BABYMETAL 海外 レディングフェス’15 ライブレポート

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1.

――人間は、時として、充たされるか充たされないか、
わからない欲望のために、一生を捧げてしまう。
その愚を笑う者は、畢竟、人生に対する路傍の人にすぎない。

 

昔読んだ小説の中にそんな一文が載っていたのを記憶している。
ふとそれを回想してしまったのは、遠い異国の地まで遥々旅をしているから――なのかもしれない。
むろん僕の場合は、もう2年以上も、ずっと抱え込んでいる、はっきりとした唯一の欲望であり、
そして確実に充たされると知っているからこうやって海外にまで足を運んでいるのだけれど、
それを羨望する者はいても、果たして、愚と表して笑う者がいるだろうか。否、皆無だろう。
なぜならそれだけの価値があると、彼女たちの真の姿を知る人たちはみな心底認めているからだ。

 

今から約1200年前、大陸からサクソン人が移住して出来た町――、レディング。
テムズ川上流30kmほどのオックスフォードを含めたテムズ・バレー地域の中心地。
ロンドンから西方約60kmに位置し、高速列車InterCityで30分ほどの距離。
古くからロンドンの衛星都市として機能している街である。

 

 

 

レディング駅から徒歩10分ほどの中心街は、歩行者専用の道路を軸に賑やかな商店が立ち並び、
ベイクドポテト片手に100年前のヴィクトリア朝の建設群を眺めながらしばし散策すれば、
タイムトリップの錯覚を幾らか覚えると共に必然的にここが異国であることを実感することができる。
そして行きかう人々に意識がいったとき、その実感はより顕著となる。

 

長髪のちりちりカーリーヘアの男性や、くしゃっとした笑顔の女性を見かけると、
「ああ、あの人はMarc Bolanみたいだ。あの人はJanis Lyn Joplinそのものじゃないか」
などと勝手に想起してしまうのは、UKがROCK発祥の国だという思いによるからなのだろうか。
それとも、憧憬や畏敬といった内なる感情から引き起こされるからなのだろうか。
おそらくは両方なのだろうが、アングロ・サクソンを起源に持つイングランド人を見るにつけ
そういったイメージを抱いてしまうのは我ながら野暮ったい思いがするのだが、
しかしこれも旅の一つの楽しみ方であると見方を変えればそれだけで随分愉しい気分になる。

 

 

※ショートムービー

 

テムズ川の流域には、のどかな田園風景や広大な芝地帯があちこちに広がっていて、
久方ぶりに故郷の土を踏んだ時のような懐かしさに溶かしてくれ、ふと郷愁を覚える。
また同時に、大いなる安らぎと一味の慰安を心に与えてくれるから、
自然と高揚してしまいがちな気分を幾ばくか、温かく、ゆっくり、鎮めてくれる。
田舎の風情に目を凝らしてふたたび、僕は汚れなき人間本来の感情に生きることができるようだ。

 

 

 

駅からフェス会場までわかりやすい標識が続いているので歩いて向かうことにする。
キャパ―ジャム・ロードを悠々と歩き、リッチフィールド・アベニューへ折れる。
茫々たる大自然に囲まれた川沿いの道をそのまま進む。
やがてDAY TICKETSのENTRANCEが視界に入る。
最後尾に並び、ふと周りを見回すと、BABYMETAL TEEを来た現地の人を数名見かけた。
自然と心躍らずにはいられない。

 

Glastonbury Festivalに次いでイギリスで二番目に有名な音楽フェスティバル。
それが「Reading and Leeds Festivals」。
このフェスを模して作られたSUMMER SONICを半月前に観たというのは実に感慨深いのだが、
それは随分と昔のことだったように思える。長旅の影響なのだろう。
ちなみに1997年から開催されている日本最大規模の野外音楽イベントFUJI ROCKが
Glastonbury Festivalをモチーフとしていることは知る人ぞ知るとろこである。

 

「Reading and Leeds Festivals」に出演するということは、
世界中のミュージシャンたちにとってとても誇るべきことで、
それ自体が充分にステータスに成り得るのだけれど、
BABYMETALがこのフェスに出演する旨の発表があった際は、大変喜ばしい反面、
これでまた遠い存在になるなと一抹の寂しさも感じた次第だった。
けれどすぐに、ならばまた近い存在に感じられるようにすればいいではないかと渡英を決断した。
昨年のWorld Tourを観に行かなかった後悔がずっと心の奥底で燻っていて、
それも僕を反射的な行動に掻き立てた一因となった。
そして今になってようやく、イギリスまでやってきたことを強烈に実感し始めている。
なぜなら大勢の英国人の中に日本人が少し混じっている光景を客観視できるようになったからだ。

 

やがて列は進み、まずはチケットとリストバンドの交換を終える。
プログラムガイドを購入した際、売り子の男性が「BABYMETAL」と言ってキツネサインを掲げる。
はにかみながら僕は、キャンプエリアを通り、その先の入場口まで歩を進める。
スタッフが開場を待つ人々を少しでも愉しませようと簡単な余興を始める。

 

 

 

時刻は午前10時半。
果たして30分ほど前倒しで開場となった。
あまりにも押し寄せる人が多かったからだろう。
荷物検査を行い、逸る気持ちを抑えながらいざフィールド内へと入る。
会場を一目見た印象はとにかく「でかい」の一言だった。
視界を覆う巨大なメインステージに向かう歩みは軽やかだ。
猛ダッシュでメインステージへ笑顔で走る欧州人、日本人メイトの姿を眺めていると、
抑えきれない興奮に背中を押されて僕の足取りも自然と速度を増していったのだった。

 

 

 

 

2.

