BABYMETAL 幕張~巨大天下一メタル武道会~ ライブ レポート

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1.

5月9日のMexicoでのライブを皮切りに、過日の「METROCK 2015」も合わせれば、
これまでに9ヵ国で11公演を行ってきたBABYMETALの「WORLD TOUR 2015」。
間近のROCK IN VIENNA(Austria)から幾分日にちが経った今日、
ここ幕張メッセ国際展示場ホールで、待ちに待った日本公演が開催される。
否、海外で称賛を浴びてきたのだ。凱旋公演といったほうが的を射ているだろう。

 

それにしてもこの2週間の日々を平静に過ごすなんて到底無理だった。
強烈な事象がUKで、それも3度も立て続けに起こったのだから興奮を覚えずにはいられなかった。

 

KERRANG! AWARDS 2015での「THE SPIRIT OF INDEPENDENCE AWARD賞」受賞。
飛び入り参加でDragonForceと共演した「Download Festival 2015」。
そしてMETAL HAMMER GOLDEN GODS AWARD 2015での「BREAKTHROUGH賞」受賞。

 

すべて真夜中に起きた事だったので深刻な寝不足に陥ったけれど、
それを差し引いても、今回のサプライズで得た多幸感は図れ知れないものだった。
そのあいだは、人生がこんなに楽しいなんて今まで感じたことがなかったと思うほどだった。

 

たとえば日本で、ある番組があるグループを「最近注目のアーティスト」として取り上げた際、
キャスターが通例で「今後の活動から目が離せません」と最後に結ぶことはよくあるが、
BABYMETALの今後はリアルタイムで目が離せないから時折今回のようなことが起きる。

 

TwitterやFacebookといったSNSがメディアの役割を果たしている昨今だからこそ
リアルタイムに情報を追えて瞬時に多くのメイトたちと喜びを共有できるわけだが、
それにしても、ほとんどネット上ではあるけれど、ここ1ヶ月強の露出の多さはいったいどうだ。
ライブごとの膨大な動画や画像群、他アーティストたちとの数々のフォトセッション、
各国主要メディアによるインタビュー記事、さらにはライブレビューやCDレビュー。
そして極めつけは、ライブ観戦者によるPeriscopeでのライヴ・ストリーミング。
ROCK IN REVIERにROCK IN VIENNA、Download FestivalのDragonForceステージ。
そしてMETAL HAMMERの受賞式も合わせた4つすべてを生で観ることができたのは幸いだった。
2ヶ月前までベビメタロスに苛まされていたのがまるで嘘と思えるほど情報には事欠かなかった。

 

そんな情報過多に溺れながら愉悦に浸った数日間。
しかし個人的ハイライトはなんといってもブライアン・メイとの記念撮影だ。
それは「シアー・ハート・アタック」で倒れてしまいそうなほどの衝撃だった。
これまでにもスラッシュメタル四天王やメタルゴッドといった大物たちとの写真はUPされたが、
拳を握って歓喜することはあっても感涙してしまうことは一度としてなかった。
そしてそれは、人生で一度でもQueenにハマったことがある方も同じだったのではないだろうか。
Dr.は自慢のレッド・スペシャルだけではなく、多くのメイトたちも泣かせてしまった。
そして今日は、偉業を成し得た可憐な3人が堂々と神バンドを従え、
最高のパフォーマンスで僕らに感激の涙を流させるに違いない。
なんといってもメイトたちは最高のテンションで彼女たちを迎えるのだ。
しかも前日はYUIMETALの記念すべきHappy 16th Birthday。
始まる前から今日のライブは大盛況になるという予感しかない。

 

 

 

 

2.

