BABYMETAL 海外 グラスゴー ライブレポート

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1.

“ Fair is foul, and foul is fair.
Hover through the fog and filthy air. ”
(きれいは汚い、汚いはきれい
飛んで行こう、よどんだ空気と霧の中)

 

約5年振りとなるRED HOT CHILI PEPPERSのUKツアー。
そのツアーの8公演に、BABYMETALがゲストで参加する。
ロンドンのO2アリーナやマンチェスターアリーナはいずれ単独ライブを行うような気がしたから、
お楽しみはその時まで取っておこうと思い、グラスゴー公演を観に行くことに決めたのだけれど、
BABYMETALの海外公演を観に行く目的のひとつに、海外旅行も兼ねる、という思惑があった。
その観点で考えた時、スコットランドは、機会があれば訪れたいと思っていた候補地だったから、
レッチリ公式サイトの先行でチケットを買った時には一石二鳥だと気を良くしたものだった。
そうしてスコットランド行きを決め、彼の地に思いを馳せた時、ふと想起されたのが上記の一節。
伊坂幸太郎の小説「あるキング」のサブテキストにもなっている有名な戯曲の一節である。

 

言わずと知れた、中世イングランドの劇作家・詩人であるウィリアム・シェイクスピア。
彼が遺した四大悲劇の中でも最高傑作との声価の高い戯曲「マクベス」。
将軍マクベスが、妻と謀ってスコットランド王ダンカンを暗殺し、その後王位に就くが、
やがて夫人は狂死し、マクベスもまた死者の亡霊に苛まされ、結局はダンカンの息子マルカムと、
自らが迫害したマクダフ将軍の手によって殺されてしまう。
自分の犯した罪(王の殺害)に対して徐々に呵責に苛まされていき、
必死の葛藤を重ねてゆくところにこの悲劇の本質があるが、
マクベスを悲劇へと導いたのはほかでもない、冒頭のセリフを吐いた3人の魔女たち。
マクベスは、突如現れたこの魔女たちの予言を鵜呑みにしたがために身を滅ぼしてしまうのだ。
ちなみにマクベスは実在のスコットランド王マクベス(在位1040年~1057年)がモデルである。

 

 

 

仮に時間に余裕があれば、「マクベス」のゆかりの地であるインヴァネス城や、
インヴァネス近くのコーダー城を観光してまわりたいところだけど、
今回のタイトなスケジュールではそういうわけにもいかなかった。
チャールズ・レニー・マッキントッシュデザインの建築物が立ち並ぶアーケードを歩きながら、
僕はひとり、はるばるやって来た遠い異国の数奇な歴史について思考を巡らせる。

 

 

 

スコットランドの歴史とは、すなわち、南の隣国イングランドとの争いの歴史である。
9世紀のスコットランド王国成立後、11世紀から14世紀にかけて両国間の激しい争いは続いた。
そうして紆余曲折があったのち、1707年の連合法(Act of Union)によって、
同じ君主を冠しつつも別々の王国であったイングランド王国とスコットランド王国は合邦し、
グレートブリテン王国が成立するに至った。今から約300年前のことである。

 

 

 

スコットランドの首都はエディンバラだけど、最大の都市はグラスゴーである。
スコットランドにおけるエディンバラが観光と文化の中心なら、ここグラスゴーは産業の中心。
以前は造船業などで栄え、ロンドン、パリ、ベルリンと並ぶ大都市として名を連ねていた。
しかし戦後の脱工業化によってその面影が薄れていくと、やがて貧困と犯罪の街と化した。
「芸術・文化」都市としての再起を図り、改革や再開発を進めたのは1980年代に入ってから。
そして1990年に「EU文化都市」に指定されると、それ以降は、
古き良きイギリスの外観と、新しくてクールな文化の共存する都市へと変貌を遂げていった。
そんな歴史があるからだろうか、街中を散策した上でのグラスゴーの第一印象はさほどに重い。
歴史の古い欧州にそういうところは山ほどあるし、英国でも似たような感じを受ける所もある。
だがしかし、グラスゴー中心部で立って受ける重さ の印象には得も言われぬ独特なものがある。

 

 

 

市の中心部にあるジョージア・スクエアは市民の憩いの場となっている。
市庁舎の前には、スコットランド人の探検家デイヴィッド・リヴィングストンの像が建っている。
1856年、彼はヨーロッパ人で初めて、当時「暗黒大陸」と呼ばれていたアフリカ大陸を横断した。
現地の状況を本国へ報告し、アフリカでの奴隷解放へ向けて尽力した英雄として祀られている。