 

フェス、単独に限らず、日本でBABYMETALのライブを観た後は決まって夢見心地となっていた。
実際に目にしたはずなのに、気分が高揚しているからまるで夢を見ていたような錯覚に陥る。
いつだってそうだった。
だから僕は、大脳新皮質へ長期の記憶の信号を確実に送るべく、
しっかりとこの目に焼き付けられる場所は果たしてどこかと瞬時に思案し、
結果、ステージから30~40Mほど離れた第2ブロックの最前中央に位置を得た。
ここであれば正面のステージまで障害物はないし、どうにか肉眼で表情も確認できる。
2つのピットエリアの様子も具に観察できるから自分としては最適な場所のように思えた。

 

その最適と思えた場所が最高の場所となったのはそれからすぐのことだった。
それは隣のイギリス人男性がセキュリティスタッフと柵越しに会話を交わしていたことが発端だ。

 

男性はスタッフに、これからステージに立つBABYMETALについて話をしていたのだけれど、
そこまで詳しくはないのか、何度か僕に訊ねながらスタッフに説明をしていたのだった。
しかし途中から、真後ろにいた女性が身を乗り出してきて、
僕が口を開くよりも先にイギリス人男性に答えるようになった。
しかも彼女はBABYMETALについて大変詳しく、BABYMETALの話をするのが楽しくて
仕方がないといった無邪気な笑みを覗かせたまま矢継ぎ早に話し続けたのだった。

 

箍が外れたように満面の笑みで話し続ける彼女の美しい横顔を眺めながら、
僕は、彼女の説明がひと段落するたびに「That’s right!」と言葉を挟み、
彼女の博識ぶりを間接的に褒め称えた。
それから、僕とイギリス人男性は瞬刻目配せしたのち2人の間に空間を作り、
揃ってどうぞと彼女をそこへ招き入れた。
彼女が可愛らしい声で感謝の言葉を述べる。
正面から見るととても美しくて笑顔がチャーミングな女性だった。名をエミリーという。

 

こうして僕は、美女と肩を寄せてBABYMETALを観るという、
まったく予期などしていなかった、降って沸いた幸運に恵まれることとなった。

 

 

 

ステージでは開演の準備が着々と進んでいた。
バックドロップが掲げられるとそれだけで胸が熱くなった。
「Road of Resistance」の3つの旗も用意される。
風にはためく3つのフラッグがとても格好よく感じられる。

 

気分のバロメーターがプラスの方へ針を振ったのを認識しながら周囲に目を向ける。
開始20分前になる頃には2つのピットエリアは完全に埋まり、
僕のいる2つ目のブロックも半分ほど埋まっている状態となった。
年齢層は今日も幅広く、熟年の方から幼い女の子までいる。
それにしてもBABYMETAL TEEを着た人たちが随分多い。

 

開演時間はまもなくだ。
それに合わせるように人々が続々と集まってきている。
BABYMETALはメインステージのトップを飾るオープニングアクト。
ラウドながらその洗練された音楽スタイルは、
観客たちに一体どういった情動を引き起こすのか。
ヘッドライナーがMETALLICAの今日のフェス。
歴史と伝統が息づいたレディングの地で、
BABYMETALは一体どんな反応を受けるのか。

 

まったく不安がないといえば嘘になるけど、
METAL HAMMERのGOLDEN GODS AWARDでDragonForceと2曲共演した以外では
今年はまだイギリスでライブを行っていないから、
今日はイギリス人メイトたちが大挙として押し寄せている状況だ。
だから昨年の、現地メイトが少なかったSonisphere以上の熱気に包まれるだろうと踏んでいる。
頬笑を周囲に悟られないように注意を払いながら、僕は刮目してその時が来るのを待った。

 

 

 

 

3.

以下セトリ

01  BABYMETAL DEATH
02  メギツネ
03  Road of Resistance
04  ギミチョコ!!
05  イジメ、ダメ、ゼッタイ

 

オープニングムービーがビジョンに流れ始めると、2つのピットエリアから大きな歓声が上がった。
神バンドがステージに揃うとさらなる歓声が沸く。
頭骨に響く凶悪な「BABYMETAL DEATH」のリフが早速会場にインパクトを与える。
それにしてもピットエリアの熱狂具合はどうだ。視界の両端がずっと揺れている。
始まった直後から、多くの人が絶叫しながらキツネサインを掲げている。
その中には日本人だけではなく現地メイトの数も多数含まれている。

 

ステージ中央では3人が所定の位置に鎮座している。
目を引く真っ赤なチュチュ。同じく漆黒の美髪に映える大きな赤いリボン。
不意に3人の姿が順番に大きくビジョンに映し出される。
3人とも気合がこもったとても良い表情をしている。

 

音のバランスはどうだろう? 僕はすぐさま確認する。
ヴォーカルはまだわからないが、それ以外の全体のバランスは良いように思える。
音圧はさほどでもないが、これだけの音響であれば大丈夫と納得できる範疇だった。

 

2つのピットエリアの真ん中よりも前は全員が両手を上げている。
僕はエミリーと一緒に「DEATH! DEATH!」と声を張って手を上げるが、
周りのほとんどの人はアクションは起こさずステージをじっと見ているようだった。
2ブロック目にいた人たちの割合の多くは初見の人だったのかもしれない。

