音楽ナタリー ピエール中野(凛として時雨のドラマー)と対談


2012年11月28日

 

BABYMETALがロックシーンの先輩アーティストたちからさまざまなことを学ぶ対談企画。第1弾ではSuGのフロントマン・武瑠とSU-METAL(Vo, Dance)によるディープな対談が行われた。今回掲載する第2弾では、ゲストとして凛として時雨のドラマー・ピエール中野が登場し、BABYMETALの3人と新鮮なトークを展開。ステージ上でのパフォーマンスや楽器の練習方法、さらにはメタルの基本など、この組み合わせならではの会話を楽しんでもらいたい。

取材・文 / 西廣智一 撮影 / 佐藤類

 

ヘヴィメタルのいい部分をきちんと取り入れている

──ピエールさんは最初どういうきっかけでBABYMETALを知ったんですか?

インタビュー写真

ピエール中野 音楽好きの人やバンドマンから「BABYMETAL、カッコいいから観たほうがいいよ」ってよく言われてたんですよ。で、最初に観たのが「ヘドバンギャー!!」のPV。まず曲のアレンジが細かく詰められていて、楽曲のレベルが高いと思いました。そもそもアイドルソングってクオリティが高いものが多いと思うんですけど、その中でもBABYMETALはヘヴィメタルの本当にいい部分をきちんと取り入れていて。ツーバスの入れ方とかギターリフの構成とかセンスいいなと思うし、これはすごく支持されるだろうと思いました。

──完全に楽曲から入ったんですね。

ピエール中野 はい。僕は割と楽曲から入ることが多いんですよ。Perfumeがすごく好きなんですけど、それも楽曲から入りました。で、観ていくうちに振り付けだったり本人たちのキャラだったり、そういったところもいいなと思うようになっていくんです。曲から入る人、見た目から入る人、いろんなタイプがいますけど、僕みたいにバンドをやってる人間の場合はまず曲が良くないとダメだと思う人が多いんじゃないかな。

 

生バンドは音が違うんだよね

──BABYMETALのライブを観たことはありますか?

ピエール中野 映像では観たことあります。振り付けをMIKIKO先生(Perfumeなどを手がける振付師)がやってるというのもあって、観ていて楽しいし。早く生でライブを観たいですね。

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YUIMETAL 私たち、この間O-EASTのワンマンライブで初めて生バンドの人たちと一緒にパフォーマンスしたんですよ。

ピエール中野 生バンドと一緒にやってみてどうでした?

MOAMETAL 音が違うんだよね。

YUIMETAL 本当に。

SU-METAL 最初に生バンドさんと合わせたときに、MOAMETALがずーっとポカーンと演奏を観てて。

BABYMETAL一同 あははは(笑)。

ピエール中野 なんで見とれちゃったの?

MOAMETAL 演奏を聴いてたら、心臓がすごいバンバンってなって。

ピエール中野 やっぱり音の迫力も普段のバックトラックとは全然違うでしょ?

MOAMETAL はい。あとバンドの皆さんが顔を白塗りにしてて。あの存在感がすごかったです。

ピエール中野 そうだよね。顔を白く塗ると普通じゃない感じになるしね。そんな人がいっぱいいるわけでしょ?

MOAMETAL いっぱいいた(笑)。

ピエール中野 でもステージにいる人たちがそれを感じてるんだから、きっとお客さんはそれ以上の存在感を感じてるんじゃないかな。メタルの世界は特に、お客さんがボーカリストよりもギタリストに注目するケースが多くて。それだけじゃなくて、バンドの中でベースやドラムが一番注目されることもあるし。

SU-METAL へえ! 面白いですね。

ピエール中野 普通は歌を歌ってる人に目がいくものね。例えば木村カエラさんのバックバンドには超凄腕のミュージシャンが揃っていて、そういう話を聞いて「じゃあちょっと観てみよう」と思ったロックファンが実際にカエラさんのライブを観たら「歌いいじゃん、曲いいじゃん」ってことになると思う。皆さんがこの間シンガポールで競演したT.M.Revolutionさんのバンドもすごいメンバーだし。だからBABYMETALも、もっと生演奏で歌う機会を増やしていくとロックファンやメタルファンは喜ぶんじゃないかな。

SU-METAL バンドさんと一緒にやったとき、今までだったら間奏の部分は普通に踊ってたんですけど、生演奏だとギターソロとか聴き入っちゃって、本当にカッコよかったし。また新たな発見ができたと思います。

ピエール中野 あ、いいね。いい発見をしたね。

SU-METAL はい。えへへ(笑)。

 

初心者は最低1日2時間は練習

YUIMETAL ピエールさんはいつ頃からドラムを始めたんですか?