 

 

 

ブキャナン通りを進み、ホテルのチェックインを済ませると、僕はすぐに最寄駅へ向かった。
目と鼻の先にあるグラスゴー・セントラル・ステーションの駅舎へ入る。
券売機で会場最寄駅までの切符を購入する。
約10分後、スコットレールが運営するレトロな列車に乗車する。

 

今からライブを観に行くというのに、意識は未だ街の風景に向いている。
車窓から覗く街並みを眺めていると、ふとケン・ローチ監督作品の「天使の分け前」を想起した。
明日、時間に余裕があれば、スコッチウィスキー博物館に立ち寄ってみよう。
ええっと、「まっさん」に登場するエリーはどこの町の出身だったかな――。
かりそめの情に囚われている僕は、この国を探求する心持ちのまま列車に揺られ続けたのだった。

 

 

 

 

2.

 

最寄りのエキシビションセンター駅へ到着したのは16時を過ぎたあたりだった。
駅舎を出ると、すぐにTHE SEE HYDROの建物が目についた。
今宵、BABYMETALとRED HOT CHILI PEPPERSがライブを行う会場だ。
Box officeでチケットを受け取ると、僕は17時過ぎにスタンディング列の最後尾に並ぶ。
先頭付近にはいるようだが、ざっと見た限り、僕の周りには日本人らしき人はいないようだった。

 

今回、BABYMETALがRED HOT CHILI PEPPERSのUKツアーに帯同することになったのは、
今年7月のフジロックフェスティバルで両バンドが共演したことが発端なのは周知のとおりである。
イギリスのラジオ局「Radio X」のインタビューで、RED HOT CHILI PEPPERSのフリーは、
BABYMETALとツアーを行うことについて今からワクワクしていると明かした。

参照:ハワイとプログレとBABYMETAL様

 

このフリーの発言を鑑みると、改めてBABYMETALは唯一無二の存在なのだと思い知る。
メタルとダンスで愉悦を覚える体験は、彼女たちが現れるまで誰も経験したことがなかった。
これが仮に、思わず耳目を塞いでしまうほどのひどい組み合わせであったならば、
誰もが一過性のギミックだとして捨て去り、一切記憶に留まることはなかっただろう。
しかしながら、我がBABYMETALは、ビジュアルも含めてすべてが高レベルであるから、
初めて観た人からすると堪ったものではない。 “ いったこれは何だ? ” と混乱を来たしてしまう。
フリーが発した、 “ どんどん珍しくなっているユニークな感情を得る ” という表現は、
BABYMETALの斬新さに対する、彼ならではの最上の褒め言葉であるように思う。

 

今夜のライブにキツネ(海外メイトの呼称)たちがどれほど押し寄せてくるのかはわからない。
わかっているのは、周りにいるほとんどの観客はイギリスのペッパーズファンであるということ。
そんな彼らは、初めてBABYMETAのライブを生で観て、いったいどういった印象を抱くだろうか。
終始眉の上に困惑を乗せて忌み嫌うだろうか。
それともフリーのように「何じゃこりゃーみたいな感じだったんだよ!」と驚嘆するのだろうか。
いずれにせよ、初見の人たちに大きなインパクトを与えることは間違いない。
そしてその中の何割かは、その後BABYMETALに興味を抱くことになるだろう。
過去に観た Reading Festivals の後の状況もそうだった。Download Festival の時もまた然り。
フェスに参戦するたび、彼女たちは、そのユニークさで新規のファンを獲得し続けてきた。
だからご多分に漏れず今回も、新たなキツネが生まれることは確実だと思われる。

 

やがて開場時刻となり入場する。
3年前に落成されただけあって館内はどこもかしこも綺麗だった。
僕はクロークに荷物を預けると、やや緊張した面持ちでアリーナの中へ入っていった。
スタンディングエリアの中団やや前方まで歩を進める。
立ち止まり、ぐりると周りを見回すと、美しい光景に思わず感嘆の声が漏れた。
外観も素晴らしかったが、内観もそれに勝るとも劣らなかった。
最大キャパ13,000人の巨大な円形劇場は壮観としか言いようがない。
僕は大きく深呼吸をし、目が合った異国の人たちと小さく会釈をする。
ここに至ってようやく、外国人に囲まれている状況を楽しむ余裕が生まれつつあった。

 