 

曲が中盤のギターソロに差し掛かると、ピットエリアのモッシュは激しさを増していった。
人々がうごめく様子が具に観察できる。
その光景を目の端で捉えたまま、僕はステージと左右のビジョンに忙しなく視線を送る。
アップで映し出される彼女たちの表情に笑顔はまだない。
この曲はこう魅せるんだという理解の下、演者に徹している顔つきだった。

 

しかし終盤の、「DEATH! DEATH!」と連呼するところに差し掛かると、
若干ではあるが、三者三様、時折笑みを覗かせるようになった。
その活き活きとした表情からは、
この日が来るのをずっと楽しみに待っていたという思いが滲み出ていた。

 

前方では歓声、僕の周辺ではざわつき、
その2つの余韻を残しながら2曲目の「メギツネ」がスタートした。
そこで途端に元気になったのは隣のエミリーだった。
彼女はこの曲が大好きなようで、イントロから既にハイテンションとなっていた。

 

前方の2つのエリアがきれいにシンクロしている。
掛け声の「ソレッ! ソレッ!」と同時に、左右とも無数の手が上がっている。
見事なまでの一体感だった。
僕も負けじと手を上げジャンプし、ビートに合わせてヘドバンを繰り出した。

 

3人がステージ上で渾身のパフォーマンスを披露する。
凛とした佇まい、一転して屈託のない笑み、所狭しと躍動する肢体、一挙一動に漂う気品――。
大勢のイングランド人の目を驚かすべく、彼女たちは大和撫子の美を遺憾なく具えている。
フロントマンとしての責任を果たすだけではなく、日本の女性をシンボライズしている。

 

ふと横に意識がいったのはまだ曲の序盤だった。
なんとエミリーが、「メギツネ」の全歌詞を唄っていたのだ。
しかもかなりうまい。相当に唄い込んでいるのだろう。
僕は途中でヘドバンを止めると、しばらく耳を傾けてから
彼女に「Perfect!」と言ってサムズアップサインを送った。

 

エミリーがうふふと恥らいながら笑う。
日本語の歌を日本人に褒められたことが大層嬉しかったようだ。
僕は彼女の歌声をしっかりと左耳で聞きながらヘドバンを再開した。
やはり「メギツネ」のビート(エミリーの歌声も微かに混じっている)はいつだって心地良い。

 

続く曲は「Road of Resistance」。
3人がフラッグを持って悠然と佇む。
その姿はあまりにも凛々しい。
フラッグを横に広げるシーンで、僕も同じタイミングでマントタオルのロゴを掲げる。
一瞬でもいいから視界の隅で捉えてくれると嬉しいのだが、
彼女たちの視線の先は遥か彼方に伸びているのでおそらく目に留まってはいないだろう。

 

SU-METALが煽るポーズをするよりも先に大きなWall of Deathコールが起こる。
この曲は観客たちが前もってどういったリアクションを取ればいいのかわかっているほど
鉄板になりつつある。
「1! 2! 3! 4!」を合図に、左右のピットエリアで同時に起こるWall of Death
それに参加した者たちは狂ったように体をぶつけ合っている。
その熱狂はすぐ後方の僕がいるブロックにも次第に波及していった。

 

これは「メギツネ」の中盤から感じていたのだが、どうにも辛抱できなくなってきたのか、
僕の周りの観客たちも徐々に大きく体を揺らし始めると、
前方エリアの観客たちに倣い、次第に手も上げるようになっていった。
そして「Road of Resistance」の狂ったビート、3人の切れ味鋭いダンス、
眼前のWODを目の当たりにして、さらにエネルギッシュに体を動かし始めたのだった。
後方の奥の様子まではわからないが、少なくとも僕がいるエリアでは
熱気がぐんぐん上昇していくのを肌で感じ取ることができた。

 

「Road of Resistance」のsing-alongでは、かなりの聴衆が拳を掲げていた。
昂然と胸を張り、片手を天に向けて何度も伸ばす3人。
その煽りに呼応し、視界に映る観客たちも大きく拳を突き上げている。
曇りがかったイギリスの空の下、音のない波のようにゆらゆらと大量の腕が揺れている。

 

 

 

「メギツネ」、「Road of Resistance」と、SU-METALの声の調子はすこぶる良い。
全体の音に埋もれることなく、しっかり聞き取れられる音量だ、申し分ない。

 

しかし、それにしてもSU-METALの声はよく通る。
人々の心の奥にまで深く染み透る。
そして聴く者の心を震わせていく。
血を滾らせ、魂までをも揺さぶっていく。

 

もし仮にSU-METALが弁士だとして大観衆の前で演説をすれば、
伝説のセヴァン・カリス・スズキのそれにも負けないほどの能力を発揮するかもしれない。
聴衆は最初から最後まで彼女の言葉に耳を傾けずにはいられないだろう。
それほどSU-METALの澄んだ“声質”は傑出していて、人々は魅了されずにはいられない。
日本語がわからない現地の多くの人たちが、
彼女の歌声を聞き逃すまいと懸命に耳をそばたてている様子がなによりの証拠だ。
彼女の張りのある歌声には有無を言わせない説得力がある。

 

曲が終盤に差し掛かる。
僕は瞳を凝らしてステージを見つめる。
するとある瞬間、僕の中で何かが音を立てて弾けた。
それは無意識に抑制していた熱い思いの塊だった。

 