TLによると、今回も物販の徹夜組が出ていたようだ。
僕もTシャツは欲しかったので始発で向かう予定だったのだけれど、
こんな日に限って少しだけ寝坊してしまった。皮肉にも間男の面目躍如といったところだろうか。
結局、最寄駅に着いたのは予定の2時間遅れの午前9時半頃。
いそいそとホール9方面へ回り込み、物販列最後尾に並ぶ。

 

小雨が降ったり止んだりする中、伝票にカッコよくサインしたいからという理由で、
芸能人でもないのに延々とサインの練習をしながら待つこと数十分。
ときどき周りから冷たい視線を感じたが、でも大丈夫。
小さい頃、部屋の中で本気でかめはめ波を出そうと思って
熱心に練習しているところを母親に見られ、泣かれたことがある。
これくらいの試練などどうってことはない。

 

サインの練習に飽きた途端、手持ちぶたさを感じたので、
かなりの人見知りではあるが、勇気を持ってふと横を向きながら声をかけてみた。
「今日は蒸し暑いですねぇ」
しかし反応がない。
それもそのはず、よく見れば隣の男性は目を閉じたままイヤホンで音楽を聴いていた。
「会話の始めは天気の話をすれば大丈夫」
その昔、Hot-Dog PRESSで読んだことがあったので試してみたがうまくいかなかった。
くそっ、またやられた。若い頃、何度こいつに騙されたことか。
この雑誌の「デート・マニュアル」は一度としてタメになったことはなかったのだった。

 

その後列は進み、2時間後にホール内へ入場。
そこから1時間ほど並んだあと、ようやく僕の順番となる。
買いたいグッズはあらかじめ決めてあったので迷うことなく担当に声をかける。
それにしても、この物販の待ち時間が当たり前の感覚になっていて、不意に怖さを感じる。

 

バイトだろうか、物販の担当者は若い女の人だった。
こちらが指定した商品名を丁寧な口調で復唱している。
もしかしたら几帳面な性格なのかもしれない。
納豆を食べるときは茶碗が汚れないようご飯にかけずに食べるタイプだと思う。

 

清算のときにも、彼女はまた商品名を復唱していた。
真面目な顔つきで慎重に電卓をたたいている。
どうも細かい人のようだ。
履歴書には出来るだけ空欄を作らないようにするタイプだろう。

 

釣り銭を渡してくるときには笑顔になった。
清々しいほどに屈託のない笑みだ。
きっと根は純粋なんだろう。
食卓で味噌汁のお椀が動いただけでビクついてしまうほど純粋なのかもしれない。

 

商品を受け取って立ち去ろうとしたときだった。
明るい声で「ありがとうございます」と彼女が言った。
間違いなく優しい人なんだなと思った。
プールで溺れているカナブンもそっと助けてあげるタイプだと思う。

 

「コンビニであんぱんと缶コーヒーとマスクを買っている奴がいたらそれは刑事だ」

 

気持ちの良い接客のお礼代わりに大切なことをこっそり教えてからホール11を出ると、
僕はまっすぐイオンモールへ向かう。
メッセ付近のコインロッカーは全滅しているだろうと踏んでいたからだった。
運良くイオンモールの1Fのコインロッカーが空いていたので荷物を預けると、
それから僕は待ち合わせ場所へ向かった。
「先輩、お待たせしました」
ほどなくして現れたのは会社の後輩K山くんだ。

 

彼と会った瞬間、僕は「おや?」と首を傾げる。
「おまえ、髪染めた?」言いながら頭を指差す。

「元からって知ってるじゃないですか」
K山くんは苦笑しながら言った。「天然だってこと」

 

ヒトデをスニーカーに貼り付けて「ほら、コンバースだ」と言うと
最初は少し信じ込むほどの天然の性格をしたK山くん。
もしかしたらTシャツの胸にバナナを貼り付けてもナイキと思い込む可能性だってある。
そんな彼は、性格だけではなく、髪もかなり天然茶髪だ。
そしていつもより茶色がかってる気がしたのだが、それはどうも僕の思い過ごしだったようだ。

 

それから一緒に食事をしていると、彼は不意に僕に愚痴ってきた。
天然茶髪に触れられて思い出したようだ。
なんでも数日前、彼は会社の隣にあるスーパーのレジのおばさんに
「あんた、その茶髪なんとかしなさいよ、いい大人なんだから」と
親が子を叱るように真顔で怒鳴られたそうだ。

 

「ははっ、それは災難だったな」

 

軽くK山くんを慰めながら店を出る。
開場まであと1時間ほどだった。
僕たちは揃って幕張メッセへ向かった。

 

 

