日経トレンディネット  異色メタルアイドル「ベビーメタル」はなぜ人気? “仕掛け人”を直撃!


2012年10月31日

 

BABYMETALのメンバー。左から、YUIMETAL、SU-METAL、MOAMETAL

2010年に、「アイドルとメタルの融合」をコンセプトに結成された「BABYMETAL(ベビーメタル)」。アイドルグループ「さくら学院」のメンバー3人が「重音部」として活動する派生ユニットで、群雄割拠のアイドル市場において、かなり異色な存在だ。

重厚なメタルサウンドとアイドルらしいパフォーマンスのギャップ、楽曲やパフォーマンスに見られる「メタル好きにはわかる」ツボを心得た演出など、ほかとは一線を画す魅力でアイドル好き以外のファン層を獲得している。さらに動画共有サイトの「YouTube」経由で楽曲が紹介され、日本のみならず海外のファンからの支持も集めている。

BABYMETALが生まれた経緯から音楽市場でアイドルが担う役割まで、仕掛け人であり、「重音部RECORDS」顧問を務めるアミューズのKOBAMETAL(コバメタル)氏に話を聞いた。

アミューズのKOBAMETAL氏

 

「ヘビーメタル」をもじって「ベビーメタル」に

――「AKB48」や「ももいろクローバーZ」の他、さまざまなアイドルが存在する中でBABYMETALは異彩を放つグループだ。なぜ、メタルとアイドルを組み合わせようと考えたのか。

代表曲の「ヘドバンギャー!!」を持ち、熱弁をふるうKOBAMETAL氏

KOBAMETAL氏(以下、KOBAMETAL):単純に、自分がメタルもアイドルも好きだったという理由が大きい。

 例えば、「Perfume」というテクノとアイドルを組み合わせた成功例がある。これを自分が新しく作るならば、アイドルに組み合わせるのはメタル以外にはないと思っていたところ、メインボーカルのSU-METAL(さくら学院の中元すず香)に出会った。そして、彼女の良い意味でクセがなくストレートな歌声を聴き、「メタルアプローチの曲を少年少女合唱団が歌う」ようなイメージを表現できるのではないかと感じたのが初めだ。

自分はアイドルも好きだが、もともとは大のメタルファンで、そのメタルへの愛情を込めた新しいタイプのアイドルユニットとして誕生したのがBABYMETAL。そのため、「アイドルの仮面をかぶったメタルダンスユニット」という側面が強く、アイドル界のダークヒロイン的存在に成長すればと思っている。

BABYMETALでは、メンバー3人のかわいらしさとメタルの激しさとのギャップ感を大切にしている。「ヘビーメタル」をもじった「BABYMETAL(ベビーメタル)」というネーミングは“お告げ”によって降りてきたものだが、“BABY”でかわいらしさ、“METAL”で激しさをわかりやすく示すことができ、また「新しいメタルが誕生する」という願いも込めて採用した。

――メタルとアイドルを融合させるにあたり、楽曲作りなどで心がけていることは何か。

KOBAMETAL:楽曲にしても、ライブ演出にしても、過去にメタルシーンを築き上げてきた先人たちへの愛情と尊敬を込めてオマージュしつつも、決して懐古主義にはならないようにアレンジし、メンバーに体現してもらおうと努めている。今までもメタル風味のアイドルソングはあったが、BABYMETALの場合は、まずベースに本格的なメタルサウンドありきのアイドルソングをイメージしている。

 メタルは非常に細分化されたジャンルで、一言で語るのはとても難しい。パブリックイメージとしてのメタルは、長髪でレザーの服を身にまとい、尖ったギターで「ギャーッ!!」とシャウトするというような感じかもしれない。しかし、日本のメタルシーンだけでも、いわゆるアイアン・メイデンに代表される正統派メタル、マキシマム ザ ホルモンのようなミクスチャー・コア系、パンクやハードコアの混じったエモ・スクリーモ系、ヴィジュアル系のなかでもメタルアプローチを取り入れたV系メタル、などさまざまなタイプが存在する。