しっかりと目に焼きつけるため、どうも気づかない間に、いつもより冷静でいようとしていたようだ。
僕は我慢ならなくなって両拳を真っ直ぐに突き上げる。

 

嗚呼、なんて素晴らしき瞬間だろう。
手作りだろうか、日の丸とBABYMETALのロゴが合わさったような大きなフラッグを持ち、
肩車されてぐるぐると回っている日本人女性の姿を視界の端で捉える。
その周りをまわり続ける人たちの顔には笑みが絶えず溢れている。
その光景を眺めていると、なんともいえないフワフワした感情に身が包まれていった。
このまま昇天したっていいよな、そんな風に思えるほど、すべてが心地良かった。
僕は大きく息を吸い込むと、うっとりとした眼差しで会場全体に視線を這わせた。
立ちくらみのような感覚を覚えたのはその直後だった。

 

あ、ヤバい。瞬時に目を閉じる。呼吸を整える。心を落ち着かせようとする。
視界を遮断したからなのか、感覚がより研ぎ澄まされていく。
サビを唄うSU-METALの声が聞こえる。とてもクリアだ。いつまでも聞き続けていたい。
が、次の瞬間、僕は激しい眩暈に襲われ、一瞬だけ意識を失う。
瞼の裏の残像がごろりと大きく反転する。

 

闇かと思ったら地面だった。
僕はその場にしゃがみ込んでいた。
エミリーの心配する声が降ってくる。
頭上を怒号のような歓声が飛び交っている。
「Road of Resistance」の圧倒的なパワーとスピードに度肝を抜かれ、
ただただ呆然と眺めることしかできなかった初見の観客たちが、
曲が終わるや大絶賛の歓喜の声を上げたのだろう。
僕は少しずつ目を開けながらゆっくり体を起こす。
ステージ上では次曲「ギミチョコ!!」が始まっていた。

 

興奮によるものだったのか。
それともいつものアレだったのか。
原因はわからないが、先ほどの激しい眩暈の感覚はいつの間にやら消え去っていた。
もしかしたら溜まっていた旅の疲れがたまたまこのタイミングでどっと溢れ出たのかもしれない。

 

 

 

中毒性の高い「ギミチョコ!!」の独特のリフに頭を揺らしながらふとビジョンに視線を移すと、
そこには、相変わらずの高い表現力で観客を魅了するMOAMETALの姿があった。

 

BABYMETALってどの世代にも通じる――、どのジャンルにも伝わるものなんだなって
思えたことがすごくうれしかったと語ったMOAMETAL。

 

彼女はいつだってすべてを知っているかのようだ。
本当にこれが16歳の女の子によるダンスなのかと呆れたような視線が向けられていることも、
右隣のイギリス人青年が、まるで往年の名女優のような豊かな表現力に驚く様をも、
彼女は最初から知っているかのように、普段のライブと変わらずに華麗にステップを踏んでいる。
長髪を後ろで結び、両腕にタトゥーを入れた体躯のいい生粋のメタラーの顔のどこかに、
一瞬無邪気な驚嘆の色が飛来したのさえ、彼女は知っているかのように振る舞う。
多くの目が自分に向けられていることを悟りながら、ちらりと頬に微笑の影を浮かべては躍動する。
踊りながら蜘蛛手にレスを返しつつ、それでいてカウントを外さない余裕は常に持ち合わせている。
崇高なるプロ意識の成せる業なのか、私は可能な限り多くの人を楽しませて笑顔にさせるんだ、
彼女が見せる無数の表情からは、彼女のそういった真摯でブレない思いが真っ直ぐ伝わってくる。

 

 

 

今度はちらりとYUIMETALのアップがビジョンに映る。
「BABYMETAL DEATH」の時のシリアスな表情とは打って変わり、
そこには、見る者を一瞬にしてだらしない表情に変えてしまう、
幼さを十分に残したあどけない純粋無垢な笑顔があった。

 

某番組でSLAYERを引合いに出し、自分も本当にライブの意識がなくなるくらい
YUIMETALって存在になりきろうと学んだと語ったYUIMETAL。

 

確かに彼女の表現力は、特に今年に入ってからかなり飛躍していると感じる。
おそらくそれは本人の身体的な成長にも起因しているのだろう。
凛々しい表情や勇ましい表情は、その童顔ゆえに、これまであまり目立ってはいなかった。
だけどしかし、いくら彼女がYUIMETALになりきってどんな表情を作ろうとも、
あの天使のような無邪気な笑みを一瞬でも見せられようものなら、
脳天に雷が直撃したような感覚を覚えるとともに、それまでの格好良かった彼女の面影が
すべて一瞬で記憶から消え去ってしまうのだからおそろしい。
ある意味、本人がなりきろうと思わなくても、YUIMETALはYUIMETALであり続ける。

 

 

 

それにしても、「ギミチョコ!!」の破壊力は今回もやはり凄まじかった。
隣のエミリーも大好きなようで、曲中彼女はずっとはしゃぎながら唄って踊っていた。
周りの観客たちもすっかりできあがった状態だった。
言わずもがな、ピットエリアでは激しいモッシュが乱発していた。

 

明鏡止水の心境でステージを見守る。
無我無心の小児となって刮目する。
思考の概念そのものが遮断されてゆく。
感慨無量の境地となり、熱涙に咽ぶ。

 

 

 