ピエール中野 中学3年生の終わりぐらいからかな。僕はX JAPANのドラマー、YOSHIKIさんに憧れてドラムを始めたんです。YOSHIKIさんはドラムとピアノを演奏するバンドの中心人物で。まだメタルとか全然知らない頃に友達から「ヤバいから観ようぜ」って言われてX JAPANのビデオを観せられて。そこで、ドラムソロだけでステージを10分も成り立たせるYOSHIKIさんのパフォーマンスを初めて観て、カッコいいと思ったんです。

SU-METAL えっ、10分間も?

YUIMETAL そんなに?

ピエール中野 ドラムセットがせり上がるの。

BABYMETAL一同 すごい!

ピエール中野 東京ドームのライブビデオだったんですけど、それを観てドラムを始めて。

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MOAMETAL 実はMOAもギターやってるんですけど……。

ピエール中野 あ、マジっすか。

MOAMETAL 練習とか苦手で、全然弾けないんですよ。

ピエール中野 それ致命的じゃないですか。

BABYMETAL一同 あははは(笑)。

MOAMETAL そう、全然できなくて。ピエールさんは練習をどれくらいやってるのかなと思って。

ピエール中野 練習は人によるけど……でもまあ最初のうちは最低でも1日2時間は集中してやったほうがいいかな。

MOAMETAL 2時間もですか?

ピエール中野 でもほら、みんな歌やダンスの練習をするでしょ? きっと2時間以上してるんじゃないですか、多分。

SU-METAL ああ、そうですね。

ピエール中野 なかなか時間が取れなくて大変だとは思うんですけど。例えばみんなが以前対談したアニメタルUSAのクリス・インペリテリって人は世界を代表するメタルギタリストなんだけど、演奏してるところを観たことある?

SU-METAL はい。

ピエール中野 すっごい速弾きだったでしょ? あれも相当な練習をした結果なんです。インタビューで「どうやったらそんなにうまくなれるんですか?」と質問されると、彼も「すごく練習してきたよ。1日の大半をギターに使ったぜ」みたいに答えると思うんですよ。

MOAMETAL すごい! そうなんだ。

ピエール中野 っていう感じです。だから練習をがんばるしかないかなと。

MOAMETAL ……がんばります(笑)。

 

イルカが超音波で交信してるみたい

──BABYMETALの皆さんにも、取材の前に凛として時雨の映像を観てもらったんですよね。

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BABYMETAL一同 観ました。

SU-METAL 「JPOP Xfile」とか。

ピエール中野 あ、はいはい。「JPOP Xfile」。

YUIMETAL なんかすごく声が高くて。

ピエール中野 高いよね。あれ男の人なんだよ。

YUIMETAL イルカが超音波で交信してるみたいな感じがしたんです。

ピエール中野 ありがとう。でも人間だよ(笑)。ギターボーカルの男の人(TK)はね、声が高くて有名なの。

SU-METAL でもロックバンドのボーカルの人って、男性でも声が高い人が多いですよね?

ピエール中野 B’zの稲葉(浩志)さんとか、X JAPANのToshlさんもそうだし。ハイトーンボイスって言うんだけど、なんでそうなったかは、いろんな理由があると思うんだけど、生演奏の音ってデカいでしょ? うちのバンド、最初は1オクターブ低かったの。でも練習スタジオで演奏してると自分で何を歌ってるか聴こえないっていう。

SU-METAL 自分で歌っていてですか?

ピエール中野 そう。周りの音がすごくデカいから聴こえないんだって。それで1オクターブ上げて歌ってみたら、しっかり聴こえたみたいで。ってこれ、確か時雨のインタビューでも訊かれたことないんですけど(笑)。

BABYMETAL一同 あははは(笑)。

ピエール中野 まあそれだけが理由じゃないと思うけど(笑)。

 

ヘドバン準備運動の曲を作ればいいんじゃないかな

MOAMETAL あと、私は演奏シーンに注目して観てたんですけど、ドラムを叩くときにすごい首を振ってますよね。BABYMETALもヘドバンしてるので共通点があるなって思ったんです。BABYMETALはいつもライブの前に首を回して練習してるんですけど、ドラムを叩く前に何かしてることってありますか?

SU-METAL 準備運動みたいなこと?