RED HOT CHILI PEPPERSのライブは午後20時半の開演予定。
前座を務めるBABYMETALは、果たして何時頃に登場するのか。
先のO2アリーナ公演に倣うならば、開場1時間後に登場し、40分程ライブを行うのだろう。
開演まで残り10分を切ったあたりでふと周囲を見渡す
やはり今日も客の出足は芳しくないようだ。
アリーナは半分弱。スタンドに至っては2割ほどしか埋まっていない。
しかしBABYMETALのライブ中にはどんどん人は入ってくるのだろう。
遅れてきた人たちの度胆を抜く、そういった渾身のパフォーマンスを披露してほしい。
ざわつきを全身に浴びながら、僕はその時が来るのをそわそわしながら待ち続けた。

 

 

 

 

3.

セットリスト

01 BABYMETAL DEATH
02 あわだまフィーバー
03 Catch me if you can
04 メギツネ
05 ギミチョコ!!
06 KARATE

 

やがて定刻となり、暗転する。
前方で歓声は上がっているが、眼前にいる長身の男性を除くと、僕の周りは静観したままだった。
周囲にいる人々は明らかにペッパーズのファンたち。
しかしそんな静かだった彼らも、BABYMETALの3人が登場すると歓声を上げた。
ウェルカムモードでいることにひとまずホッとする。

 

神バンドの締まった音がホールに響く。轟音だ。
この「BABYMETAL DEATH」の重低音は想定していなかったのだろう、
若干ではあるが、周囲からどよめきが起こった。
初見のほとんどの人たちは顔中に驚嘆の色を浮かべ、食い入るようにステージを眺めている。

 

フロントの3人が真剣な表情で両手を上げる。
SU-METALは、腕を動かしている時も、静止してポーズを決めている時も、
鋭い視線を何度も四方へ投げていた。
観客の入り、ノリ、熱量。そういったものを冷静に分析しているのだろう。
こういった彼女の仕草や行為は過去に何度か目にしてきたが、
そのたびに僕は、彼女の肝っ玉の太さに感心せずにはいられない。

 

僕は「DEATH! DEATH!」と大声で叫び、ジャンプを繰り返した。
目の前にいる長身のキツネが一緒にジャンプしていなかったら、僕はかなり浮いていただろう。
やがて曲が終わると、降って沸いたような歓声が周囲から上がった。
1曲目としては上々の出来かもしれない。
そして「BABYMETAL DEATH」とは対極ともいえる、
アッパーチューンのナンバー「あわだまフィーバー」へとライブは続いていった。

 

前曲とは一転して3人が楽しそうに踊る。
周囲の人たちの反応はまだ鈍い。単純に1曲目とのギャップに驚いているのだろう。
僕は「Ah Yeah!」に合わせて大きくジャンプする。
周りの中で飛んでいるのは僕だけで、飛ぶたびに若干の羞恥心が沸いてきたが、
それが僕の心に躊躇いを生むことはなかった。
僕は嬉々として何度も飛び跳ねる。

 

SU-METALの声の調子はすこぶる良い。
MOAMETALもYUIMETALも笑顔を振りまいて踊っている。
あわだまダンスをする人はほとんど皆無だったが、
曲が終わると、ここでも大きな歓声が起こった。
メタルのヘビーな楽曲に合わせて歌って踊る。
BABYMETALがどんなアクトなのかは完全に理解しているようだった。

 

3人が一旦袖にハケ、神バンドの面々がお立ち台に上がる。
これでもかといった具合に、ギターの神もベースの神も気持ちのこもった演奏を披露する。
“ ハイ! ハイ! ” と声を張って3人が登場してくると再び歓声が上がった。
少しずつではあるが、「Catch me if you can」の陽気な演目が観客たちに変化を及ぼしている。
前2曲よりも体を揺らし始める人たちが増えてきたのは一目瞭然だった。

 

やがて間奏となり、“ wow wow ”のコール&レスポンスが始まる。
レスポンスを返す人はそれなりにいるようだ。
しかしまだまだ全員が完全に乗っているというわけではなく、
手を上げて体を揺らす人の割合は半分にも満たっていない。
ただ地蔵の人たちは、決してステージから視線を外そうとはしていなかった。
興味を示しているのは間違いなさそうだ。

 

続いて「メギツネ」が始まる。
両手を上げて “ オイオイ ” コールをしているのは、周りでは僕だけだった。
3人が和風の衣装を身に纏って袖から再登場してくる。
観客たちは興味津々といった具合に3人を凝視している。
やがて轟音が響き、曲が始まるが、最前付近以外の人たちは微動だにしなかった。
ノリ方がよく分からないからただじっとステージを見つめている、彼らからそんな印象を受けた。