最後の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」が始まる頃には、
僕は涙を堪えるのが難しい状態となっていた。
唇を結んでじっと見続けようとするが、熱狂する観客たちの姿が感動を呼び起こし、
どうにも平静でいられなくなるように仕向けてくる。
時折ビジョンに映る、遥か後方までぎっしりと埋まった観客の絵も、ダメを押してくる。
僕は、視界の左右の端で捉えている、大きな2つのサークルは直視せず、
SU-METALの咆哮する瞬間を息を潜めて待ち続けた。
そして彼女の叫びに合わせて走り出す2人に交互に視線を送った。

 

YUIMETALが左から右へ全力で駆け抜けていく。

「おおおおおーっ! YUIMETAL!」

 

今度はMOAMETALが左から右へ走っていく。

「いけいけーっ! MOAMETAL!」

 

「Reading and Leeds Festivals 2015」に臨むにあたり、
今までいろんなところで培ってきたパワーを最大限に発揮できればと語ったSU-METAL。
その有言実行のステージを、僕は今、涙を堪えながら眺めている。

 

「本当に感極まった人間の顔というのは、この世に生を受けた瞬間の赤子に似ている」

 

横山秀夫の著書「半落ち」の最後にそういった記述がある。
おそらく自分の顔を今、鏡で見たとしたら、そこでは、
長旅で疲弊した、文字どおりくたびれた中年男性が、
赤子というより子猿を思わせるようなしわくちゃの醜い泣き面を晒していることだろう。

 

視界を埋め尽くすダメジャンプ。心に響くSU-METALの歌唱。
YUIMETALとMOAMETALの迫力あるバトルシーン。
五臓六腑を下から突き上げていくツインギター。
3人の凛々しい真剣な表情。親指を重ね合わせる姿。
ぐるぐると笑顔で回り続ける観客たち。怒号のような大歓声。
サビに向けて次第に大きくなっていく手拍子。

 

すべての瞬間瞬間に大きく感情が揺さぶられる。
確かにこれを見るためにここに来たのだし、もちろん望んでいた最良の結果ではあるけれど、
ああ、なんてことだ、僕はとんでもないものを目の当たりにしてしまった!
その思いに駆られた刹那、全身にぞわぞわと鳥肌が立ち、口元がわなわなと震えた。
何か恐ろしいものでも目撃した時のような戦慄をも覚える。
歴史の瞬間を目の当たりにしたとき、どうも人間は興奮とともに畏怖の念も抱くようだ。

 

 

 

万雷の拍手と大歓声の中すべての曲が終了した。
あっという間の30分だった。
彼女たちが満足げな笑みを浮かべて「WE ARE」と叫び、
大観衆が笑顔で一斉に応じる。「BABYMETAL!」
そして「3! 2! 1!」で締めてもまだ続きがある。
「Listen、listen、listen!」
聞こえてきたのは高揚を抑えきれないSU-METALの甲高い声だった。

 

ウェンブリー・アリーナでのライブの告知が3人から発表されると、
観客たちの間からひときわ大きな歓声とどよめきがあがった。
隣のイギリス人男性の、「ワオ、マジかよ、すげえな」といったような表情が今でも忘れられない。

 

 

 

3人がステージの袖にはけても観客たちはすぐには動こうとはしない。
神バンドが去ってもなお、前方では大量の「We Want More!」コールが発生している。
やはりメイトたちにとっては5曲では物足りなかったのだろう。
まだまだ観たい。まだまだ騒ぎたい。
いつまでも夢から醒めたくないといった思いで声を張っているように感じられた。

 

こうして、彼女たちのライブは、オープニングアクトとしては異例ともいえる
多くの観客を動員し、大盛況ののちに幕を閉じた。
たったの5曲だったとはいえ、神バンドの演奏も含め、
彼女たちのステージングは今日も完璧だった。
尺が短い分内容が濃かったので、かなりのインパクトを残す結果となった。

 

 

 

 

4.

BABYMETALの魅力を語るには千言万語のことばでは足りず、かといって警句を吐くことは難しい。
MHのアレックスが言うように、結局はライブを実際に生で観るしか理解する方法はないのだろう。
そしてBABYMETALを観るのが初めてだった今日の観客の多くは、
BABYMETALの魅力がどういうものなのかを間違いなく肌で感じたことだろう。
そして彼らは、まだBABYMETALを観たことがない人たちに対して、おそらくこう言うんだ。
「BABYMETALは言葉ではうまく説明できないから一度ライブを観に行くことをお勧めするよ」と。

 

不意に肩を叩かれ振り返ると、満面の笑みを見せるエミリーがいた。
彼女は胸の前で手を握り、今日のBABYMETALのライブがいかに素晴らしかったかを話し出した。
凄かったわ。最高だったわ。もう死にそうよ。
単語だけを拾っていくと、23年、もとい24年メタラーさんを思い出してしまうのだけれど、
率直な感想なのだろう、彼女の瞳は少し濡れていて感激に浸っている様子だった。

 

しかしそんな彼女が突然、真面目な顔つきになった。
かと思うと、何やら僕に訊ねてきた。
すべてはわからなかったが、「メギツネ」「What」「mean」といった単語は聴き取ることができた。
どうやら彼女は「メギツネ」の意味を求めているようだった。

 

あれだけうまく唄っていたのに、その曲のタイトルの意味は知らなかったのか。
ふつうは歌詞の内容よりも真っ先にタイトルの意味を調べるはずなのに。

 