ホール1へ移動し、しばらく中で入場待機する。
ふと周りを見ると、さすがに2万5千の規模だけあって黒い人の海だった。
男性は7割、女性は3割といったところだろうか。
今日は少ないようだが、コスプレをした少女の姿もちらほら見かける。
相変わらず老若男女、年齢層は幅広い。外国人メイトの姿も少しだけある。
僕の網膜はカップルは認識できない仕様になっているから、残念ながらそれらの数は分からない。

 

THE ONEの先行で落選したので最初から期待してなかったけれど、
いざホールに入場してEエリアの中団前ほどまで進むと、
それほど悪い位置でもないような気がした。
僕たちのいる場所はホール2。
ホール3の中央あたりに赤と黒の巨大な三角錐が鎮座している。
ゆらゆらと揺れているので幕か何かだろうが、ライブが始まるとその幕が外れ、
そこがステージになるのかもしれない。

 

入場してから30分ほどが経過し、ちょうど開演時間の17時頃に
Limp Bizkitの「My Generation」がBGMで流れた。
そのあと暗転するのかと思ったらまだ始まらず、観客たちの歓声はたちまち落胆の声に変わる。
結局、定刻より10分以上過ぎてから開演。
客電が落ちると悲鳴や歓声があちこちから上がった。しかし声が大きい。
当然だ。誰もが心からこの日を待ちわびていたのだ。
“新春キツネ祭り”から約5ヵ月ぶりのフルライブ。
しかもオールスタンディングだからカオスになること間違いなし。
さあ、今日も踊り狂った饗宴と化そう。
すでに世界が認めているBABYMETALの登場だ。

 

 

 

 

3.

セトリ

01. BABYMETAL DEATH
02. ギミチョコ!!
03. ド・キ・ド・キ☆モーニング
04. ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト
05. あわだまフィーバー
06. Catch me if you can
–. ムービー(A-ONモール)
07. おねだり大作戦
08. 紅月 -アカツキ-
–. 神バンド -インストゥルメンタル-
09. 悪夢の輪舞曲
10. 4の歌
11. タイトル未定(新曲)
12. いいね!
13. メギツネ
14. イジメ、ダメ、ゼッタイ
15. ヘドバンギャー!!
16. Road of Resistance

 

まず武道館の「赤い夜 LEGEND “巨大コルセット祭り” ~天下一メタル武道会ファイナル~」
のことがムービーで語られ、「己の限界を試される時が来た」とナレーションが続いていく。
「いよいよ新たな伝説を作る時が来た」
「すなわち、MCもなければアンコールもない」
会場全体から悲鳴に近い大歓声が上がったのは驚きによるものにほかならない。
今夜のライブは「~巨大天下一メタル武道会~」というサブタイトルが銘打たれていたので、
もしかして「赤い夜」から継続されるものになるのかなという漠然とした思いはあったが、
当時より少ないながらも曲数は増えているし、季節も前回の春先と違い初夏である。
だから安易な気持ちでそれはないだろうと高を括っていた。
しかしその考えは甘かった。予想の斜め上を行くのがBABYMETALの真骨頂でもあるのだ。
暑い中でのまさかのアンコールなしのノンストップライブ。
「諸君、首の準備はできているか。巨大天下一メタル武道会の幕開けだ」
やはりBABYMETALのライブは戦いだった。
彼女たちが戦い続けるなら僕たちは着いていくしかない。
儼乎たる口調でバトルの開始が告げられると会場のボルテージは一気に高まっていった。

 

ライブの1曲目として定番の「BABYMETAL DEATH」が始まると、
そこらじゅうでメイトたちは激しく体を動かし始めた。
「ああ、これだよ、これなんだよ!」
BABYMETALのライブの激しさを体感しながら僕はヘドバンを繰り返す。
ギターソロに入ったところで激しいモッシュが発生。いきなりカオスな状況だ。
圧倒的な非現実な世界に誰もが身を委ねていく。

 