各ジャンルでメタルの世界観が異なるため、バンド形式の場合は音楽性を変えることが容易ではない。その点、BABYMETALはアイドルからメタルへアプローチしているため、バリエーション豊かな展開ができる。また、それが楽曲に合わせてメンバーの良さを引き出すことにもつながると考えている。

ステージで「いいね!」を披露するBABYMETAL

アイドルソングに「デスボイス」をミックス

「ド・キ・ド・キ☆モーニング」を披露するBABYMETAL。ガイコツの全身タイツを着たバンドメンバーはエアバンドだが、メタルらしい演出としてマーシャルアンプやツーバスドラムを設置している
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――そもそもBABYMETALのメンバーはどうやって選ばれたのか。

KOBAMETAL:BABYMETALは、さくら学院の重音部という位置付けだが、企画自体はメインボーカルのSU-METAL(中元すず香)が所属していた「可憐Girls」が09年に解散となった辺りから構想していた。

 SU-METALを中心としてメンバーを探したが、彼女が独特な存在感を持っているので、まったく別のキャラクターを加えるのがいいのではという結論に至った。そこで、SU-METALの周りを天使のような子たちが踊っているのはどうだろうと、YUIMETAL(水野由結)とMOAMETAL(菊地最愛)に参加してもらうことになった。

BABYMETALはアイドルソングにデスボイスやスクリーモを取り入れた試み、ブレイクダウンパートなどが話題になることが多いが、これらも彼女たちのポテンシャルがなければ成立しない。思い切ったことをしたいと楽曲や演出を考えても、それを体現するメンバーたちの歌唱力や身体能力、3人の絶妙なバランスが欠けていれば、うまくはいかなかっただろう。

――7月にリリースされた「ヘドバンギャー!!」では、メタルに造詣の深い「COALTAR OF THE DEEPERS」のNARASAKI氏が作曲を手掛けている。楽曲作りはどのように行っているのか。

KOBAMETAL:どの曲も、楽曲のコンセプトを先に立ててから作曲家に発注する。発注の段階では、コンセプトや歌詞の雰囲気、曲調、振り付け、ライブパフォーマンスと観客の反応までをすべて想定している。「ヘドバンギャー!!」では「ヘドバン(ヘッドバンギング)」をテーマに発注した。

 個人的なイメージとしては、ヴィジュアル系シーンへの愛情と「なんだこれは?」という“ストレンジ感”を同時に感じられるものにしたいと考えていた。そのため、歌詞にあえて「咲く」「ドセン」「逆ダイ」など、“バンギャ”と呼ばれるバンドファンの女性が使う用語を入れたり、「the GazettE」のファンのライブパフォーマンスである「土下座ヘドバン」をオマージュしたりしている。

「ヘドバンギャー!!」に限らず、作詞、作曲、ミックス、振り付けの方々とは、かなり綿密に話し合って作業を行っている。NARASAKI氏とも相当な回数のやりとりを繰り返し、「シンバルの位置をここにしたい」など、かなりの細かい部分まで相談させていただいた。

Bメロでは、アイドルファンの方でもノリやすいよう、いわゆるヲタ芸の「PPPF(パン・パパン・ヒュー)」をなぞったリズムを敷いている。ここも、アレンジの段階でNARASAKI氏と話し合い、ドラムをツーバスにしてメタルらしく仕上げてもらっている。

「ヘドバン養成コルセット」が付いた「ヘドバンギャー!!」の初回限定盤。目黒鹿鳴館でのリリースライブ「LEGEND~コルセット祭り~」への参加応募券が封入された
「ヘドバンギャー!!」の通常版はenhanced CD仕様で、ライブでの定番曲「BABYMETAL DEATH」が特典映像として収録されている

ツインテールを振り回す“カオス”

「LEGEND~コルセット祭り~」でのステージパフォーマンス
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――3人のメンバーには、楽曲の意図を細かく解説しているのか。