 

やがて間奏に入り、メギツネジャンプが始まる。
飛んでいる客の数は多くはないが、体を上下に動かしている人はちらほらいた。
曲が進むに連れ、次第に彼女たちのステージに引き込まれているのだろう。
観客の多くは、一時も目が離せないといった具合にステージをガン見していた。

 

曲はそのまま「KARATE」へと続く。
イントロが奏でられると、楽曲に乗り始める人たちが少し増えてきた。
地蔵のままの人は、ダンスからは目が離せないといった按配なのかもしれない。
ふと笑顔で会話をする人が視界に入る。
彼らは「この曲いいね」とでも言っているように頷きながら体を揺らしていた。

 

やがて途中のC&Rへ。
SU-METALが流暢な英語で “ 声を聞かせて ” と訴えればそれに応じる観客たち。
反応を示す人たちの数はこれまでで一番多くなっていた。
じわじわと観客たちの心に刺さっているのだろう。
その後の “ エブリバディジャンプ” でも飛んでいる人の数はこれまでよりも確実に増えていた。

 

最後の「ギミチョコ!!」が始まる頃には随分と場の空気は温まっていた。
独特のリズムに合わせて体を動かしている人も増えてきている。
途中の “ チョコレートチョコレート ” コールにレスを返す人も多くなっていた。
そして曲が終わると、集まっていた人たちは彼女たちへ賛辞の拍手を送ったのだった。

 

“ We are BABYMETAL ” コールが続く。
恒例の “ 3 2 1 ” で締めると、ここまでで今日イチの歓声が上がった。
SU-METALが “ この後はRED HOT CHILI PEPPERSの時間 ” と叫ぶとさらなる歓声が沸く。
そして3人が “ SEE YOU ” と言って去っていってもしばらく拍手と歓声は鳴り続けたのだった。
前座としては100点満点だろう。
これだけ場内を沸かせれば、RED HOT CHILI PEPPERSのライブが始まっても、
既に熱を帯びた観客たちはすぐにライブにのめり込んでいけるはずだ。
彼女たち3人と神バンドは、メインアクトが登場してくるまでに、
“ 場内の雰囲気を作り上げる ” という前座の務めを立派に果たしたのだった。

 

僕はほとんど場所を移動せず、そのまま待ち続ける。
前座のBABYMETALのライブが終わってから約30分後、
メインアクトのRED HOT CHILI PEPPERSのライブが遂に始まる。
彼らが本日の主役であることは、会場全体でドッと沸いた歓声が物語っている。
UKの単独ライブは数年振りなので、観客たちもこの日が来るのをずっと待っていたのだろう。

 

初っ端のジャムセッションから場内は早くもオーバーヒート。
1曲目の「Can’t Stop」からアリーナ中が興奮の坩堝と化している。
結局彼らは、約2時間半の間に、アンコールを含む18曲を披露した。
新譜はだいぶ聴き込んでいたから、すべての曲が知っている曲ばかりだった。

 

彼らのライブで特に印象的だったのは、曲間に行った数々のジャムセッション。
その中でもとりわけ「Californication」の前後に行ったセッションは強烈だった。
フリーとジョシュ、それにチャド絡んでくるそれは否応なく強い陶酔感を生んでいる。

 

「Dani California」では気分は最高に高揚し、ジャムからの「Dark Necessities」に酔いしれる。
「Higher Ground」でも再び陶酔し、「Under the Bridge」では大声で歌った。
そして「By the Way」での合唱では感激し、思わず感涙してしまったのだった。
その他にも「Me & My Friends」や「Goodbye Angels」、それから「Give It Away」――。
フルシアンテの “ 泣きのギター ” を聴けないことを嘆くのはあまりにも野暮だと思えるほどに、
往年のヒット曲や生で観たかった曲も聴けて大満足のライブとなった。
そして午後23時過ぎ、僕は興奮したまま会場を後にする。
宿までは駅2つなので、大いなる余韻に浸りながら クライド川沿い をゆっくり歩いて帰った。

 

帰路の途中、僕は今夜のBABYMETALのライブを振り返る。
国内のライブ同様、ここスコットランドでも、
3人は終始笑みを零して心底ライブを楽しんでいるようだった。
パフォーマンスは申し分なく、アリーナの新規の客もある程度盛り上がっていた。
彼女たちにとって今回のツアーは間違いなく大きな糧となったことだろう。