続く曲は「ギミチョコ!!」。
意表を突かれたが、陣営サイドからすると一気にテンションを上げる狙いがあったのだろう。
向こうの思惑に踊らされる形で激しくメイトたちが踊り狂う。
そして怒涛の勢いのままコール&レスポンスへ。
「幕張ー!」と叫ぶSU-METALに呼応して声を張り上げ、
MOAMETALの「みんな、会いたかったよー」の声に思わず破顔する。
間髪入れずに「きょうは来てくれてありがとう!」、YUIMETALが続く。
それまでの激しさとのギャップがもうどうにもたまらない。
いやはや、ヘビィな楽曲もそうだが、アイドルとしての破壊力も相変わらず半端ない。

 

3曲目は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」。
曲が始まると会場の空気は一気に明るくなる。
特に女の子が大きな声で「リンッリンッリンッ!」と声を張っている。
「チョ待って! チョ待って!」のところをダナ風に
「トマットゥ! トマットゥ!」と歌ったのはきっと僕だけではないはずだ。

 

予告どおりにノンストップで続くライブは「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」へ。
リズムに乗って体を揺らしながら大声で合いの手を叫ぶ。「キンキラリーン!」
そして正式タイトル名「あわだまフィーバー」へと続く。
イントロが始まるや、僕は食い入るようにしてステージを見つめた。

 

「新春キツネ祭り」以来、生で観るのは2度目だった。
両手で輪っかを作って“あわ~あわ~”と踊るところも好きだが、
それ以上に間奏の重いリフと3人のダンスが大好きだ。
左右後方に体を倒すような振りに合わせて僕は首を大きく左右に振った。
ああ、なんて心地良いリズムだろう。
PVでもMVでもいいから早く公式の動画で観たい。

 

続いての曲は「Catch me if you can」。
藤岡神の出すゆがみ音に痺れる。
そして昨年12月のSU-METAL聖誕祭でも披露したHappy Birthdayバージョン。
今回はもちろんYUIMETALへ捧げたものだけど、大村神の憎いほどの演出に感激する。
BOH神は今回もスラップ奏法だった。弦の弾ける音が小気味よい。
真上から見る青山神のドラムは迫力満点の映像だった。

 

メタルの激しさと可愛さを併せ持ったBABYMETALを体現するにふさわしいこの楽曲。
近くで小さなサークルピットが発生していたが、それには参加せず、
僕はより一層激しくヘドバンしてトランス状態に陥った。
2つの両極端の要素が頭の中で混乱を来たすからいつもそうなってしまう。
まるで壊れた玩具のように、曲が終わるまで首は終始振りっ放しだ。

 

若干の間を置いてから、紙芝居風のムービーがここで挿入される。

 

A-ONモールの屋上に「Happy Birthday」の旗が掲げられていてほっこりしていると、
“君たちRollin’だねぇ! YOU達も一緒にPartyしない??”
突然Limp Bizkitのフレッドの絵が登場してきて会場が大いに沸く。
昨年9月の幕張のガガの別バージョンであることは一目瞭然なのだが、
メタルゴット然り、すぐにネタとしてぶち込んでくる運営の対応の早さには脱帽するばかりだ。
ムービーが終わるとお待ちかね、BLACK BABYMETALの登場だ。

 

「おねだり大作戦」では、Eエリアの隅の方で札束が舞う様子を確認できた。
「買って! 買って!」に合わせてみんなが楽しげにジャンプする。
それからSU-METALのソロ曲へ続くのは予定調和。
「紅月」のunfinished versionのイントロが流れ始めると会場は水を打ったように静かになった。

 

SU-METALが巨大な空間を支配する。
彼女の空間支配力はもはや幕張メッセの箱では小さいようだ。
2万5千の大観衆が彼女の姿だけを見つめている。
演奏が激しくなると、僕はこれまで以上に渾身のヘドバンを繰り返した。
自然と涙を流してしまうのはいつものことだ。問題ない。

 

神バンドのインストを挟み、再びSU-METALが登場。
「悪夢の輪舞曲」が始まる。
途中、ステージの中央が円形のままリフトアップし、彼女の周りを炎が揺らめく。
遠くから眺めていると、炎の中に佇む巫女のように思えた。
この曲はいつ聴いても良い意味でおどろおどろしく感じるが、彼女の姿はいつだって神々しい。

 