KOBAMETAL:本人たちのキャラクターを生かしたいと考えているので、制作サイドで考えたことを逐一、彼女たちに伝えることはあえてしていない。

 例えば、「ヘドバンギャー!!」では、SU-METALが今年15歳になることを強く意識して「バンギャ」をモチーフにしている。それを端的に示すのが「15(いちご)の夜」という歌詞だが、歌詞全体では、この世代特有の「後先をあまり考えずに突き進みたい」という感覚を、バンドに夢中になるバンギャの方々の姿に重ね合わせた。しかし、これらをすべてメンバーに説明しているわけではない。

メンバーたちの個性や自由なアイデアを大切にしたいとは、振り付け担当のMIKIKO氏ともよく話している。振り付けにしても、曲を聴いてメンバーが体を動かしながら練習している際に、「その動きが面白い」と取り入れることがある。「ヘドバンギャー!!」のサビでYUIMETALとMOAMETALがツインテールを両手で持って振り回す動きがあるが、これも彼女たちが練習でやっていた動作だ。

――メンバーにメタルを聴かせたり、知識を教えたりということもないのか。

KOBAMETAL:基本的にはない。以前、取材で「好きなメタルバンドを挙げてください」という質問があったのでいくつかバンド名を教えたことはあるが、自分たちでも調べているようだ。

 よく話題になるキツネサインも、もともとは彼女たちにメロイックサインを教えていたところ、影絵でキツネを作るように遊び始めたのを面白いと思って取り入れた。なんにせよ、本人たちは与えられた楽曲に触れながら「メタルとは何か」を自分たちで考え、新しいものを作り出そうと楽しんで取り組んでくれているようだ。

――キツネサインのように、BABYMETALは「メタル好きにはわかるオマージュ」も人気だが、ほかにどんなものがあるのか。

KOBAMETAL:来年1月にリリースされる「イジメ、ダメ、ゼッタイ」では、腕をクロスしてジャンプする「ダメ! ジャンプ」、イントロでYUIMETALとMOAMETALの2人が左右から交互に走り出す「ウォール・オブ・デス」を模した演出などが挙げられる。

 「ヘドバンギャー!!」の初回限定盤にコルセットを付けたのも、リリースイベントをメタルの聖地と呼ばれる目黒鹿鳴館というライブハウスで行ったのも、日本のメタルシーンへのオマージュだ。

――小さな演出もさることながら、ライブでは世界観を演出することも重要視しているように感じられる。

KOBAMETAL:今の主流のアイドルが日常の延長線上にあるのに対し、BABYMETALは「非日常感」の提供をとても大切にしている。そのため、ライブでもいかに日常を離れた空間、時間を演出するかを考えている。一例を挙げるなら、オープニングからエンディングまでをひとつのストーリーとして見せられるよう、MCをしなかったり、ムービーと楽曲、舞台美術をうまく組み合わせたりなどの工夫がある。

 ただ、ライブでの非日常感を大きく支えているのは、メンバーたちの発するエネルギーではないかと思う。それが観客にも伝わり、バンドのライブのようなモッシュやコールアンドレスポンスが起きているのではないか。

BABYMETALは「神が降臨してSU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALに変身する」というコンセプトなのだが、実際は本人たちもライブ中の記憶があまりないと話している。激しいパフォーマンスをしているのもあって、ランナーズハイのようなトランス状態になっているようだ。その熱量を受けて、ある意味、観客側が取りつかれてしまうような一体感が生まれているのではないか。

「LEGEND~コルセット祭り~」で「ヘドバンギャー!!」を披露するBABYMETAL。曲中では、SU-METAL(中)がマイクスタンドで客席を指し、「消・え・ろ!」と歌うパフォーマンスも。YUIMETAL、MOAMETALが掲げたキツネサインにも注目
メンバーに合わせて観客たちも両手でキツネサインを作り、腕を振り上げる