釈然としなかった僕は彼女の様子をしばし観察するのだけれど、
本当に意味はわかっていないようで、彼女は可愛らしくも見える困惑顔を崩さずにいる。
僕は「OK」と言って人差し指を立てると彼女にその意味を教えてあげることにした。
不意に出来心が顔を覗かせたのはその直後のことだった。

 

英語だとそれは「a female fox」。
すぐにそう答えてもよかった。
しかし僕は、別の意味で何か最適な言葉はないかと考えた。
不意に「メギツネ」の曲が頭の中で流れ出す。
少ししてから思いついたのは以下のような言葉だった。

 

「メギツネは、日本では芯が強くて美しい女性のことをいいます。そう、あなたのように」

 

これを流暢な英語で話すことができたならどんなに素晴らしかっただろう。
ジュード・ロウやオーランド・ブルームのように、大人の男の色香を漂わせつつ、
甘いイントネーションで優しく伝えることができたならどんなに素敵なことだっただろう。

 

しかし当然ながら、僕にはそんな大層な語学力も甲斐性もなく、
ましてやそれを実演するための素材そのものを持ち合わせているはずもなかった。
そもそもくたびれた中年男が若い女性にそんな言葉を発すること自体が罪である。

 

それでもせっかく思いついたのだからと、僕は知り得る英単語を駆使して、
無謀にも彼女にそのオリジナルの意味を伝えてみた。
すると彼女は、僕が洒落の効いた答えを言おうとしていることはわかったようで、
途中から我が子を見守る母親のような優しい眼差しで僕を見るようになった。
そして僕が最後に「like you」と付け加えると、わかったわといったように小さく首肯し、
それから、相手に失礼がない程度の愛想笑いを作って見せた。
間違いなく根は優しい女性なのだろう、彼女は笑みを湛えたまま最後に「Thank you」と言った。

 

ややあって、ピットエリアにいた彼女の連れがこちらにやってきたので、
僕はその彼女の連れにすぐに自分が居た場所を譲ってあげた。
どこかで少し休憩したい気持ちがあったからだ。
エミリーとの楽しかった時間はこれにて終了。
一緒に写真を取ることを申し出なかったのが唯一の心残りだが、彼女の屈託のない笑みは、
今日の素晴らしかったBABYMETALのライブの思い出とともにそっと胸の中にしまっておく。

 

 

 

エミリーと別れた後、かなり後方まで下がり、僕は芝生の上に腰を下ろす。
僕の周りをたくさんの人が笑顔で行き来する。
その位置に腰を落ち付けたままメインステージに視線を向ける。
サマソニで観るのを見送ったMarmozetsMODESTEPを遠巻きに続けて鑑賞する。

 

本当にロックが大好きな人間が集まっているんだろうな。
賑やかな周りの風景を眺めながら僕は小さく吐息をつく。
小さな子供から血気盛んな若者から老人まで……。
大観衆が集まって騒ぐ一体感と心地良さは、日本のフェスではあまり体験できない現象だ。
BABYMETALから少し意識が離れると同時に、僕は本場の音楽フェスを骨の髄まで体感した。

 

少し体力が回復したので立ち上がると、僕はビッグサイズのホットドッグ片手に、
それから幾つかのステージを順番に見て回った。
CROSA ROCASPECTERDMA’SBARONESSなどを観て回る。
その後、トリの3つのバンドを観るためにメインステージに戻る。
今はその1つ前のALEXISONFIREがライブを行っている。

 

メインステージのラスト3組は予想を超えた盛り上がりだった。
BABYMETALの次に楽しみしていたRoyal Bloodがライブを始めると
一気に観客の数が膨れ上がった。
僕が観ていた位置は、BABYMETALを観に来ていた観客の最後方のあたりだったけど、
その僕がいる位置よりもずっと後方まで観客がずっしりと入っている。
さすがは正統派ブリティッシュ・ロックを継承している2人。
そういえば彼らの人気に火がついたのは奇しくも2年前のReading and Leeds Festivalsだった。
彼らの独特の音楽性と人気の高さ、強靭なロック・グルーヴ、
そしてマイク・カーの卓越した演奏力をまざまざと見せつけられた。

 

次のメタルコアバンド、Bring Me the Horizonは、ショーの完成度の高さもさることながら、
オリヴァー・サイクスが来ていたTシャツに驚かされることとなった。

 

 

 

既にご存じの方もかなりいると思うが、ヴォーカルのオリヴァー・サイクスが、
なんとBABYMETALのWorld Tour 2015のTシャツを身に着けていたのである。
一体こんなこと、誰が予測できたであろう。
僕は最初すぐには気づかなかったのだが、それがBABYMETALのTシャツだとわかってからは、
少しでもステージに近づこうと、必死に人の波(それも大波)の中を掻き分けていった。
そして少し近づいた場所から彼らのライブを堪能した。
彼らのステージングと演出効果、人気の高さは、Royal Bloodのそれを凌駕していた。
ライブ① ライブ② ライブ③ ライブ④

 

Bring Me the Horizonは好きなバンドだ。
ただ彼らの音楽は、音源を聴くのではなく、ライブを生で観て楽しむものだと実感した。
観客だけで大声で歌ってるシーンがとても多く、それがまた盛り上がりに繋がって、
大きな感動を呼び起こしている。
数万規模の大観衆が一斉に合唱いるシーンは本当に鳥肌ものだった。