 

「光栄なことにレッド・ホット・チリ・ペッパーズのメンバーからお声がけをいただいて
実現することになったツアーですが、ワールドクラスのアーティストとアリーナツアーを
回らせていただけるチャンスはなかなかない貴重な体験になると思います」

 

PMCのメールインタビューで、今回のツアーについてKOBAMETALはそう回答していたが、
BABYMETALの3人は、ウェンブリー・アリーナよりも規模の大きなステージに連日立つことで、
また大きなモチベーションや目標を持ったに違いない。
そうして得た経験を今後のライブに生かし、来年度のツアーはさらにパワーアップするだろう。
そのうち幾つのライブに参戦できるのかはわからないが、今からもう楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

4.

 

翌日。
次のライブ会場の地であるバーミンガムへはすぐには移動せず、僕はエディンバラへ立ち寄る。
折角スコットランドまで来ているのだから、州都まで足を延ばさない手はない。
午前8時過ぎ、グラスゴー・クイーンストリート駅で列車に乗り込む。
それから約1時間後、エディンバラ・ウェーバリー駅に降り立つや否や、僕は思わず息を呑んだ。
タイムトリップをしたのかと錯覚するほどに異国の情緒が周辺に万遍なく溢れていたからだった。

 

 

 

エディンバラの滞在時間はだいたい6時間ほど。
観光ルートはあらかじめ決めてあったので僕はすぐに移動を始める。
駅の北口を出ると、すぐにカールトンヒルに向かい、そこから街を一望する。
中世の面影をそのまま残したノスタルジックな街並みに、しばし目も心も奪われる。

 

 

 

次にホーリールードハス宮殿へ向かい、旧市街地を西に進む。
途中、児童博物館セント・ジャイルズ大聖堂などを見学する。
スコッチウィスキー・エクスペリエンスに立ち寄った後は、満を持してエディンバラ城へ向かう。
さすがに人気のスポットだけあって、昼間から多国籍の人々が観光に訪れている。

 

 

 

スコットランドが、「ハリー・ポッター」の原作のモデルであり、
映画のモデルにもなっている場所であることは知る人ぞ知るところである。
その中でもエディンバラ城は有名で、原作のホグワーツ魔法魔術学校のモデルの城とされている。

 

 

 

上空を眺めていると、魔術学校の生徒たちがクィディッチで競う光景がぼんやりと思い出された。
近くにいるガタイの良い髭面の男性は、見ようによってはハグリッドに見えないこともない。
しばらくそこに滞在し、風景を目一杯記憶に留めると、僕は再び旧市街地へ戻った。
次なる目的地は、ハリポタファンならお馴染みのあの場所だ。
来た道を戻り、ジョージⅣ橋通りを5分ほど歩くとスコットランド国立博物館が見えてくる。
その手前、アウグスチヌス統一教会の向かいにあるお店が目的地だ。

 

 

 

ハリポタシリーズの作者J.K.ローリングは、1作目である「ハリー・ポッターと賢者の石」を、
エディンバラ市内にあるカフェ「エレファントハウス」の店内で執筆した。
世界遺産に登録されているこの美しい街を、彼女は自分の作品の中にふんだんに詰め込んでいる。

 

 

 

畏敬の念を抱いたまま、伝説のショップを眺めているときだった。
先月のLoGiRLで、中等部2年の岡田愛が、
「ハリー・ポッターと賢者の石」をおすすめの映画として紹介していたことをふと思い出した。
それから少しして、僕は思わずプッと噴き出しそうになった。
なぜならば、無意識に中元すず香がTVでその映画を観ているところを想像したからだった。
彼女はそこでも「あっ、ハリーさんだ!」と叫んで画面を指差していた。
確かに “ はたき ” ではないから、今回は間違ってはいないけど、でも、
いくらなんでも少年を見てそんなことを口走るはずが……、いや、ひょっとすると彼女なら――。

 

僕は口元に笑みを湛えたまま周囲を見渡す。
移動の時間が差し迫っていることもあり、やがて踵を返す。
ぼんやりと物思いに耽りながら駅へ向かう。
「ハリー・ポッター」シリーズや、冒頭の「マクベス」からもわかるように、
ヨーロッパ各国における「魔法使い」や「魔女」の俗信は計り知れず、
ここ英国でも、古くからそれらが登場する戯曲や小説、寓話等は多数存在している。
そして「魔法使い」や「魔女」の起源を辿っていくと「北欧神話」へ繋がっていくケースがある。