コアなファン層は20~40代男性

10月6日に渋谷O-EASTで行われた「I、D、Z~LEGEND“I”」で熱唱するSU-METAL。当日は、ライブでの定番曲でファンから音源化の要望も高かった「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のリリースの告知も(撮影/Taku Fujii)
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――いま、ライブの動員はどれぐらいあるのか。また、ファンはどのような層で構成されているのか。

KOBAMETAL:10月6日の渋谷O-EASTでは、2回公演で合計2600人が集まった。次のライブは赤坂BLITZだが、約1500人を収容する会場だ。BABYMETALのライブはオールスタンディングにこだわっている。この先どこまで広がって行くのか楽しみだ。

 実際にライブに足を運んで頂いている方々は、コア層が20~40代男性のアイドルファン。ただ、会場の雰囲気はさくら学院とは少し異なり、BABYMETALではバンドのライブのような一緒に盛り上がる一体感を求めている方が多いと感じる。

他は、サブカルチャーが好きな方、メタル好きな方もいる。最近は女性ファンが増えてきて、ヴィジュアル系バンドのファンの方や、ネット上では国内外の女性がBABYMETALのコスプレをして“踊ってみた”の動画を上げていたりもする。

――「ヘドバンギャー!!」以前には、2011年に「ド・キ・ド・キ☆モーニング」、2012年3月に「いいね!」がリリースされている。「ド・キ・ド・キ☆モーニング」は最もアイドル色の強い楽曲だ。

KOBAMETAL:「ド・キ・ド・キ☆モーニング」は、サビ部分だけならばアイドルソングとしても聴ける、もっともポップな曲だ。デビュー曲は、さくら学院のライブで初披露だったこともあり、あえてキャッチーな楽曲を選んだ。メタルファンからすればポップ過ぎて「メタルじゃなくね?」となるわけだが、それでいいと思っている。

 もともとBABYMETALの曲は、多くがマッシュアップ的な技法で作られている。集まってきた楽曲からAメロ、Bメロ、サビなどを別々に取り出してミックスするのだ。そのため、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」では作曲家が複数存在する。

2011年10月にライブ会場限定グッズとして販売された「ド・キ・ド・キ☆モーニング」ミュージックDVD付きタオル。数量限定だったが、好評につきライブ会場やECサイトでも販売されるようになった。音源は、iTunesでも入手できる

――アイドルの楽曲で、そこまで時間をかけて作られているケースは少ないのではないか。

KOBAMETAL:個人的には、同じように作っているという話は聞いたことがない。音源を作る際は、一人の作家がただ一曲作るというよりも、バンドがスタジオで各メンバーの意見を取り入れながら完成させていく感覚に近く、意識の面では少し違うかもしれない。ただ、一曲を作るのに時間がかかるため、曲数が少ないのも事実だ。

 「いいね!」は、スクリーモ・ピコリーモと呼ばれるジャンルに属するメタルサウンドを意識している。同様にマッシュアップで作られているため、デスメタル的要素や中盤のHIPHOP調の展開などが特徴的だ。

――「いいね!」は、京都発ヲタイリッシュ・デス・ポップ・バンドを名乗る「キバオブアキバ」とのスプリッドCDという形でリリースされた。その経緯は。

KOBAMETAL:まず、BABYMETALが「重音部RECORDS」というインディーズの体を取っているため、新人バンドや仲のいいバンド同士が一緒に音源を入れてスプリット盤を出すというインディーズ文化を取り入れたいと考えた。

 そこで、新しいバンドを探していたところ、出会ったのがキバオブアキバだ。メタル・バンドシーンからヲタク文化へアプローチするというスタンスにBABYMETALと似たものを感じ、何か面白いことができるのではと思った。

2012年3月に発売した、キバオブアキバとのスプリットCD。オリジナル曲「いいね!」のほか、キバオブアキバの「Animation With You」へのBABYMETALアンサーカバーソング「君とアニメが見たい~Answer for Animation With You」、キバオブアキバによる「ド・キ・ド・キ☆モーニング」のカバーも収録