BABYMETALには現状、RoRのシンガロング、ギミチョコのC&Rくらい(ウキミは掛け声)しか
観客が一斉に声を上げるところはないが、たとえばチャントのように、
観客が一緒になってゆっくり大声で唄える曲があるといいのになと思った次第だった。
歌詞は日本語でもそこだけ英語みないな曲があればさらにライブの一体感は生まれると思う。

 

 

 

そして本日大トリのMETALLICAは、それはもう圧巻のステージだった。
オープニングの「続・夕陽のガンマン」の音と映像が流れた時点でおそらく今日いちの盛り上がり。
そもそもまず音圧が相当にヤバい。
他のバンドとは比較できないほどのレベルだった。
そして彼らのライブを観ながら、少しばかり羨むことになる。
ああ、この音圧レベルで神バンドに演奏させてもらえればどんなに素晴らしいかと考えた。
今はまだお客様の立場として海外フェスに参加しているから、
運営側の定める既定の音量レベルを守っているようだけど、
そのうち慣れてくれば、他の海外バンドの多くがそうしているように、
暗黙の了解で規定を破り、大音量のサウンドで是非ともライブを行ってほしい。
心からそう思いつつ、「Battery」を観終えてから、僕はその場を離れた。
本当はまだまだこの幸せな空間の中に身を置いていたかったけれど、そうもいかない。
初めて訪れたレディングの地での「Reading Festival 2015」。
僕は様々な感情に浸り、多くの感動を得た。
生涯忘れることのできない日となったことは言うに及ばず。
大いなる余韻を残し、僕の今回の海外遠征は終了した。

 

 

フェス会場の出口に向かう。
歩きながら僕は今日一日を振り返る。
やはり一番触れずにはいられないのはBABYMETALについてだ。

 

BABYMETALはここレディングの地でまた新たな伝説を築き上げた。
その真新しさで、メタルをあまり聴かない層へ波及効果を及ぼしたことは間違いないだろう。
しかし彼女たちの躍進だけに目を向けた先験的意識以外の観念で見れば、
彼女たちを中心とした新風が巻き起こっているという現象も若干ながら感じ取ることができた。
そちらの方が僕にとっては大きい。大変意義がある。
大局的な視点で世界の音楽業界を見渡せば、やはりBABYMETALの音楽は斬新で革新的だ。

 

それはロックが何たるかを知るこの国の雑誌やメディアの扱いからも汲み取れるだろう。
いくつかの賞の授与からは存在の意義を、
歴史的見地から見たメタルミュージックの将来に言及した多くの記事からは、
少なからず彼女たちの今やっていることに対する期待感を読み解くことができるし、
海外ミュージシャンたち、特に若い世代のミュージシャンたちの多様なコメントからは、
彼らに何かしらの刺激や影響を与えていることも推知することができる。
メディアや音楽業界においては、物珍しさで彼女たちを図る時期はとうに過ぎ去っているのだ。
だからこれからもしばらくは、BABYMETALは意義深い注目のアーティストとして
世界各国のフェスから招待され続けていくのだろうし、
そして噂の彼女たちのライブを一目観ようと、ミュージシャンからメディアの人間まで
大挙として舞台袖に押し寄せることだろう。
今日のReading Festivalのメインステージがまさにそうであったように。

 

BABYMETALのライブは、何十、何百と観ようが価値がある。毎回違った感動を覚えるからだ。
それは楽曲や演奏力のクオリティの高さによって享受される面もあるが、
やはり彼女たち3人が魅せるライブパフォーマンスの質の高さに依るところのほうが遥かに大きい。
なのにまだまだ彼女たちは、生のライブを通じて発展途上にあるのだ。
今日のライブでは煽りの進化も見られたが、
今後はさらにステージングそのものが良くなっていくだろう。
そして繰り返し僕たちに感動を与え続けてくれるのだ。

 

翌日の「Leeds Festival」は、残念ながら仕事で帰国せねばならず行けなかったのだが、
彼女たちのステージをMETALLICAやBring Me the Horizonの面々が横から観ていたようだ。
さらに別の日では、All Time Lowのヴォーカル、アレックス・ガスカースが、
オリヴァー・サイクス同様、BABYMETALのTシャツを着てステージに上がったらしい。
そして各メディアからは絶賛の声の嵐。
これまでのTeamRockやKerrang! ばかりではなく、スポンサーとしての体裁もあるのだろうが、
BBCやNMEといった影響力の高い老舗メディアまでもが彼女たちを大きく取り上げている。
この状況はもう、イギリスが、国全体が、
両手を広げてBABYMETALを歓迎していると言っても過言ではないだろう。
今日一日で、BABYMETAL TEEを着た僕に声をかけてきたイギリス人の数は二十を下らなかった。
加速度的に彼女たちの知名度が上がっているのを実感することができた。

 

将来、BABYMETALが世界的なスーパースターになるとしたら、
いや、個人的にはそうなるであろうと確信しているのだが、
今回の「Reading and Leeds Festivals」はその道程の分岐点であったように思う。
最終的にそういう印象を抱かずにはいられない一日となった。

 

さくら学院のサブユニットとして活動していた頃から時代は移ろい、
彼女たちの見つめる世界は視点も視座も大きく変わった。
数年前、半ば憧れの境地で語ったと思われるWorld Tour。
いろいろな国に行ってライブをやってBABYMETALを知ってもらえたらと初々しく語っていたが、
今やそれは明瞭な現実のストーリーとして絶賛驀進中である。

