場内の熱気は失われることはなかった。
BABYMETALのチャントは定期的に発生し、ボルテージは段階的に上がっていった。
雨風なんて関係ない。すべてを吹き飛ばして大騒ぎをしてみんなで盛り上がろうぜ。
周囲を埋める観客たちの心の声が聞こえる。
そうして、かつて経験したことがない異様な熱気に包まれる中、
BABYMETALのステージがようやく幕を上げたのだった。

 

 

 

 

3.

セットリスト

01 BABYMETAL DEATH
02 ギミチョコ!!
03 Catch me if you can
04 メギツネ
05 KARATE
06 Road of Resistance

 

1曲目の「BABYMETAL DEATH」が始まると、観客たちは一斉にステージを注視した。
観客らと同じように待たされ続けた3人が、様式化されたスタイルでゆっくり歩いてくる。
3人がポーズを取ると、観客たちはすぐにそれに倣う。
BABYMETALのアルファベットを1文字ずつ大声でコールする。

 

 

 

ビジョンに映るSU-METALの視線は、顔を上げるたびに会場の四方へ向いていた。
いつものように冷静に状況を確認しているのだろう。
トラブルで開演が遅れても、これだけの大観衆を前にしても、彼女は一切臆していない。
流石は百戦錬磨のSU-METALだ、――僕は無言のエールをステージ中央のカリスマに送る。

 

ピットでは早くもモッシュが始まっていた。
小雨が舞っているから、彼らの体温はより温かく感じられた。
間奏に入ったところでモッシュは一段と激しさを増していった。
まるでピット全体が大きくうねっているようだ。
開演が遅れたことで蓄積されたエネルギーが段々と解放されているといった趣があった。

 

続く「ギミチョコ!!」が始まる頃になると、再び雨脚が強くなってきた。
しかしそれは、一度火が点いた観客たちのハートを鎮静化させることにはならなかった。
爆発した熱い思いは大合唱やモッシュとなって放出されている。
もはや振り続ける雨は対極と化し、熱狂の火に油を注ぐ結果としかなっていない。

 

ステージ上の7人も観客たちの熱気に負けてはいなかった。
とりわけフロントの3人は、横殴りの雨に晒されながらも熱いパフォーマンスを見せ続けている。
そこに「雨に濡れながら頑張っている私たち、すごいでしょ?」といったエゴは一切ない。
修練を積んできた成果を、普段のライブと変わらずに、彼女たちは披露しているに過ぎなかった。

 

そんな堂々とした3人の姿勢に観客たちも全身で呼応する。
曲が終盤に差し掛かるにつれ、観客たちの熱はさらにヒートアップしていった。
満場の手拍子に乗って3人が楽しげに躍動する。
曲が終わった直後は大歓声。
その中には大きなBABYMETALコールも含まれていた。

 

それにしても観客たちの盛り上がり方は異様だった。
おそらくはこの降りしきる雨が彼らにさらなる高揚を与えているのだろう。
そんな熱狂渦巻く中、続けて3曲目の「Catch me if you can」がスタートした。
観客たちの掛け声に続いて神バンドの面々がそれぞれに卓越したソロを披露した。

 

3人が「ハイ! ハイ!」と声を弾ませながら躍り出てくる。
観客たちの誰もが体を動かして喜びを表現している。
曲が進むにつれ次第に雨脚は弱まってきたが、そこに意識はもう向かない。
そして大きな手拍子が起こる中、待ち望んでいたあの煽りが始まったのだった。

 

 

 

SU-METALが「Are you ready? DOWNLOAD!」と観客を煽る。
続けてサークルを作れと指示する。
手を大きく回しながら「Biggar! Biggar!」と叫ぶ様子は無邪気な子供そのもの。
数万もの遊ぶ相手を見つけて喜ぶ姿は時の女王といった雅趣に富んでいる。

 

 

 

MOAMETALも楽しげに煽っていた。
お立ち台の上でぴょんぴょん跳ねながら、大きな円を作ってと観客たちに訴えている。
大きな瞳で笑う、彼女のその天真爛漫な笑顔を見ていると、ふと「ロミオとジュリエット」に
出演していた頃の若かりしオリビア・ハッセーを想起してしまった。
顔立ちは違うのだが、思わず覗き込みたくなる大きな瞳はどことなく似ているように感じる。

 

 

 