正直、賛否両論。でもそれがチャンスに

メタルの聖地・目黒の鹿鳴館で行われた「LEGEND~コルセット祭り~」の様子。観客たちは「ヘドバン養成コルセット」を付けている
[画像のクリックで拡大表示] ――さまざまな角度からメタルを取り入れていることがわかったが、メタル好きからはどんな反応が寄せられているのか。

KOBAMETAL:極端に「賛」と「否」しかない。自分が過去にガチメタラーだったのでわかるのだが、本気でメタルが好きな人にとっては、BABYMETALは腹立たしい存在なのだと思う。もともとBABYMETALはオーセンティックなメタルをやりたかったわけではなく、新しいメタルのスタイルの提案という一面もあるので仕方のないことであり、そういった層に届くにはとても時間がかかるとは想定している。

他方で、メタル界隈でもキバオブアキバのように「新しいものを作りたい」と考えている人もおり、「面白いことをやっている」と感じて興味を持ってくれている方もいるようだ。

ただし、賛否両論なのが悪いとは思っていない。メタルシーンでは、新しいものが出てくれば批判されながらさまざまなジャンルが生み出されてきた。一般的に知られるメタルバンドのメタリカでさえ、最初は批判を浴びていたこともあった。90年代にSlipknotが出てきたときも同じだ。そのため、批判される対象であればあるほど、実は可能性があるのではないかと思っているし、アイドルやメタルの枠に収まりきらない“ストレンジ感”は、常に大切にしている。

――「ド・キ・ド・キ☆モーニング」は2011年10月にYouTubeで公開されてから現在までで、再生回数が108万回を突破している。海外からのコメントも多いようだが、海外マーケットは最初から視野に入れていたのか。

KOBAMETAL:面白がってもらえるかなという予感はあったが、まさかここまで注目が集まるとは予想だにしていなかった。

ビデオは低予算で制作したため、演奏しているのもすべてスタッフだ。そのため、この結果にはとても驚いている。とはいえ、コメント欄も賛否両論といったところだ。

――海外では、どんな地域からの声が多いのか。今後は、海外での活動も予定されているのか。

KOBAMETAL:メタル文化が盛んな北欧、アメリカを中心に、東南アジアやヨーロッパにも広がりを見せている。今年はアメリカのフェスからオファーがあったが、予定が合わずに出演できなかったため、今後は力を入れていきたい。

メンバーたちも、海外の方々がYouTubeで自分たちを観て、応援したりメッセージをくれたりしていることに感激しており、国外のファンの前でもパフォーマンスをしたいと望んでいる。

YouTubeでダンスカバー動画をアップロードしている人には海外の方も多い。Facebookページでも「いいね!」ボタンを押している人の8~9割が海外の方で、国籍も多岐にわたる。おそらくBABYMETALはヴィジュアル系やアイドル、初音ミク、アニメのような「日本独自のエンターテインメント」として受け入れられているのだろう。

「I、D、Z~LEGEND“I”」のアンコールでは「メタルの神々」が召喚され、初めての生バンド演奏が披露された。

 

既存アイドルの“二番煎じ”にはならない

8月19日、「SUMMER SONIC 2012」に出演したBABYMETAL。サマソニ史上最年少初出演を記録した

――国内に話を戻すと、8月に最年少グループとして出演したサマーソニックでは、アイドルファン以外のリスナーがTwitterなどで大いに反応していた。突然の出演が決定した経緯は。

KOBAMETAL:主催者サイドはBABYMETALをとても画期的な存在だと評価してくれており、出演のお話は早い段階でいただいていた。

 日程がさくら学院のイベントと重なっていたため調整は難しかったのだが、7月21日の目黒鹿鳴館のライブを見に来た担当者から「どこかのタイミングで調整できないか」という話を再度いただき、「さくら学院のイベントが終わった後で、リハなしでもよければ」と、急遽出演するに至った。