MOAMETAL うん。

ピエール中野 ストレッチはちゃんとしないとね。僕も念入りにするようにしてます。次の日に首が痛くなっちゃうんで。

SU-METAL あ、私も次の日に首が痛くなる。

ピエール中野 そうそう、あとから来るからさ。今は平気だと思っても、きっと10年後ぐらいにガタが来るからね。

BABYMETAL一同 あははは(笑)。

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ピエール中野 いやいや、本当に。10年後に「あのとき無茶してたから……」って言わないように、今のうちにちゃんとケアをしておいたほうがいいよ。準備運動やストレッチって別に大して意味ないじゃんとか思うでしょ? 僕も中学生の頃そう思ってたけど、今になって「あのとき、やっておいてよかった」って実感するから。

──メタルファンにもヘドバンのしすぎで首を痛める人が多いですし。

ピエール中野 そう。お客さんにも準備運動してる人も多いし。あ、だから準備運動の曲を作ればいいんじゃないかな?

BABYMETAL一同 ああ!

SU-METAL その曲で一緒に頭を振って、準備運動をするんですね。

ピエール中野 これ、大事だよ。

 

ドラムは集めたりしてるんですか?

MOAMETAL 頭を振りながらドラムを叩いていて、ドラムの位置がわからなくなったりしませんか?

ピエール中野 もう17年ぐらいやってるから、目をつぶって叩いても位置はわかるよ。毎回バラバラじゃなくて、いつも同じ位置にセッティングをしてるし、椅子の高さも一緒。だからどんな状態でも叩けるの。

MOAMETAL すごい。

SU-METAL じゃあドラムセットの位置とか椅子の高さとかも、人によって違うんですか?

ピエール中野 そう。ドラマーが100人いたら100通りのセッティングがあって。実はものすごく果てしない組み合わせがあるんですよ。

BABYMETAL一同 へえ……。

ピエール中野 だって木の材質とか上下に張ってある皮の種類とかだけでもいろいろあるし。それをいろいろ組み合わせることで、音がどんどん変わるの。それはもう無限の組み合わせで、だから楽しいっていうのもあるんだけどね。それと場所によっても音の響き方が違うから。

YUIMETAL 初めて知りました。

ピエール中野 ギターも一緒で、ボディの材質、弦の太さ、使うピックの種類、そういうものの組み合わせ次第で自分だけの音が作れるし。

SU-METAL へえ、すごい。

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MOAMETAL ドラムは集めたりしてるんですか?

ピエール中野 あんまり集めはしないかな(笑)。でもいろいろ試したりはするよ。例えばこれとこれだったらどっちがいいかなって迷ったら、両方買って試してみるし。結果いっぱいたまっちゃったりはするけど、コレクションはしないかな。中にはスネアドラムを100台以上持ってるドラマーもいるけどね。

MOAMETAL 100台も?

ピエール中野 そう。100台もいらないって思うよね。でもその人にとっては必要で、何かあったときのために持っていたいんだろうな。例えば激しい曲をやりたいときに「あ、そういえばあのスネアがあったからそれ使おう」と思うかもしれない。

SU-METAL 1台1台音の違いとか覚えてるものなんですか?

ピエール中野 自分で持っている楽器なら見ただけで音がわかりますよ。

SU-METAL へえ。ギターは場所によって音が変わるって聞いたことがあるんですけど、ドラムの場合もそういうことはあるんですか?

ピエール中野 あるある。歌ってるときに、会場によって聴こえ方が違うって感じることないかな?

SU-METAL 響きとか?

ピエール中野 そう。だから会場が変わるとチューニングも変えたりとかする人もいるし。あれ、メタルの話から結構本格的なサウンドメイクの話になってる(笑)。

 

チョーキングしなくてもいい曲で練習しよう

──ここからはピエールさんがオススメするメタルバンドの映像をBABYMETALの皆さんに観てもらいたいと思います。

ピエール中野 どれを観ましょうか?

──本格的な楽器の話をしたので、このイングヴェイのギター教則ビデオはどうでしょう。

ピエール中野 いいじゃないですか。えっとですね、楽器の世界には教則ビデオというのがあって、例えばギターの練習をするためにそういった映像を観るんです。で、メタルの世界では誰でも知っているイングヴェイ・マルムスティーンというギタリストがいて、モーツァルトをはじめとするクラシックの要素をメタルに取り入れてる人なんですけど。

(教則ビデオ「イングヴェイ奏法」のデモ演奏を鑑賞)

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ピエール中野 この人のギターソロ、速いでしょ?