YUIMETALもまた楽しそうだった。
彼女の純粋無垢であどけない笑顔は、たとえ目が合わなくても、見る者を必ず笑顔にさせる。
しかし普段の彼女の佇まいは、特に最近はとても優雅になってきたと僕の目には映っている。
元から姿勢が良いせいか、仕草の1つ1つがとても品があって、歩き方などはエレガントだ。
賛否はあるかもしれないが、僕はいつも、彼女のそういった気品に満ちた立ち振る舞いから、
「ローマの休日」に出演していた頃の若かりしオードリー・ヘプバーンを思い出してしまう。

 

 

サークルが大きくなり、多くの観客が声を弾ませながらぐるぐる回ったところで、
曲は再開され、盛り上がりはその後も継続されていった。
YUIMETALとMOAMETALの可愛らしい「I found you」の掛け声の後は、
近くにいる者たちで楽しくモッシュも始めた。
そして会場は興奮を保ったまま次曲「メギツネ」へと続いていった。

 

前曲の煽りとサークルモッシュが効いたからだろうか、「メギツネ」が始まるや、
観客たちは声を上げながら各々飛び跳ね、思い思いに楽しくモッシュを始めた。
そんな周りの様子から、否応なく、熱狂が一段上がった印象を受けた。
結局この狂乱はブレイクダウンのパートまで続いていった。
誰もが我を忘れて踊り狂っている。

 

そしてここでも新たな客煽りが始まった。
クラウド・サーフやらモッシュやらサークルモッシュやらが頻繁に起こっている中、
SU-METALが「手拍子しながらコールしろ」と再び煽る。
そしてその後の「1、2、 1・2・3・ジャンプ!」で爆発する観客たち。
誰もが楽しげに声を弾ませてジャンプを繰り返し、彼女たちのライブを心底満喫している。

 

この狂ったような熱狂は、まさに単独ライブのノリだった。
だけどここは異国の屋外のフェスで、それもこんなに広い会場で行われているのだ。
会場の一体感と盛り上がりは、昨年のレディングフェスの比ではなかった。
そしてこの熱狂は醒めることなく、続く「KARATE」でも継続されたのだった。

 

イントロが始まった直後、早くも激しいモッシュが始まった。
中にはずっとジャンプを繰り返している者もいる。
そして一斉に「セイヤ、ソイヤ」と声を張る観客たち。
SU-METALが唄い出せば一緒になって唄い出す者も多い。
僕はもみくちゃになりながら周りの者に負けじと声を張ってジャンプする。

 

やはり2ndアルバムのリードシングルというだけあって、知っている人もかなり多いようだった。
グルーヴを感じながら大きくヘドバンをしている観客も多々いる。
僕も彼らと同じようにヘドバンしながらこの楽曲を堪能した。
そして間奏に入ったところで、僕は再びステージ上を凝視した。
ここでもSU-METALの煽りがあるからだった。それもとてもエモーショナルな煽りが。
それを見逃すわけにはいかない。

 

SU-METALが「今、どんな気分? みんなの声を聞かせて」と観客たちに訴える
「手を上げて」と煽った後は、観客たちと「WoW WoW WoW」のコール&レスポンス。
思わず驚いてしまったのは、そのC&Rの最中のことだ。
周りの観客たちが自主的に座り始めたのだった。
SU-METALは座れと一切指示はしていなかったはずなのに。

 

しかし周りがそうするなら、僕も追随するほかなかった。
僕はその場にしゃがみ込むと、あの爆発的な瞬間を待ち続けた。
そしてややフライング気味に、SU-METALのそれに合わせ、後ろの誰かが声を張った。
「エブリバディ ジャンプ!!」
それは狂乱に導く完璧な合図だった。
その直後、フライパンの上で弾けるポップコーンのように、
観客たちは狂ったようにひたすらジャンプを繰り返したのだった。

 

やがて「KARATE」は大盛況のまま終わった。
曲が終わっても多くの観客たちは笑みを口元に湛えたままだった。
心底楽しいのだろう。
僕はメイトだから、自分が「BABYMETALのライブは世界で一番楽しい」と主張しても、
自分で言っておいて贔屓目に見ている感は、客観的に見るとどうしても否めないのだが、
この周りの観客たちの笑顔を眺めていると、どうにもそれは僕の思い込み、
メイトであるがための謙遜のように思えてきてしまう。
本当にBABYMETALのライブは世界で一番楽しいのかもしれない。
そんな思いが沸々と沸き起こってくる。

 

 

 