続く「4の歌」は期待どおり武道館Verだった。
上手に来た2人の煽りに合わせて何度も大きく「よんっ! よんっ!」と叫ぶ。
曲が終わると短めのムービーが流れ始めた。
「新たな調べ」のナレーションに一際大きな歓声が上がった。

 

「気になっちゃった、どうしよう。あれどっち? これどっち?」と歌っていた新曲。
「えっ、タイトルは? 歌詞は? コーラスは?」と気になって仕方がないのはこっちのほうだ。
ライブで一度聴いただけではなんとも判断がしずらいが、ダンスチューンのノリのいい曲だった。
しばらくはアレンジを繰り返すのだろうけど、早く音源でちゃんと聞いてみたい。
「Road of Resistance」は僕にとってスルメ曲だったが、この曲もそうなるような予感がする。

 

ノンストップのライブはその後も続き、「いいね!」で会場が一際盛り上がる。
この曲中でのことだったのかどうかも定かでないし、どこの箇所だったのかも思い出せないが、
白目を剥いたSU-METALのアップが不意にビジョンに映り、慄く。
「ライブでは神が降臨するんです」と無邪気にジョークを飛ばす彼女たちだが、
実際に何かが憑依しているように思えた瞬間だった。
鬼神のような彼女の気迫に負けぬよう、こちらも「いいね! いいね!」と大声を張る。

 

それにしてもなんと表現すればいいのだろうか。
ステージ上の3人はライブ序盤からすでに大量の汗を掻いていたというのに、
ここまで動きが落ちるどころか、観客を鼓舞するようにさらに激しく踊っている。
これにはもう、感動の涙を流さずにはいられない。
いったい何が彼女たちをそこまで衝き動かすのだろう。
それは自分たちの限界への挑戦であるからにほかならない。
その姿勢が伝わってくるから、僕たちメイトは彼女たちに敬意を払わずにはいられないのだ。

 

続く「メギツネ」では、周りが「ソレ! ソレ! ソレ! ソレ!」と熱狂して踊る中、
僕は大村神よろしく、激しくヘドバンを繰り返した。
そういえば今日はずっとヘドバンをしっぱなしだった。
やってる最中は気づかなかったが、多少なりとも周りに迷惑をかけていたに違いない。
「きっと邪魔だったと思う。ごめんなさい」
この場を借りて心よりお詫び申し上げる。

 

「イジメ、ダメ、ゼッタイ」では、イントロ時にWOD用のサークルができていたが、
ここらあたりから圧縮がきつくなってきて、サークルは近いのに身動きが取れなかった。
そして実際にWODが始まっても周りの人は流れなかったので結局WODには参加出来ず終い。
内心で半分ホッとし、半分がっかりする。
K山くんの姿は見当たらなかったので、もしかしたら彼はWODに参加したのかもしれない。

 

最後のサビに入る直前だったと思うが、SU-METALの「かかってこいや!」がここでも炸裂し、
その瞬間、鳥肌が立ったことだけは覚えている。
ステージに立つと豹変する彼女は前から「メンタルモンスター」だと思っていたが、
最近は性格もより男前になってきたなあと実感することもしばしば。
男の僕から見てもその勇ましさには惚れ惚れする。

 

曲はそのまま「ヘドバンギャー!!」と続いたが、
かなり体力がなくなってきている実感があった。
足腰に思うように力が入らないし、首やら肩やらあちこちが痛い。
ふくらはぎは今にもつりそうで、息もかなり上がっている。
だけどここで自分に負けるわけにはいかなかった。
ステージの3人はまだ戦っている最中なのだ。
僕は力を振り絞ってヘドバンを続け、何度もジャンプを飛んだ。
曲が終わった途端に倒れ込むのではないか。
そう感じるほど、僕の体力は限界ギリギリだった。

 

そしていよいよノンストップライブの最後を飾る「Road of Resistance」が始まる。

 

気が付けばほぼ真横でWOD用のサークルが出来上がっていたけれど、
それに参加する意思も気概も今の僕にはなかった。
この中に入ってしまったら間違いなくぶっ倒れる。
頭の中では危険を暗示する緊急サイレンが鳴り響いていた。