 

キリスト教化される前のノース人の信仰に基づく神話である「北欧神話」。
その「北欧神話」の中に、運命を定める女神たちである「ノルン」が登場する。
ノルンとは、ウルズ、ヴェルダンディ、スクルドの三姉妹を意味することが通説となっている。
また、ウルドは「運命」、ヴェルダンディは「必然」、スクルドは「存在」を意味し、
現代ではそれぞれを「過去、現在、未来」というふうに解釈するのが一般的である。
またこの3姉妹に運命を変える力はなく、予言はできるが、成り行きを見守るだけとされている。
つまり「マクベス」に登場してくる3人の魔女はこの「ノルン」が起源であるとみなされている。

 

この「マクベス」に登場する3人の魔女と重ね合わせるつもりはさらさらないが、
時折、BABYMETALの3人は、ある種魔法を使っているのではないかと思うときがある。
それは主に、豪華な舞台セットとレーザーによるアリーナクラスのライブ中に感じるのだけれど、
無意識のうちに “ 彼女たちが作り出す夢の世界を眺めているような錯覚 ” に陥ってしまうのだ。
そういった経験をされた方は、僕以外にも、意外と多いのではないだろうか。
いつだってBABYMETALのライブは、始まれば瞬時にして観る者を非現実の世界へと誘うが、
ライブが続いている間は、まるで魔法でもかけられているような不思議な感覚に包まれる。
おそらくは熱中するあまり没入感や陶酔感がより深まり、そういった感覚を覚えるのだろう。

 

もっとも、BABYMETALの3人は魔女でも魔法使いでもないから、
彼女たちが持ち合わせているのは魔力ではなく魅力であり、運命の予言をすることもない。
しかれども、こんな遠い異国の、それもキャパ一万オーバーのあれだけの大きな会場で、
日本人アーティストがライブを行うこと自体、これまでは夢のような話であったから、
この魔法にでもかかったような素敵な時を、淡い夢を、今しばらくは見続けることにしよう。
そんな思いに馳せながら、僕はバーミンガム行きの急行列車に乗り込んだ。
これから4時間強の列車の旅。
目的地であるバーミンガム・ニューストリート駅に着くのは午後21時頃の予定。
束の間のひと時だったが、今日見たエディンバラの街並みを僕は一生忘れることはないだろう。

 

予約してあった座席を見つけ、着座する。
大きく息を吐いて気持ちを落ち着ける。
“ Now is the time! Is the time!今この瞬間を ”
不意に頭の中で「Road of Resistance」のメロディが流れてきたのはそのときだ。
“ Is the time!  Is the time!共に生きる ”
僕は小さく首を振りながら口ずさむ。

 

その直後、ハッとした。
今この瞬間を共に生きる――?
ああ、そうなんだよ、と僕は唇をギュッと噛む。
共に生きる――本当に素晴らしいことだと思う。
生涯、その日が何日あるのかはわからないけれども、
天国へ持っていけるかけがえのない日々であることは間違いない。

 

過去、現在、未来――。
BABYMETALの3人は、自分たちで運命を切り開いていくだけの強さを具えている。
これまでがそうだった。そしてこれからも、3人で力を合わせて打開していくのだろう。
そうやって彼女たちがまた新たな道を切り開いていくシーンを、
可能な範囲で、僕は真摯に見届けていきたい。
そしてその思い出さえあれば、いつの日か大往生を遂げることができるだろう。

 

そんなことを考えながら僕はうっすら目を閉じた。
すると、瞼の裏に、BABYMETALの3人が魔法のホウキに乗って空を飛んでいく光景が浮かんだ。
おそらくは今しがた「ハリー・ポッター」の世界を満喫していたから、
無意識の内に想像してしまったのだろう。
それにしても3人とも楽しそうだ。おしゃべりしながら笑顔で飛行している。
僕は目を閉じたまま口元に笑みを湛える。
内心で、“ 君たちなら世界中どこにだって飛んで行けるさ ” と声をかける。
そうして笑顔で飛んでいく3人の姿を、自分の世界に浸りながらずっと目で追いかけていった。
この夢のような幸せな旅が明日以降も続くことに大きな喜びを抱きながら。

 

“ Metal is Justice, and Kawaii is Justice.
Hover Opening up the future of metal. ”
(メタルは正義、カワイイも正義
飛んで行こう、メタルの未来を切り開きながら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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