そしていよいよライブは最後の曲を残すのみとなった。
「Road of Resistance」だ。
一旦捌けていた3人が、フラッグを持って登場してくる。
凛とした表情で、それぞれがお立ち台の上で威厳を示す。

 

SU-METALがそれを煽るよりも早く、観客たちは Wall of Death の準備を整えた。
そしていざ、目の前で大きな Wall of Death が始まった。
ドッと円の中心に群がっていく屈強な男たち。
前曲まで激しくモッシュをしていたイギリス人のメタラーが、このWODでは傍観者となり、
僕の真後ろで「Holy fuckin shit!」と叫んでいたのがとても印象に残っている。
それだけ巨大で激しい Wall of Death 、そしてそれに続くモッシュだった。
そしてそれはその直後、思わず目を背けたくなる悲劇をもたらしてしまったのだった。

 

眺めていてなんとなく違和感はあった。
Wall of Death のあと、何人かが手でバッテンを作っていた。
WODやサークルモッシュで誰かが転んだ時などにもそのアクションは起こるから、
その行為を目にしただけで心に波風が立つことはないのだが、
手でバッテンを作っている外国人の1人が顔を顰めていたので、
僕の胸中には薄い靄がかかったような、なんとも不吉な思いが去来していた。
ややあって、数人の男に担がれた若い女性が場外へ運び出されていった。
体のどこかが痛いのだろう、彼女は片手で両目を覆いシクシクと泣いていた。

 

続けざまに、今度は中年女性が、スタッフに抱えられて退場していった。
彼女はぐったりとしていて気を失っているようだった。
目の前で2人の女性が相次いで運び出されていくのを目撃した僕は
なんともいたたまれない気持ちになった。
ライブは続いているが、この後しばらくは、
楽曲はおろかSU-METALの歌声でさえ頭の中には入ってこなかった。

 

BABYMETALのファン層は広く、若い女性や子供が多いことは知る人ぞ知るところである。
しかし今日は海外のメタルフェスで、初めてBABYMETALのライブに参加した人も多かった。
仮に「若い女性や子供が多いからモッシュは気をつけるように」と
事前にアナウンスがあったとしても、こういった事態は、起きる時には起きるのだろうとは思う。
現にそういったアナウンスが事前にある国内のライブでも偶に負傷者は出るし、
昨年6月の幕張展示場ホールのライブでは、湿度の高さ、密集による熱気の影響もあり、
スタッフに運び出されていくメイトを、僕は最低5人は目視で確認していたのだった。

 

周りが見えなくなるほど熱くならない。
周りに女性や子供がいないか常に注意を払う。

 

結局のところ、少しでも事故を未然に防ぐ努力をするのならば、
各々がこういった意識を持ち続けることが肝心で、それしかないのだろう。
それでも不測の事態は起きるときは起きる。
運ばれていった女性が少しでも早く回復されるのを心から祈りながら、
僕は再び、ステージ上で躍動する3人に目を向ける。
そこではちょうどシンガロングが始まろうとしていた。

 

女性が運び出されていった事実を知らない多くの観客たちは未だ熱狂の最中にある。
雨は再度雨脚を強めているが、それがクールダウンの役割を果たすにはまだ早すぎた。
観客たちはその後もモッシュを続けたのだが、さすがに疲弊してきたのか、
曲の終盤ではだいぶ勢いは落ちてきた。でも熱意は冷めてはいなかった。
やがて曲が終わり、SU-METALが「WE ARE」と叫ぶと、
観客たちは大声で「BABYMETAL」とレスポンスした。
称賛代わりの大量のキツネサインを雨中に掲げながら。

 

ライブを完遂した3人が “ SEE YOU ” と颯爽と去っていく。
その後に起こったBABYMETALコールが彼女たちに謝辞を伝えている。
こうして、波乱で始まったBABYMETALのライブは、
40分のところを5分短縮して駆け足で進み、色々な爪痕をピットに残して終了した。
時刻は午後4時を少し過ぎたところ。あっという間の35分だった。
彼女たちこそがまさに嵐といった体で会場を熱狂の渦に巻き込み、そして去っていった。
最後のアクシデントは残念だったが、神バンドとフロントの3人は、
焦らされてより膨らんだ観客たちの期待や熱意に最大限応える、
否、それを十分に上回るパフォーマンスを披露した。
後世語り継がれるであろう伝説のライブとなったことは誰も否定できないのではないだろうか。
それほどまでに今日のライブは、ドラマ性があり、
演者と観客が大きくシンクロした、一体感の伴った極上のライブだった。
ポジティブな言葉を並べて絶賛することは簡単だが、ちょっと今回のライブは、
体験したことを誰かに伝達することは非常に難しい。完全に予定調和ではなかったからだ。
綯い交ぜとなって胸中を渦巻くこの様々な感情は、現地で生で観た者同志でしか共感できない。
それほどまでに、たった1時間の間にたくさんのことが起こった、記憶に残るライブであった。
ライブ中、全身がずぶ濡れであることを一切忘れていたほどに凄まじい内容のステージだった。

 

 

 

 

4.