MOAMETAL うん。

YUIMETAL すごい……。

ピエール中野 すごいでしょ?

SU-METAL はい。

ピエール中野 ソロの中にクラシックっぽいメロディが入ってる。このプレイとサウンドで一世を風靡したんです。

SU-METAL へえ。

ピエール中野 この人のギターの指板は普通のギターと違って、若干えぐれてるの。スキャロップ加工っていうんだけど。今度楽器屋に行ったら見せてもらうといいよ、「イングヴェイモデルのギターありますか?」って。

YUIMETAL あはは(笑)。

MOAMETAL え、待って。でも押さえるところが凹んでたら弦が押さえにくいですよね?

ピエール中野 そう。でも押さえられちゃうのが不思議でね。そっちのほうが速弾きしやすいんだって。

MOAMETAL MOAもギターを練習してるときに、あの、こう弦を上に上げる弾き方があるじゃないですか。

ピエール中野 ああ、チョーキングね。

MOAMETAL あれをやってるときに、1回爪が剥がれそうになっちゃって。

ピエール中野 それは無理しなくていいと思うよ。チョーキングをしなくてもいい曲を練習するといいんじゃないかな。

MOAMETAL わかりました(笑)。

 

ドリルでギターを壊して音を鳴らしてるのかなって

──続いて、楽器をいろいろ弾き倒していくと、そのうち指以外で弾く人が出てくるという例です。

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MOAMETAL え?

ピエール中野 お、MR.BIGですね。

MOAMETAL どんなのかな?

YUIMETAL なんでもありなんですね。

──曲の途中、ソロパートから観てみましょう。

(MR.BIG「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」のライブ映像を鑑賞)

ピエール中野 ポール・ギルバート(G)とビリー・シーン(B)が速弾きでバトルするの。

SU-METAL え、これドリルを持ってるんですか?

ピエール中野 そう。電動ドリルをギターやベースのピックアップに近付けてスイッチを入れると、「キュイン!」って音がするんだよね。

SU-METAL じゃあギターに当ててるわけじゃなくて?

ピエール中野 ギターにも当ててるの。これはドリルの先端にピックを3枚付けて、回転させて弾いてるんだよね。だから指でピックを持って弾くよりも正確に、しかもものすごい速さで「トゥルルルルー」って弾けるという。

SU-METAL ドリルを使ってるし、ギターを壊して音を鳴らしてるのかなって思った(笑)。

ピエール中野 その破壊的な感じね。そういえばさっきのイングヴェイっていう人はね、歯でギターを弾いたりとかもするんだよ。

YUIMETAL ええ!?

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SU-METAL すごい。

ピエール中野 意味わかんないよね?

SU-METAL うん。

ピエール中野 しかもそれを、さっきの教則ビデオの中で「俺ぐらいのレベルになると、歯でも弾けるんだぜ」とか言ってる。

BABYMETAL一同 あははは(笑)。

ピエール中野 「本気なのかギャグなのかどっちなの?」みたいな。真顔でおかしいことをやる、紙一重な感じがメタルの面白いところかもしれない(笑)。

プライベートでもっと楽器に触れてほしい

──今日の対談ではBABYMETALの皆さんが楽器に興味を持ってくれたので、今後ステージ上で自分たちでギターを弾いたりドラムを叩いたりする日も近いかもしれないですね(笑)。

BABYMETAL一同 おお!

YUIMETAL でもやりたいね。

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ピエール中野 きっとステージ上で楽器を持ってるだけでもいいし、当て振りでもいいと思うんだ。

SU-METAL でもあれだよね? 「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のPVでもちょっとね。

MOAMETAL そう。

SU-METAL ちょっとね。

ピエール中野 へえ(笑)。でもそういう試みはいいと思うよ。だって、ゴールデンボンバーだって当て振りだけど、楽器があるのとないのとでは大違いだから。

SU-METAL そうですね。

ピエール中野 MIKIKO先生に頼んで、そういうアイデアをどんどん取り入れていってもいいと思う。「どんなふうに見せたらいいですかね?」「どんな楽器を選んだらいいですか?」とか。あとは実際に弾いてみるっていうのもすごく大事かな。メタルを演奏するのは結構ハードルが高くて難しいんだけど、難しいからこそ支持されてる音楽だし。でも今後実際に弾き方を教えてくれる人もいるかもしれないので、プライベートでもっと楽器に触れてみるのもいいかもね。

BABYMETAL一同 はい!