音楽業界にはBABYMETALに興味を持ってくださる方が多い。先日も、ヴィジュアル系バンドのメンバーの方々がTwitterで「ヘドバンギャー!!」とつぶやいていらしたのだが、それを見たファンの女性たちがネット検索をしてBABYMETALにたどり着くという認知のされ方もしているようだ。

――YouTube、Facebook、Twitterと、SNSを通じて伝播していくのは最近のアイドルシーンでよくある光景だが、アイドルファンとは違う層へ届くのは珍しい例だ。ほかに、リスナーを見ていて気づくことはあるか。

KOBAMETAL:今、アイドルファンと呼ばれる人たちのなかには、もともとバンドのライブに足を運んでいた人、バンドもアイドルも好きという人たちが増えているように感じる。メタリカやラスベガスのバンドTシャツを着て、BABYMETALのライブに来ているファンもいるほどだ。

 アイドル戦国時代と呼ばれる今、多くのアイドルがアイデアをひねりながらオリジナリティを追求している。昔バンドシーンでさまざまなバンドが競って出てきたときの、何かが起こりそうなワクワク感が、おそらく今のアイドルシーンにあるのではないだろうか。

最近、バンドシーンは非常識を常識に変えてしまうような熱量に少し欠けていて、いろいろな意味での優等生が多くなってしまっている。音楽業界の方々ともよく話すが、80~90年代にインディーズのバンドブームがじわじわ来ていた頃の「何かわからないけど、盛り上がっている」という熱量をアイドルシーンに感じている人が多いのも納得できる。BABYMETALのライブ会場でも実感しているし、自分も含めバンドブームのころにバンドにかかわっていた人が、今はアイドルにかかわっていることも増えてきた。

――ある意味、アイドルが音楽シーンに変革をもたらす存在であるのかもしれない。その中で、BABYMETALは今後、どういった展開をしようと考えているのか。

KOBAMETAL:軸がぶれないように、このまま突き進むしかない。最初は尖ったことをやっていても、注目が集まると大人の事情で丸くなってしまうことは往々にしてあるが、本格的なメタルサウンドに合わせて3人のメンバーが歌って踊るというBABYMETALの基本的な路線を崩さずに行くべきだと考えている。

 Perfumeは安室奈美恵やSPEEDなどのR&Bダンスミュージック全盛期に、シーンの片隅でテクノポップアイドルとして活動し続けていた印象がある。個人的な視点ではあるが、今の地位を獲得するまでには紆余曲折あったものの、時流に乗らなかったがゆえに、自分たちで次の時代を引っ張ってきたと感じている。

BABYMETALがどこまで売れるかは正直なところ未知数だが、既存のアイドルをマーケティングした結果にのっとって展開したところで、二番煎じにしかならない。それならば、いちかばちかという方向性を突き進む方が面白い。メンバーが持っているアイドルとしてのポテンシャル、スタッフの持つメタルへの愛情、それに“ストレンジ感”をプラスしたアイデア……。こういったものから新しいスタイルが生まれ、他には作れない「オンリーワン」の存在になればいいと思っている。

KOBAMETAL氏へのインタビューは2時間に及んだ

――SU-METALこと中元すず香は、2013年の3月でさくら学院を卒業することになるが、その後BABYMETALはどうなるのか。

KOBAMETAL:今は言えないが、BABYMETALがどうなって行くのかは10月に始まった『I、D、Z~LEGEND』シリーズのライブで明かされていく予定だ。どちらにせよ、BABYMETALの活動がメンバーにとって、将来的に見て良い経験になればと願っている。

 BABYMETALでは一つひとつのライブに丁寧に向き合い、小さなムーブメントを大きなムーブメントに変えていければいいと考えている。そして音楽業界の刺激物となり、「昔のメタルTシャツを引っ張り出してきました」「BABYMETALをきっかけにメタルを聴くようになりました」という人が、少しでも増えればうれしい。

 

(文・構成/有馬ゆえ、写真/古立康三)