「BEST LIVE BAND」賞を受賞したのは伊達じゃない。今回のショーも素晴らしかった。
「BEST LIVE BAND」賞を受賞した割には今回のライブは平凡でつまらないものだった。
彼女たちは本当にその賞に値するのか、常に周りから合否判定の尺度として見られるのである。

 

会場に来る前、僕はふとそんなことを考えていた。
今日のダウンロードフェスティバルのステージで、彼女たちは称賛されるのか否か。
しかし驚くべきライブが終わった今となってはそんなことはもうどうでもよくなっていた。
仮に昨日のアワードでBABYMETALが「BEST LIVE BAND」賞を受賞していなかっとしても、
僕の中でBABYMETALが「BEST LIVE BAND」であることは変わらない。
今までも。そしてこれからも。

 

ライブが終わってようやく、体感温度に意識がいった。
濡れたTシャツはずっと肌に張り付いているから上体はかなり冷え切っている。
頬を撫でる風がとても冷たく感じられる。
ヨーロッパの日は長いが、空一面に雨雲が垂れ込めているのでさすがに周囲は薄暗い。
僕は雨に打たれながら覚束ない足取りで物販エリアに向かった。

 

そこでタオル代わりのTシャツと簡易ポンチョを購入する。
すぐにでも着替えたいのだが、生憎の屋外のフェス、風雨を凌げそうな場所は少ない。
会場の外れにトイレの標識が見えたので僕はそこを目指して歩き出した。
個室に篭り、急いで着替えを済ませる。
2つの財布も濡れていたので、新しいTシャツで紙幣を一枚ずつ拭いていった。

 

ポンチョを被り、僕は近くのステージに向かう。2ndステージだった。
そこでTHE AMITY AFFRICTIONのライブを幾ばくか堪能する。
それから僕は再びメインステージの方へ移動した。
そこでは、BABYMETALの後のKILLSWITCH ENGAGEがライブを始めていた。
最後方から彼らのステージをしばし眺める。

 

 

 

改めて観衆の多さに驚いた。
BABYMETALの時もこれと同じくらいの観衆がいたはずだった。
数にしておおよそ7~8万人。
BABYMETALのライブでは過去最大の人数だろう。
レディングでは3~4万人、ソニスフィアでも5万人程だった。
3人にとって今日の経験は間違いなく、今後スタジアムライブを行う際の糧となったことだろう。

 

KILLSWITCH ENGAGEを観終えると、僕はテントステージへ移動した。
昨年、BABYMETALが飛び入りで参加した、ドラゴンフォースがライブを行った場所だ。
そこで少しの間、ベルリン出身の3人組、Kadavarのライブを満喫する。
演奏はグルーヴ感があってとても良いのだが、観客はあまり乗っている感じではなかった。

 

その後はふらふらと場内をうろついた。
雨は降り続いているが、今はポンチョを着ているのでまったく気にならない。
僕はぐるりと周囲を見渡し、今一度この地に居る実感を確かめる。
やはり本場のメタルフェスは言葉では言い表せない特別な気持ちにさせてくれる。

 

 

 

その後は再びメインステージに戻り、レミーの追悼映像を後方から眺める。
一気に顔が青ざめたのは、小腹が空いたなと思い、バッグの中を確認した時だった。
2つあるはずの財布が1つしかない。
無いのは、イギリス国内での移動用で分けてあったポンド入りの財布だった。
それにはオイスターカード、帰りのバスチケット、ロンドンまでの復路切符も入っていた。

 

慌てた僕はすぐに記憶を辿る。
無くしたとすればあの場所しかなかった。
僕は急いで西の外れのトイレに向かった。
BABYMETALのライブの後、着替えをしたあのトイレだ。

 