 

もし、彼女たちのやっていることに、まだ疑いを抱いている人がいるとしたら、
音楽は世界中すべての人々を幸せな気持ちにさせるということに、
そこにジャンルの違いは関係ないことに、人種や言葉の壁もないことに、
疑いを抱いている人がいるとしたら、今日がその答えだ。

 

彼女たちがステージ上で放つ、目が眩むほどの輝きは、
決して色褪せることなく、これからも世界中の人々に笑顔をもたらし続けてゆくだろう。
年齢や性別、もちろん肌の色の違いなども関係なく、
それは彼女たちがこの世界に存在する限り、未来永劫続いていくのだろう。
彼女たちのライブ中にあちらこちらで見かけた、幸せそうな人々の笑顔を見るたびに、
僕は、筆致に尽くしがたい感銘を覚えずにはいられなかった。
だけど一番印象に残っている笑顔と言えば、それはやはり、
確かな手応えを得て袖にはけていく、満足感漂うBABYMETALの3人の爽やかな笑顔と、
その彼女たちを憧憬の眼差しで見つめながら微笑みを湛えている美しいエミリーの横顔だ。

 

前例がないから、彼女たちのライブはウケるのだ。
そう言う方がいる。もっともだ。
でも前例がないから、彼女たちはもがき続けながら進むべき道を常に模索している。
生みの苦しみを抱え込んでいることは想像に難なくない。

 

自分を信じ、これからも道無き道を突き進め。
Believe in yourself。Go on your way!

 

彼女たちのREAL METAL RESISTANCEの物語はまだ佳境へと入ってはいない。
本領発揮はこれからだ。
BABYMETALをまだ体感したことがない方は今のうちから心の準備をしておいたほうがよい。
頭の中で思考の回路がショートしたって僕は知らないから。

 

 

低廻の果てに、僕は意を決める。
満ち足るを知り、会場を後にする。
つまるところ人間の行動原理というものは
すべて何らかの欲の追求に集積されているのかもしれない。
そして欲望のままに彼女たちを異国の地まで追い、その雄姿を目に焼きつけたことで、
僕は自分の人生に大きな意味を見い出すことができた。
今日の光景を見るために僕はこの世に生を受けた、そんな大層な感情表現に浸れるほど、
凡庸で何の輝きも放たなかったこれまでの人生に光彩を散りばめることができた。

 

BABYMETALがこの世に存在していなかったら、レディングに来る日は訪れなかったことだろう。
だからこの地へ連れてきてくれた彼女たちに対しては、いつまでも心に喜悦を禁じ得ない。
彼女たちが活動を続けるうちは、そのはっきりとした欲望のために、僕は一生を捧げる。
周りから嘲笑の的にされようが構いやしない。
その仰々しさを笑う者は、これもまた畢竟、人生に対する路傍の人にすぎないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。
帰国便に乗り、夕方成田へ降り立つと、すぐに現実に引き戻された。
明日は出社かと思うと嫌でも上司の顔が浮かぶ。なんだかまた腹が立ってきた。

 

僕は憂さ晴らしに上司の携帯電話へフリーメールで
「突然ですが友達になって。女子大生より」 とメールを送る。
すると1分もしないうちに「僕は医大生。よろしく」と返信がきた。

 

普段は仏頂面のくせに相変わらずなんて変わり身の早い野郎だ。
そう呆れたところでふと思いついた。

 

――はっ、そうか。
代わりがあればいいのか……。

 

帰りにドンキによってそれを購入すると、その翌日、すぐにそれを上司に渡す。
旅を通じ、僕は「強い男」がどういうものか、わかったのだ。
それは腕力のことではなく、誰に対しても優しく接することができる人のことをいうのだ。
「これ、おみやげです」と言って僕が上司に渡したのは、予備のためのカツラだった。
モハメド・アリもびっくりのアフロヘアの代物だ。

 

 

 

 

 

―追記―

最後に私事で大変恐縮なのですが、この場を借りて御礼を申し上げさせていただきます。
実は自分は、若い頃の事故で負ったむち打ちの影響で、体の調子は今もよくなく、
体調のあまりよくない日と体調のとてもよくない日を繰り返し過ごしています。
そんな体ですから、なるべく人とは一緒にならないように、だいたいいつも1人でいます。
なぜなら他人への意識がすぐに散漫になってしまい、申し訳なく思うからです。
なので今回の海外遠征もほぼ一人での行動だったのですが、行く先々で、
心優しい日本から来たメイトの方々に何度か助けていただきました。
フランクフルトの中央駅で、親切にも車号ナンバーを教えていただいたお二人、
おかげさまで無事に席を見つけ、ベルリンまで向かうことができました。
フランクフルトのライブでよくわかっていない自分にVIP番号を割り振って説明してくれた方、
おかげさまで優先入場がちゃんとできてライブを近くで楽しむことができました。
ヒースロー空港からレディング行きのバスがどれかわからなくて右往左往している時、
親切にも乗車バスを教えてくれた方、この方には帰りのバスでも助けてもらいました。
おかげさまで前日の20時までに無事チケットを引きかえることができました。
そしてリアルタイムでツイッターで絡んでくれた、日本にいたメイトの複数の方々、
おかげさまで旅はほぼ一人でしたが、一人旅の寂しさを感じたことは一度もありませんでした。
本当にありがたかったです。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

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