 

しかしそんな僕の心情とは裏腹に、誰かが僕を前へ前へと押してくる。
振り返ると、にやりと笑うK山くんの姿があった。
いつの間にか近くに戻ってきていたようだ。「ほら先輩、もっと前に」

 

「ちょ、止めろって」僕は即座に抵抗するが、
「さあ、頑張って」とK山くんはなおも押してくる。「先輩!」

 

「おい、やめろって」今回ばかりはさすがに危険を感じた。
本当にもうフラフラの状態なのだ。僕は語気を強めながら後輩を指差す。
「おまえ、イニシャルを逆さにしてもいいのか? ヒントを与えてもいいのか?」
「何わけのわかんないこと言ってんるですか、先輩」
「だからK山じゃなくて梶Yでもいいんだなっと……、おっ、おっ、おおおおおーっ!」

 

「1、2、3、4」のカウントを合図に、結局は無理やりWODに参加してしまう僕。
いきなりおもいきり素っ転んだが、それはもはや既定路線だった。
這うようにして立ち上がり、サークルの外に難を逃れる。
「Woh Woh Woh Woh」のところだけはなんとか拳を突き上げ、大声を張り上げた。
3人がリフトによって高い位置へ昇っていく。
今夜のクライマックスを迎えた瞬間である。
そして最高だったという言葉しか思い浮かばないライブがやがて終焉を迎えた。

 

ぼーっとする意識で、3人が三角形の光の中へ吸い込まれていく姿を眺める。
それはまるで異次元の世界から現れ、僕たちに最高の非現実を体験させ、
そして彼女たちの住む世界へ颯爽と戻って行くかのような演出。
そう、ステージ上の3人は異次元から来た生物、人間を超越した存在なのだ。
そんなふうな幻想を抱きながら僕は次第に現実世界へ戻っていった。
たった今終わったばかりなのに、もう次のライブが早く観たい。
いつものように、その思いが胸中を渦巻くまでにさほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

4.

会場を出ると、開口一番K山くんが訊ねてきた。
「やっぱりBABYMETALのライブはすごいですね。先輩はどうでした?」

 

少し逡巡してから僕は口ずさむ。
「I’m just a Frederic. ah, Fall in love」

 

「え、何ですかそれ」

「知らない? 小林明子の『恋に落ちて』って歌」

「知ってますけど、Frederic? そんな歌詞でしたっけ?」

「だいたい合ってると思う」

「ふうん。で、それにどういう意味が?」

「彼女が“彼の笑顔の理由になった”瞬間ってことさ」

「えっ、意味わかんないです。どういうことです?」

「別にわからなくてもいいんだよ」

 

目をぱちくりさせるK山くんを尻目に僕は歩き出す。
思い返して見ると、MOAMETALの「みんな、会いたかったよー」は兵器並みの破壊力だった。
脳天に爆弾を落とされ、一気にドーパミンが溢れ出し、否応なく笑顔になる、そんな感覚だった。
一連のたとえは悪いが、イメージはそれしか浮かばないので寛容に受け止めてほしい。
きっとドラフォのベースのフレッドも、あの時そんな心境に陥ったのではないだろうか。

 

駅へ向かいながら僕は今夜のライブを振り返る。
新春キツネ祭りと比べると音圧はそうでもなく、音響自体も完璧というわけではなかったが、
それでも僕が居たあたりは予想に反して比較的音は良く聞こえた。
きっと場所によって聞こえ方は違ったのだろう。幸いだったというほかない。

 

コスプレをした小さな娘を肩車した外国人メイトの姿をライブの最初にちらっと見かけたが、
その後はまったく気づかなかった。
無事でいて、それでいて今日のライブを楽しめていればいいなと思う。

 

1ヵ月前の「METROCK」のモッシュが異常に激しかったこともあって、
今日のライブでは若干物足りなさを感じてしまったけれど、
逆にモッシュがすべてではないと実感させられるライブでもあった。
ピットで盛り上がりの一体感を味わえたことは大変心嬉しかった。

 