しかし個室に戻ってみても財布はなかった。
離れてから2時間以上が経過しているから無理もない。
時刻は午後19時を回っている。
Wi-hiはフェス会場についてからずっと繋がらないままだった。
BABYMETALのライブ以降、日本人の姿は一度も見かけていない。
どうにもならない状況に僕は半ば途方に暮れた。

 

――じっとしていても始まらない。とりあえず行動に移そう。

 

今日中にロンドンへ戻らなければならなかったから、
最初からトリのRAMMSTEINのライブを観ることは諦めていた。
その前のKORNまで観て帰ろう、当初の予定はそうだった。
しかし今はKORNのことを考えている余裕はない。
僕は会場を後にすると急ぎ足でバスの発着場所に向かった。
もう1つの財布に入っているユーロ、それとクレジットカードで
何とかこの状況を打破するしかなかった。

 

幸いにもその後は無事に帰路に着くことが出来た。
事情を説明したところ、バスの近くにいた係員が10ユーロでチケットを売ってくれた。
ダービー駅では、券売機で帰りのチケットをクレジットカードで決済した。
当日に買う切符はかなり高いけど、今はそんなことは言ってられない。

 

セント・パンクラス行きの列車に乗り込むと、僕はテーブル席に腰を下ろした。
向かいの席には2人組の若い男が座っていたが、こちらを見向きもしなかった。
僕は静かに深呼吸をしながら今日のことを思い返す。
BABYMETALは随分と先のレベルまで行ってしまったなあ。
真っ先に考えたのは、今日のライブの内容よりも、彼女たちの現在の立ち位置に関してだった。
唐突で恐縮だが、昨年1月の新春キツネ祭りレポで、僕は最後、こんな風な文章で締めている。

 

Rockの象徴はエレキギター、片やPOPはヴォーカルの技量にほぼ依存する。
その2つを、現時点での極致で兼ね備えたBABYMETALは、もはや向かうところ敵なし。
さらに彼女たちにはメタルにダンスという斬新かつ強力な武器があり、
しかもまだまだ成長の余地があるのだ。
この先いったいBABYMETALは、どれほどまでの高みに到達するのだろうか。
それは想像を絶する領域であることは間違いない。
今年もまたBABYMETALをずっと追えることに、心から感謝したいと思う。

 

随分と大雑把な所感ではあるが、このエントリーを投稿した当時、
その後たったの1年5ヶ月で、これほどまでの高みにまで到達するとは想像していなかった。
躍進が凄すぎて、最近は普通のことのように思えてきているのだが、冷静に考えると、
彼女たちが残してきた経歴は、日本人が経験していない未踏の領域、想像を絶する領域である。
この先いったいBABYMETALは、どれほどまでの高みに到達するのだろうか。
想像を絶する領域を知った今、僕は今一度彼女たちの今後の飛躍を期待せずにはいられない。

 

約2時間後、列車はセント・パンクラス駅に到着した。
僕は急いで両替機で換金し、ポンドを用意する。
隣接するキングスクロス駅に向かい、売店で飲み物を購入する。
その間、誰も僕のことをジロジロ見る者はいなかった。
白人(イギリス人)の割合が50%を切る、移民の多いロンドンでは、
1人の東洋人が歩いていたところで珍しくもなんともないのだろう。

 

BABYMETALの名前が初めて海外に知れ渡った時、
最初から彼女たちを肯定した外国人はいたのだが、その中には、
それが日本発の斬新なギミックであるからといった、
いわば個人の嗜好(日本マニア)に基づく興味本位で気に入った人たちもいた。
しかし今では、誰もそんな矮小なことに意識を向けたりはしなくなった。

 

BABYMETALは、今では、世界的にも有数のライブバンドとして認められている。
そして本日、彼女たちのライブを観に駆けつけた多くの観客たちは、
純粋にその世界レベルのライブパフォーマンスを観るために集ったのである。
観客に人種の壁はなく、また観客にとっても、彼女たちの人種など関係ない。
イギリス人であろうが、日本人であろうが、良いものは良いのである。
そして彼女たち3人と神バンドは、大観衆を前にしても一切気負うことなく、
日本語で歌い、日本のメタルバンドとしてその実力を示した。
その威風堂々とした姿は、日本人としてとても誇らしいものだった。

 

僕はひとり、異国の人たちが往来する中で大きく深呼吸をすると、
日本人としての誇りを胸に、背筋を伸ばして、近くに取ってある宿に向かった。
頬を撫でる夜風はとても温かく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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