ただ1つ残念だったのは、ピットの真ん中でも荷物を持ったメイトの数が多かったことだろうか。
これはクロークが超モシュッシュピット分しかなく、
コインロッカーの数が絶対数足りてなかったから致し方ないことではあったし、
僕自身、そのことはまったく気にしていなかったのだけれど、
膨らんだカバンを2つ前後に背負ったままのメイトが途中に横に来たときはカバンに押されて、
身動きがほとんど取れなくなってしまったので困った。
荷物の対応は客に依るところが大きいが、運営の対処にも課題が残っただろう。
ホール1の状況を見たところ、もう少しクロークの場所は広めにとっても良かったように思えた。

 

歩くうちに汗が引いてくると、急に肌寒く感じるようになった。
よくよく考えれば今日のライブはホール1をクロークや入場待機場所として使い、
ホール2と3に2万5千人の観客がぎゅうぎゅうに詰め込まれた状態だった。
にもかかわらず、空調はほとんど機能していなかったので大量の汗を掻いた。
こんなに汗を掻いたのは久々だったがなんとも心地のよい汗だ。

 

また、今夜のライブは新春キツネ祭り同様、3人との距離が離れていたこともあって、
神バンドはこれまでどおりバックバンドに徹していた。

 

しかし先日のニコニコ生放送でBOH神は、ツアー前のミーティングでKOBAMETALから、
「去年と違って今年はバンドっぽくしてくれ。自分のバンドのようにやってくれ。
演奏はそのまま(ダンスに影響が出ないように)タイトにクオリティをキープしてもらって、
動けるところはガンガン動いてガンガン前にいってくれ」と指示されたと言っていた。
本人もライブパフォーマンスを昇華させるためにはそれは必要であると認識しているらしく、
実際に曲中にアドリブを入れていい箇所もあると発言していた。

 

では具体的にどこで前に出てきて見せ場を増やせばいいのか。
それはやはり3人のダンスが比較的自由になるところだろう。
それならば神バンドが3人の邪魔にならないように配慮することができる。
記憶の新しいところではDragonForceとのコラボ2曲が思いつく。

 

「ギミチョコ!!」のギターソロでは、ギタリスト2人がなんと左右のお立ち台に立ち、
Sam Totmanの横にYUIMETALが、Herman Liの横にはMOAMETALが並び、
揃って観客を煽るようにパフォーマンスしていた。
そして「Road of Resistance」の“Woh Woh Woh Woh”のところでは、
3人とドラム以外のメンバー全員が横一列になって観客にsing-alongを促していた。
あの様子は映像だけでもかなりインパクトがあったので、
いつの日かもう少し小さな箱で神バンドにもぜひやってもらいたい。
BABYMETALのアイコンはあくまでもフロントの3人だが、
ライブの演出効果としては十分ありだろう。より盛り上がることは間違いないのだから。

 

2つの受賞によって名実ともにイギリスで認められたBABYMETAL。
メディアや音楽界の関係者たちに一様に愛されているように思えるのは、
功績は元より、彼女たちの性格や人格といった素の部分によるところが大きいのだろう。

 

整った顔立ちをした女性は「綺麗な人」と表現するほかないが、
内面の美しさが滲み出て表情が輝いている人のことを、周りはそれを「美人」と呼ぶ。
彼女たち3人のルックスは元からキュートだが、それ以上に彼女たちは「美人」なのである。

 

また箔が付いたことにより、今後の彼女たちを取り巻く環境は徐々に変貌していくことだろう。
それはフェスでの待遇や各国ライブの箱の大きさにも変化を及ぼすはずだ。
国内の報道においても、BABYMETALの海外実績を紹介するうえで引き合いに出されていた
“レディ・ガガのサポートアクト”に取って代わっていくだろう。
「イギリスで格式の高い賞も受賞した、世界で人気のBABYMETAL」、そんなふうに。

 

良過ぎて泣いてしまうほどの音楽に出会えたことに感謝。
心奪われて聴き惚れるわけにはいかないヴォーカルに感謝。
心躍らずには入れらないキレッキレのダンスに感謝。
薄暮れの空を眺める視線に、僕は何度も感謝の意を込める。

 

BABYMETALで1つ気掛かりなのは、忙しすぎて3人が普通の高校生活を送れないことだろうか。
9月から10月にかけて初の国内ツアーが最後に発表されたが、そのほとんどが平日だった。
限られた時間の中であっても、高校生活は存分に満喫してもらいたい。
こればかりはどうしても父兄目線にならざるを得ない。
改めて思うが、3人がまだ高校生であるという事実は驚愕というほかない。

 

駅近のコンビニに立ち寄り、再度水分補給を行う。
女子店員の愛想が良い。
笑顔で「ありがとうございました」と見送ってくれる。

 

「ライブ中に何度もメモを取っている奴がいたらそれはTERI-METALだ」

 

気持ちの良い接客のお礼代わりにどうでもいいことをこっそり教えてから僕は店を出た。

 

後から知ったことだが、今日のライブでは女性や子供向けのエリアが設けられていたようだ。
その名も「HAPPY MOSH’SH PIT」。
先月の「METROCK」ライブレポの最後に僕が触れたから用意されたということは100%なく、
あらかじめ運営が考慮していて事前に対応策を講じたのだろうけど、しかしまさか、
半分ネタ記事であった「聴くのはメタル」の文中で予想した
BABYMETALの公式ヘッダー画像の変化が当たっているのを帰りの電車の中で確認したときには、
我ながら思わずぷぷっと噴き出してしまい、「まじか」と小さく呟いてしまった。
その際、周りから冷たい視線を感じたが、でも大丈夫。
学生の頃、庭先で本気で波動拳を出そうと思って
熱心に練習しているところを祖母に見られ、静かに祈られたことがある。
これくらいの試練などどうってことはない。

 

 

 

東京駅でホームを移動しているときだった。
先ほどからどうも胸騒ぎがしていたのだが、それが次第に大きくなっていく感覚があった。
なんなんだろう、この体の中で覚えるざわざわ感は。
たとえばうっかり口を滑らせて他人の重要な秘密を暴露してしまった。そんな心境にも似ている。
だけどきっと僕の思い過ごしだろう。

 

僕は一息ついて気持ちを切り替えると、
梶Yくん、もといK山くんといっしょに埼玉方面行きの電車に乗り換えた。

 

BABYMETALの3人はスーパーガール。
女性の大人の境界線を男性より低く見積もって仮に18歳だとすると、SU-METALは今年の12月に、
MOAMETALとYUIMETALは2年後にそのままスーパーレディとなる。
つまり、年齢に相応しくガールと言っているだけであって、
彼女たちはすでに、さくら学院が標榜している「スーパーレディ」の域に達していると思う。
世界に対してかなりの影響力をすでに有しているのだ。
年齢に囚われず、識見を持って真実を見つめれば、その結論に至るのは容易なはずであろう。

 

BOH神は以前に自らのブログで、「BABYMETALは無敵の領域に入っている」と記していたが、
BABYMETALは間違いなく国内最強だろう。そう確信し得る今夜の凄まじいライブだった。

 

観れる分は観る。チケットが取れる分は取る。
残念ながらFC限定ライブは昨年から連敗中だが、
今後も関東圏のライブの先行予約はすべて応募するだろう。
彼女たちがいつまで続けるのかはキツネ様のみぞ知ることであるから、
後悔のないように僕は行動に移すまでだ。
次のライブで観れるのはまだ先だが、彼女たちの個々の成長、
グループとしての完成度の高まりを、僕は今後もリアルタイムで見届けていきたい。
そして改めて、今こうして彼女たちを追えることに心から感謝したい。

 

 

翌日。

筋肉痛の足を引き摺るようにして歩きながら出社する。
昼食で外へ出る際、思うところがあって僕はK山くんを呼び止める。
「あんた、その茶髪なんとかしなさいよ、いい大人なんだから」
天然茶髪のK山くんに怒ったというおばさんのことを不意に思い出したからだった。

 

どんな人だろうと思い、Kくんを連れて隣を覗きにいく。
彼が指を差して僕にそのおばさんを教えてくれる。
僕は興味深々に瞳を輝かせ、物陰からレジへ視線を送る。
僕の目に映るおばさんの髪はまるで孔雀のような紫色をしていた。

 

 

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